42.わたしは、わたしのために(リリア視点)
西の国から聖剣が届いたのは、王太子殿下のパワハラ謁見からおよそ一週間後でした。
ダイアナ様たちはエリ様のことを覚えていたそうです。どうやらエリ様を切り離そうとする魔法の効果が及んでいるのは、この国だけみたいです。
王太子殿下の信書とダイアナ様の協力があって、アズスーンアズポッシブルで聖剣の貸出許可が降りました。
オマケとして監視役のマリー様とそのアニサマが一緒についてきてしまいましたけども。
目の前にある剣を、見つめます。
ロベルト殿下と第十三師団の師団長さんが代わりばんこに運んで、ここまで来た剣。
とても重くて、わたし一人では到底持ち上げられないこの剣。
ロベルト殿下がそれを、王都の中心、王城近くの広場に突き立てました。
王太子殿下やアイザック様、クリスくん。それに先生にヨウ、十三師団の師団長さん。この件に関わった人たちが皆、固唾を飲んで聖剣を見つめています。
ただごとではない雰囲気に、街の人たちも何事かと集まってきていて、それを騎士団や訓練場の人たちが一定の距離を保つように制御していました。
わたしは聖剣の前に立って、すぅと深呼吸します。
聖剣。
文字通り、聖なる剣です。
つまるところ……聖女の力が、込められた剣。
辺境伯領から戻ったアイザック様が教えてくれました。西の国に伝わる聖剣伝説。
むかしむかし、西の国を大規模な流行病が襲った時。その時の聖女が、聖剣を大地に突き刺しました。そうすると聖なる力が瞬く間に国全土に行き渡り、やがて病は終息した。
その伝説を受けて、西の国では聖女がいるときには、毎年あの聖剣のところまで行って祈りを捧げるのが恒例の儀式になっていたとか。
聖剣は、抜かれるのを待っていたわけではないのです。大地に刺してあることが重要だったのです。
そして病が終息してからも……あの場所で、力を蓄えてきたのでしょう。
きっと、来るべき時のために。
たとえばまた流行病で国中が困った時に……そしてこうして、目には見えない魔法の力によって危機が及んだ時に、それらから国を守るために。
ずっとあそこに置かれていたのです。
何人、何十人、もしかしたら、何百人。
聖女たちが込めた力を蓄えて、どんどんと重たくなって。気楽には動かせないような状態になっても、そこにあり続けた。
だからきっと、わたしの力だけでは、足りなくても。
この剣に宿った聖女の力、すべてを使えば。
剣の柄を握ります。
振る必要はないのです。
ただここに、あればいい。
楔として、この地にあればいいのです。
そしてわたしの、聖女の力。これをトリガーに、聖剣は効力を発揮する。
持てる力の全てを、注ぎ込みます。
聖剣がうすぼんやりと、光を帯び始めました。
でもまだ、足りない。
ナイフに籠った程度の、わたしの一回分くらいなら、少しの力で発動させられました。
ですが、この聖剣はそれとは比べ物にならない力を蓄えているはず。
エリ様と一緒に西の国で見た時……試しに聖女の力を流し込んだ時にも、ほんのりと光っただけでした。
もっと、もっと。
叩き起こすくらいの力でないと、ダメなはず。
わたしが、わたしの力で、わたしの手で。
この国の全員……横っ面を引っ叩いて、エリ様のことを思い出させてやる。
そのぐらいの気持ちで、やらなくちゃ。
北の国の魔女だか、巫女だか怨霊だか、知りませんけど。
わたしは主人公で、大聖女で……真実の愛を、知っている。
その時点で、負けるはずがないんです。
死ぬ気でやって、勝てないはずが、ないんです。
真実の愛は、見返りを求めません。
一方的で、押し付けがましくて、エリ様がどう思ってるかとか、そんなの関係なくて。
エリ様がわたしに振り向いてくれるかとか、本当はあんまり、関係なくて。
だってそんなことで、真実の愛は揺らいだりしないのです。
この愛は、ぜんぶ、全部。
わたしのものです。
わたしだけのものです。
だからこれからすることは、全部全部、わたしのためです。
だってわたし、誰かのために全力を出せるような、大した人間なんかじゃないのです。
自分を犠牲にして誰かを、なんて、そんな主人公みたいなことを考えられる器じゃないのです。
誰かのために、なんて、やっぱりわたしには出来なくて。
わたしは、わたしのために。
わたしのためだけに。
わたしがあの人に、どうだ、って胸を張って会うために。
世界機構だって、何だって、……何度だって、ぶち壊す。





