43.わたしのだいすきなエリ様(リリア視点)
カッ、と。
聖剣が光を放ちます。
眩い光に、咄嗟に目を瞑ります。
光の奔流に飲まれて、そして全身を包まれて、これが光だけではなくて……聖女の力を帯びたものだということを、肌で感じます。
聖剣から溢れ出たそれは、ものすごい速度で、そして一気に広がっていきました。
わずかな地鳴りと、ごうごうと風の鳴る音。
姿形のないそれが、わたしには知覚できない範囲まで……この国の全土まで、広がっていく。
何も見えないはずなのに、不思議とそれが当然のことのように理解できました。
ふらりと身体が揺らぎます。
ですが、その場に足を踏ん張って……掴んだ聖剣を支えにして、何とかその場に踏みとどまりました。
光と一緒に聖女の力が吸い上げられてしまったみたいで、頭がくらくらします。視界もぼやけて、まるで貧血のような、酸欠のような、それでいて、ひどく眠いような。
深呼吸をしようにも、浅い呼吸が精一杯で、目を開けようにも、瞼がずしりと重たくて。
立っていようにも、足に力が入らなくて。
もう今にも、意識が落っこちそうですけど。
それでもわたしは、叫びました。
情けない声で、裏返った喉で、それでも叫びました。
「みんな、エリ様のこと思い出しました!?」
ぐらぐら揺れてかすみ始める視界で、周囲を見回します。
攻略対象たちが、真面目な顔でわたしを見つめていました。
こうしてみんなに囲まれているのは、何となく友情エンドっぽいな、とか、意識の端っこで思います。
「釣った魚に餌をやらなくて、思わせぶりで、そのくせ鈍くて、平気で嘘ついて、わたしのこと騙して、利用して、」
呼吸が続きません。ぜぇはぁと浅い息を繰り返しながら、それでもわたしは話し続けます。
騎士団の皆さんや、街の人。
みんなが、何も言わずにわたしを見ていました。
「散々心配かけて、振り回して、それでも、やさしくて、かっこよくて、強くて、助けてくれて、支えてくれて、頼りになって――当たり前みたいに、一緒にいてくれて、」
喉がからからです。もうまともに言葉になっているかも怪しいです。
視界にちらりと、見覚えのある人影を見つけます。
ああ、あの人、クラスの子です。
エリ様の親衛隊の。その隣は、確か、訓練場の。
「そういう、超最高の、わたしのだいすきなエリ様のこと!!!! 思い出しました!!??」
しん、と静まり返った広場に、声がしました。
「思い出したよ」
ああ、この声。
誰でしたっけ。聞いたことある気が、するんですけど。
やさしくておだやかで……なのにちょっとだけ、わたしのだいすきなあの人に似ている……この、声は。
「みんな、思い出した。リリアちゃんの、おかげで」
その声に、ふっと、身体から力が抜けます。
へなへなと地べたに崩れ落ちます。
もっとカッコよく、もしくはかわいく、……主人公らしく決められたらよかったのですが、わたしにはこれが限界でした。
青く澄んだ空を仰ぎながら、最後の力を振り絞って、声を上げます。
「なら、よし!!!!!」
そのまま、地面に大の字で倒れました。
ああもう、空っぽです。すっかり使い果たしちゃいました。目を閉じたらこのまま、石畳の上でだって寝てしまえます。
こんなに頑張ったんですから、ドレスの1着や2着では安すぎます。挙式とハネムーン新居付きでお願いしたいです。
ていうか脈々と受け継がれていたっぽい聖剣の力、全部使っちゃいました。
怒られる時はエリ様も一緒に怒られてくださいね。
かすれゆく意識の中で、あの人の瞳の色に似た空を見上げながら……わたしはいつかのエリ様の真似をして、呟きました。
「ざまぁみろ、世界」





