45.「どうしてそうなった」のオンパレード
きゃんきゃんまとわりついてくるリリアを受け流しながら、馬車が停められているロータリーに向けて歩き出す。
「こっちは、どうだった?」
「みんな、思い出しましたよ。エリ様のこと」
「そっか」
リリアと並んで歩く。
姫巫女様からは「まだみんな忘れているかもしれない」と言われていたので、多少身構えていたのだが……ふっと肩の力が抜ける。
知り合いの夢を巡った時にまったくの他人に向けるような対応をされたが……あれはなかなか堪えた。
戻ってもまたあの対応だったらと思うと胃が痛かったのだ。
いくら直に思い出すからと言われても、気分のいい物ではない。
リリアがぷっくりと頬を膨らませながら私を見上げる。
「大変だったんですからね、ほんとに」
「だから感謝はしてるって」
「西の国まで聖剣借りに行って」
「は?」
聖剣?
思わずリリアの顔を見るが、至って真面目な顔をしている。冗談を言っているわけではない、らしい。
聖剣。聖剣って、あのやたらめったら重いあれか?
それを、借りた?
ダンジョンで出会った聖女信仰の連中はずいぶん大切にしていた。
そうでなくとも歴史的・宗教的に価値のあるもので、扱いとしては国宝のようなものだろう。
それを、借りる?
……どうやって?
「聖剣って、あの……蓄光の?」
「蓄光の」
「借りたの?」
「借りました」
肯定された。
そんなにあっさりで進むことではないと思うのだが。
第一あの聖剣、私でも持ち上げるのが精一杯だったと言うのに、どうやって借りてきたのだろう。
というか何故聖剣を借りてくるような事態になるのか。
もしかして実体化した怨霊をえいやと切り伏せるような大捕物が行われたのだろうか。
世界観が急に浮世絵みたいになっていないか。私もそっちがよかった。
「もしかして君が持ってきたの?」
「いえ、ロベルト殿下と第十三師団の師団長さんが」
「????」
説明をされたはずなのにさらに謎が深まっている気がする。
情報が増えるごとに混迷を極めて行くのは何故なんだ。
どちらも馬鹿力ではあるが、その二人が西の国まで行って平和的に聖剣を借り出してくるヴィジョンがまったくといっていいほど見えなかった。
窃盗の二文字が脳裏に過ぎる。いや、強盗だろうか。
事態が飲み込めない私に、リリアがここまでの経緯を簡単に説明してくれた。
ロベルトをぶん殴ったら記憶が戻ったこと。
私がロベルトにやった土産物のナイフが鍵になったこと。
聖剣が重かったのは、聖女の力が蓄えられていたせいだったこと。
ロベルトも、アイザックも、クリストファーも、王太子殿下も。記憶が戻ったら、協力してくれたこと。
皆の協力があって、聖剣を借りられたこと。
聖剣に聖女力を流し込んで、蓄えられていた力をすべて解放したこと。
それで皆の記憶が戻ったこと。
そしてそれが、つい昨日の出来事だということ。
いや、ちょっと待て。
情報量が多い。
説明を受けた結果として脳内が「どうしてそうなった」のオンパレードだ。
私が留守にしている間に隣国まで巻き込んだとんでもない事態になっていないか?
たかが人間が一人……いや、一応公爵令嬢ではあるが……行方知れずになっただけだぞ?
しかも、その行方不明の人間は私である。
記憶が戻ったなら尚更「あいつならまぁ大丈夫だろう」と放っておくのが正解なのでは。
確かに思い出して欲しいとは言ったが、こんな上を下への大騒ぎになっているのは予想外だ。
せいぜいリリアが親しい人間から順繰りに聖女ビームを浴びせているくらいを想像していたのに、100億倍大ごとになっている。
あとここまでの説明だと十三の師団長は全く記憶が戻っていない状態で西の国に飛んで行って聖剣を担いで帰ってきたことになるが、あの人本当に強さ以外に興味がないのだろうか。
「代わりに年に一回、西の国で聖剣に力を注ぎにいくことになっちゃったので。エリ様も責任とって一緒に来てくださいね」
「何でそんな大ごとに……」
手のひらで両目を覆い、天を仰いだ。
今回の件について、私は巻き込まれた側である。だから私が悪いわけではない。これは声高に主張したい。
だが……リリアにも他のみんなにも、かなりの心配と手間をかけてしまったことは事実のようだ。
リリアのデートしかり、それなりにお礼参りを考えた方がいいのかもしれなかった。
ため息をついて、ふと彼女が一人でここにいることに違和感を覚える。
護衛に誰か連れてきているかと思ったのだが。そうでなくとも、ロベルトあたりはくっついてきそうだ。
そのまま口から疑問を吐き出す。
「君、一人で港まで来たの? よく男爵様が許したね」
「いえ、」
リリアが首を横に振った。
そして顔を上げると、ロータリーの方へ視線を巡らせる。
誰かを見つけたのか、軽く手を振った。
その視線の先を追いかける。
「連れてきてもらったんです」
視線の先に立っていた人物に、目を見開いた。





