357・行くわよ
「そうか、エリアーヌ達がそんなことに……」
ベルカイム王城。
第一王子クロードは、フィリップと話していた。
「ああ」
フィリップは頷く。
見た目は黒髪の少年だ。
だが、その正体は精霊王である。
齢二百は超える精霊であったが、あどけない顔つきは十歳中頃にしか見えず、彼のことを信じられない者からすると、まさか精霊王だと信じられないだろう。
「念話で連絡が入ったんだ。信頼の置ける者には話していいそうなので、君には説明したが……あまり無闇やたらに言いふらしたりはしないでほしい」
「もちろんだ」
クロードも頷きで応える。
そこで話し合いが終わり、フィリップが背を向けた。
「すぐに精霊の村に戻るのか?」
「そうだな」
「せっかくだから、ゆっくりしていってもいいのに……」
「やることが山積みなんだ。それに今、リンチギハムにはナイジェルとエリアーヌ、両名がいない。なにかあった時のバックアップのためにも、帰らなければならないからな」
手を軽く振って、フィリップはその場から立ち去った。
相変わらず、クールな男である。
「エリアーヌ達は大丈夫なのかな?」
クロードは会議室を後にし、廊下を歩きながらぽつりと呟く。
フィリップから聞かされた話は、驚くべきことであった。
リンチギハムで《時の巨人》が現れ、女神祭前日が何度もループしていた。
エリアーヌ達はループから抜け出すことが出来たが、突如現れたリュシアンに精神を奪われ、それを取り戻すためにフロストガルドに向かった──と。
(この時間軸ではないボク達は、ループから抜け出すために尽力したそうなんだがな。なにも知らなかったことが悔やまれる)
そう思っていると、
「あら、クロード。フィリップとの話し合いは終わったの?」
廊下の向こうから、一人の女性がクロードに歩み寄ってきた。
レティシアである。
彼女は元々、真の聖女だと宣い、ベルカイムを破滅に導こうとした女性である。
しかし今となってはエリアーヌと和解し、定期的にお茶会を開くほどの仲になった。
「ついさっきな」
クロードは表情を緩めて、そう答える。
──フィリップが住む精霊の村は、リンチギハムとベルカイムの国境線沿いにある。
そのため、二国の発展を願うため、こうして話し合いの場がもたれることがある。
先ほどもそうだったのだ。
もっとも、軽い世間話と情報交換をするだけのつもりだったので、まさかあんなことを聞かされるとは思っていなかったが。
(フィリップには、無闇矢鱈に言いふらすなとは告げられたが……レティシアになら大丈夫だろう。彼女も、エリアーヌに深く関わりがある)
クロードは周りに人がいないことを確認してから、こう口を開いた。
「フィリップから、ある話を聞かされてな。実は……」
エリアーヌ達が現在置かれている状況を、レティシアに説明する。
すると。
「はあ!? 少人数でフロストガルドに向かっているですって!? あそこって、一年中猛吹雪に包まれている土地で、人が近付こうともしない“死都”じゃない!」
レティシアは目を見開いて、そう声を大にした。
「ちょ、ちょっと、レティシア……もう少し、声をひそめてくれるかな? 誰かに聞かれるかもしれないし……」
「しかも、リュシアンが元凶だって……わたしにも言わず……」
ギリギリとレティシアは歯軋りをし、やがて覚悟を決めた顔つきになって、こう声を発する。
「……行くわよ」
「え?」
「わたし達も、フロストガルドに行くって言ってんのよ! エリアーヌにだけ、危ない目に遭わせるわけにはいかないわ!」
そう言って、レティシアは王城の外に向かう。
その足取りは大股で、何人たりとも近寄れない圧を感じた。
「ま、待ってくれ! 急すぎるよ。迷惑をかけられないと思ったから、エリアーヌはボク達に言わなかったんだろうし……」
「だったら、なに? あんたはエリアーヌを助けたくないの? 返しきれない恩があるのに?」
「それは……」
そう言われると苦しいところがある。
「立地的には、フロストガルドはベルカイムからの方が近いわ。今から馬車をかっ飛ばせば、エリアーヌ達に追いつけるでしょ」
「それはそうだが……やっぱ、やめておいた方がいいんじゃ……」
「ああ! もうごちゃごちゃ言わない! 怖いって言うなら、置いていくわよ!」
「わ、分かったって! だから置いてかないでくれ!」
急いでレティシアの後を追いかけるクロード。
……危険はある。
フロストガルドはベルカイムの王子クロードであっても、ほとんど情報が入ってこない土地だ。
そうでなくても、リュシアンだとかいう少年は、なかなかの曲者なのである。生きて帰ってこれる保証はない。
だが。
(ボクがレティシアを一人で、そんなところに向かわせるわけないじゃないか……!)
不安はあったものの、クロード達もフロストガルドに急いで向かうのであった。





