370・ナイジェルの異変
……。
「ん……」
寒さで目を開けます。
どうやら、一晩で暖炉の火が消えてしまったみたい。凍えるような寒さに体を震わせます。
隣ではナイジェルがすやすやと眠っており、まるでただの普通の子どものような姿に微笑ましさを感じます。
「シキは……いませんね」
昨晩、シキが横になった場所に視線を移してみると、彼女の姿が見えず、代わりに毛布だけが残っていました。
どこに行ったんでしょう? 外の空気を吸いに行った……?
「探しましょう」
そう思い、まずはナイジェルを起こそうと、彼の体を揺さぶります。
「ナイジェル、起きてください。シキがいません。一緒に探しにいきましょう」
「…………」
しかし、いくら呼びかけながら体を揺さぶっても、ナイジェルから返事はなく、安らかに眠ったままでした。
「ナイジェル?」
不安になって、さらに強く体を揺すります。
おかしい──。
よくよく見てみると、呼吸をしている様子もありません。もしかしたら、このまま二度と目覚めないのでは……。
「ナイジェル! ナイジェル!」
「ん……」
焦って声を大きくすると、不意にナイジェルが目を開けました。
「エリアー……ヌ……」
「よかった……」
ほっと安堵の息を吐きます。
先ほどは、なんだったんでしょう?
考えすぎかもしれませんが、急にナイジェルが遠くに行ってしまったような感覚を抱いて──。
「──ちっ。寒いな。こんなことなら、もっと着込んでくればよかったぞ」
疑問に思っていると、家の扉が開いて外からシキが入ってきました。
「シキ──どこに行っていたんですか?」
「軽く街中を歩き回っていた。今は、少しでも情報が欲しかったからな。暖炉の火は……くっ、消えておるか。長くは保たなかったみたいだな」
忌々しげな目で、シキは暖炉の方へ顔を向けます。
私達が眠っている間にも、一人で情報種集をしてくれていたなんて……。
有り難いのと思う半面、少し申し訳ない気持ちにもなりました。
「そんなことより、やはりただ街を歩き回っていても、ろくな情報は手に入らないみたいだぞ。リュシアンに奪われたであろう、そやつの精神も見つからん」
と、シキはナイジェルに顔を向けます。
「人は、誰もいませんでしたか?」
「そうだな。まあ、こんな永久凍土のような土地で、人が長く住めるものとも思えないが……」
そう言って、次にシキは窓の方へ視線を移します。
「唯一調べていない場所は──あの城だ。城に近付くにつれ吹雪が酷くなっていくが、もう無視するわけにはいかないだろう。あそこに、なにかがあるかもしれない」
“死都”の奥に聳え立つ高い王城。
氷漬けになった王城は今も鎮座しており、“死都”を眺めています。
昨日は夜ということもあって向かいませんでしたが、今なら行けるはずです。
「行きましょう。あまり魔力を消費したくありませんが、吹雪なら結界で防げるでしょう。ナイジェルの精神は、王城にいるのかもしれません」
「だな」
そうと分かれば、話は早い。
私は立ち上がり、早速出発の準備を始めます。
「ナイジェルも、もう大丈夫ですか? とても眠そうですが」
「う、うん」
ナイジェルは起きてからしばらく、ぼーっと私達の話を聞いていましたが、寝ぼけ眼を擦って立ち上がります。
「だ、大丈夫。なんだか、すっごく眠くってね。だけど次第に頭がすっきりしてきたから、安心して」
「くくく……意外と王子は朝が弱いんだな」
ナイジェルの弱点を発見出来たと思っているのか、シキがニヤリと口角を吊り上げます。
ですが、おかしい……ナイジェルはどちらかというと朝に強く、リンチギハムでは誰よりも早く起きて、職務をこなしていたというのに……。
体と精神が子どもになることによって、それに引っ張られているのでしょうか?
今は分からず、首をひねるのでした。
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