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青春ってのはな、大人になって思い出した時に、悶絶するくらいがちょうどいいんだよ。
……だから、やりたいようにやれよ。黒歴史を全力で作れよ。時間は待っちゃくれないんだからな。
秋の夜長とはよく言ったものだ。この季節、夏の日の長さが印象強かった分、夜六時くらいで薄暗くなることに若干の戸惑いを感じる。店に来る客も、ダウンだとかコートだとかを着こなす人が目立ち始めた。来る客の服装で季節の変わり目を実感するのも、もしかしたら喫茶店経営の醍醐味かもしれない。
月乃が働きはじめて一ヶ月くらいになっただろうか。スタートダッシュが良かった分、客足も尻すぼみするかと思っていたのだが、そんなことはなかった。
しかし客層には変化があった。今まではカメラ片手のムサイ男ばかりだったが、最近になって女性客も増えてきた。当然ながら、女性客の狙いは俺なんかではないことは言うまでもないだろう。月乃、黎が目的のようだ。女性目線から見れば、二人は“カッコイイ女性”になるらしい。中にはサインまでねだる輩もいたことには驚いた。
日々ちょっとした有名人になっていく二人に反比例し、俺の存在感はどんどん希薄になっていく。しかし今度はそれに反比例して、店の人気は高くなる。
まったくもって、人生とは理不尽なものだ。
「……なにボーッとしてるのよ」
客も落ち着いた閉店一時間前、皿を洗いながらぼんやりと思案に耽っていると、月乃が話しかけてきた。どうやら、よっぽど間抜けな顔をしていたらしい。
「月乃……人生ってのは、理不尽だな……」
「は?」
「いや、何でもない……」
「そ、そう……」
月乃はそれ以上何も聞かなかった。……ていうかおい。その可哀想なモノを見るかのような目は止めれ。
「……なあに二人で盛り上がってるんだよ」
気が付けば、後ろにはジュースを片手に恨めしそうな目をする黎がいた。睨み付けるような目で、俺と月乃の顔を見ている黎。
「おお黎、今日の客はだいぶん落ち着いたぞ。……で? どうしたんだ?」
「どうしたもこうしたも……なんか、最近やけに月乃と仲良いな……」
いつもと違い、はっきりとものを言わない黎は、なんかいつもと違うように感じた。それを見た月乃は、少しだけ勝ち誇った顔をしていた。
「あら黎……“普通のこと”じゃない。それがどうかした?」
黎は、月乃の言葉に眉を顰めた。
「……何だよ月乃、何が言いたいんだよ」
「別に? というより、分からないの?」
「ああ、分からないね……」
険悪なムードを醸し出す二人。
「――こらこら! 喧嘩なら後でしろ! 仕事中だろが……」
二人は俺に視線をやり、少しだけ落ち込んだ表情を見せる。かと思えば、すぐにお互いを睨み合い、プイッと顔を背ける。
(またかよ……)
このところ、この二人の関係に変化があった。何というか、ギスギスしている。……いや、もっと悪い感じだな。前もよく喧嘩していたが、それとは全く違う感じ。高校の時にはなかった、二人の間に深い溝が見えるような……そんな感じだ。
そうだな、ちょうど月乃が戻って来てからくらいかな。……黎、そんなに月乃が来るのが嫌だったのか……
チリリン……
重苦しい雰囲気になっていた店内に、ドアの呼び鈴が鳴り響く。
「………」
「………」
いつもと違い、全く反応した無い二人。今の二人には、笑顔で接客ってのは難しいかもしれない。
「……いらっしゃいませ~」
しょうがなく、俺が対応する。その客は、俺を見るなり近寄ってきた。
「やっ、晴司くん。遊びに来たよ」
片手を上げ爽やかに声をかけてくるのは女性の客。その左手の薬指には、キラリとリングが光る。
「お……いらっしゃい、陽子先輩」
その人物は陽子先輩だった。何というか、助かった気がする。少しだけ心が解された俺は、すぐに先輩が座るカウンター席の前に立つ。
「何にしますか?」
「そうだね………ん?」
メニューを見ていた先輩は、何かに気付く。というより、普通分かるよなぁ……。なにしろ、“あの二人”が陽子先輩に全く反応してないし。
そんな陽子先輩は、手を口に当て小声で話してくる。
「……あの二人、どうしたの? なんか様子が変だけど……」
一瞬どうしようか迷ったが、とにかく話してみることにした。
「……いや、実はですね……」
ことの次第を話す。先輩は何も言わずに俺の話を聞く。まあ、アイツらの本音なんてのは分からないから、あくまでも俺の主観でしかないが……
「……というわけなんですよ。何なんでしょうね……」
「……はあ」
先輩は大きく溜め息を吐く。だよなぁ……今の二人を見たら溜め息も吐きたくなるよな……
「晴司くん……あなたって人は……」
(……って俺かよ!!)
先輩は残念そうに顔を伏せていた。それでも、話を続けてくる。
「まあ、晴司くんの性格は二人も知ってるし、今更治ることもないことは分かってるでしょうけど……」
(……俺の性格は、何か病気なのか?)
「……問題は、もっと“別のこと”ね……」
「別のこと?」
「んん……」
先輩は何かを考えていた。何を考えているのかは、俺にはさっぱり分からん……
しばらく考えた後、先輩は何かを思いつく。
「あ、そうだ。――ちょっと! 月乃! 黎!!」
そこで先輩が呼んだのは、なぜか俺ではなく、月乃と黎。
「……え? え??」
「あ、あれ? 陽子!?」
この二人って、本当に陽子先輩に気付いてなかったんだな……
「どうしてここに陽子がいるんだ!?」
「本当に気付いてなかったんだね……まあいいや。それより、二人に頼みたいことがあるんだけど」
「月乃と黎に?」
「そうそう。この店、何でも相談に乗ってくれてるんでしょ? ――だから、私からの“依頼”」
依頼? 先輩が? 何をお考えなのか……。しかし先輩は、俺の顔に向けクスッと微笑む。
(ま、先輩の考えなら問題ないだろ……)
「そういうことなら分かりました。――月乃、黎、そういうことだ。店長命令、依頼を受けろ」
「……まだ内容を聞いてないじゃない」
「聞くまでもなく、受けろ」
「晴司……無茶苦茶だぞ……」
「あら黎。晴司くんの無茶苦茶は、今に始まったことじゃないじゃない」
「確かにそうだけど……」
二人はようやく黙る。そんな二人を見た先輩は、ニヤリと笑う。
「……じゃあ、依頼ね。月乃、黎……私の学校の、“学園祭”に出演してくれない?」
「………」
「………」
「………」
俺を含めた三人はポカンとする。この人は、何を言ってるのだろうか……
それを理解した俺達は、ただただ絶叫する。
「「「はあああああああああ!!??」」」




