369・守り人たちの目的(ドグラス視点)
一方のドグラス達。
「ふわぁ〜……よく寝た」
上半身を起こし、ドグラスは大きく欠伸をした。
「よく眠れましたか?」
「おお、バッチリだ。汝らが見張りをしてくれていたためだ」
シルヴィの質問に、ドグラスは親指を突き立てて答える。
「それにしても……ヤツらも鬱陶しいな。俺達を仕留めるつもりなら、さっさとかかってくればいいものの」
ファーヴは苦い表情を作って、そう声を零した。
守り人がリュシアン側に寝返った。
エリアーヌ達とも分断され、危機に陥ったドグラス達ではあったが、大迷宮に残り守り人を仕留めることにした。
だが、そのまま激しい戦いに移行するかと思ったが、守り人の連中は大迷宮の闇へと消えていってしまったのだ。
探すドグラス達ではあったが、なにせ大迷宮の内部を知る者がカリスタしかいない。しかもそのカリスタとて、大迷宮の全貌は把握していないという。
守り人は姿をくらましただけではなく、闇の中から断続的に攻撃を仕掛けてきた。真正面から立ち向かっても、勝てないと踏んでいるのだろう。
イライラする皆──特にドグラスとファーヴだが、こちらの疲れを誘うことが、守り人連中の狙いだとは気付いていた。
ゆえに、大迷宮に何箇所か用意されている、焚き火の跡と簡易的なベッドを使って、交代を休憩を取ることにした……というのが現状である。
「我が守り人は、ヒットアンドウエイがモットーだからな! 強い相手に真っ向から立ち向かうほど、バカではないのだ!」
何故か、守り人の隊長(『元』と付けるのが正しいかもしれないが)のカリスタは腰に手を当て、ドヤ顔である。
「……お前は俺達の前に、真っ向から顔を出したけどな」
ぼそっとファーヴが毒を吐くが、カリスタには聞こえていないようだ。
「こうなった以上は一度、地上に戻るべきか? “死都”に行くまでの通路は防がれてしまったとはいえ、戻る道はそうでもないのだろう?」
「いや、あちらも当然それを読んで、入り口で待ち伏せ罠を張っている可能性がある。そうでなくても、あいつらを放置していては、なにをしでかすか分からない」
「それもそうか」
ファーヴの言葉に、ドグラスはあっさりと首を縦に振る。
「それにしても……カリスタ。汝、昨日まではあれほど暗い顔をしていたのに、随分と元気を取り戻したのだな」
「当然だ」
カリスタは真剣な表情で口を動かす。
「あいつらの裏切りに、気付かなかった自分が不甲斐ないが……いつまでもくよくよしていても、しょうがない。今ではあいつらを捕まえて、早くきついお灸を据えてやりたいくらいだ!」
「その意気だ」
ニヤリとドグラスは笑う。
なんにせよ、いつまでも暗い表情をしたヤツが近くにいても、こちらも気を悪くするだけだ。
現状、彼女は大迷宮の内部を知るものである。彼女からの協力が得られれば、これほど有り難いことはない。
「さて……休憩も終わったところで、そろそろ動くか。エリアーヌ達も気になるし──」
「いや……その必要はなさそうだ。どうやら、あっちから来てくれたみたいだぞ」
歩き出そうとするドグラスを、ファーヴが止める。
ファーヴが鋭い視線を向ける先には一見、深い闇が広がっているように見えた。
だが、指摘されてドグラスも気付く。
「……いるな。出てこい」
闇に向かって、ドグラスは声を放つ。
簡単に出てくるとは思わなかったが──一瞬間を空けて、カリスタと同じような顔をした女が現れた。
「よく気付かれましたね」
確か……カリスタは彼女を、ユーリアと呼んでいただろうか。
ユーリアは弓を構えたりもせず、少し離れた位置からドグラス達を眺めていた。
「くくく、なかなか潔いではないか」
「お前一人で、俺達に勝てるとでも?」
「ユーリア……どうしてだ。どうして、亡くなった両親や先祖の使命を果たそうとしないんだ。かくなる上は一発殴って、お前の目を覚まし──」
「待ってください」
今にも襲い掛かろうとするドグラス達だったが、それよりもシルヴィが一歩前に出て、ユーリアに話しかける。
「あなたは……私達の味方ですね?」
「どういうことだ」
いきなり突拍子もないことを言い出したシルヴィに、ドグラスは眉をひそめる。
「私達が、エリアーヌ達と分断されてしまったきっかけ……それは彼女が矢を放ったことでした」
「そうだ。戦力を分散させて、各個撃破するつもりだったのだろう」
「守り人側も全員、大迷宮側に残されてしまったのに? “死都”へ行く道も閉ざされてしまいました。守り人の目的は、私達──特にエリアーヌを“死都”に行かせないようにすることだったはず。行動がちぐはぐです」
確かに……。
ただ単に、瓦礫でエリアーヌ達を押し潰そうとしただけというのも考えられるが、それにしては軽率。
リュシアンから話を聞いているということは、エリアーヌが結界魔法の使い手だということも知っているはずだからだ。
単純に“死都”へ行くまでの道が防がれるのが想定外だった? それでもこちらに都合がよすぎて違和感が残る。
(ユーリア……とかいう女の目的は、我らではない。守り人を“死都”に行かせないようにし、かつエリアーヌ達を離すことだった……だとしたら、こいつの真の目的はなんだ)
ドグラスは疑いの目をユーリアに向ける。
ユーリアはシルヴィの話を聞いて、俯いて大きく息を吐く。
「……さすがですね。あなたは二百年前の聖女だったとリュシアンから聞かされ、当初は信じられませんでしたが……嘘ではなかったかもしれません」
そう言って、顔を上げる。
その目には、確かな覚悟が秘められていた。
「その通りです。私は、他の守り人とは考えが異なります。寝返ったふりをして、リュシアン側の狙いを暴こうとしました」
「ほ、本当か!?」
そう叫ぶカリスタの目に希望の光が宿る。
守り人に怒った素振りを見せていた彼女ではあったが、心のどこかで彼女らのことを信じていたからだろう。
「はい」
「だ、だとしても……! 私くらいには、そのことを話してくれてもよかったじゃないか!」
「ごめんなさい、姉様。姉様はその……なんというか、人を騙すというのが苦手な人だと思うから」
それはドグラスも同感である。
このカリスタという女、わざわざ前口上をしてからドグラス達に戦いを挑んだことといい、抜けているところが多々ある。
こいつが寝返ったふりをしようとも、すぐにバレていただろう。そうドグラスは思った。
「本当はもっと早くに、このことを伝えたかったけど……他の守り人の目があって、なかなか抜け出せませんでした。ですが、今は違います」
そう言って、ユーリアは踵を返す。
「付いてきてください。あなた達に見てもらいたいものがあります」
「見てもらいたいもの……? それはなんなのだ」
ドグラスが警戒心を滲ませて問いかけると、ユーリアは顔だけをこちらに向けて、こう言った。
「リュシアンの目的……そして、この大迷宮に隠された秘密です」





