354・失われた輝き
「──祭りはまだ終わっていないよ」
ぐにゃあ──。
いきなり空間が歪んだかと思えば、中から銀髪の少年が現れました。
「え……」
突然の光景に、この場にいる誰もがすぐに反応出来ません。
たった一人を除いては。
「リュシアン──っ!」
ナイジェルが彼──リュシアンの名前を呼びます。
「祭りは楽しんでいるかな? だけど、祭りはここからだ。いわば、今まではただの前夜祭。本当の祭りは──」
そう言って、リュシアンは右手に氷の剣を錬成します。
ドグラスとファーヴ、シキもすぐに臨戦体制に移りますが、ただでさえ虚をつかれた形なのです。間に合いません。
リュシアンはナイジェルに向かって、剣を一閃します。
「くっ……!」
しかしナイジェルは咄嗟に剣を抜き、リュシアンからの攻撃を防ぎます。
「そうくると思っていたよ」
攻撃が防がれたというのに、リュシアンはあっさりと剣を手放します。
右手に魔力を込め、そして──。
ナイジェルの胸を貫きました。
「く……はっ……」
ナイジェルの口から苦悶の声が漏れます。
「ナイジェル──」
手を伸ばし、私は彼のもとへ駆け出します。
ゆっくりと床にナイジェルが倒れていく光景が、やけにスローモーションに見えました。
「ふう、これで目的達成か」
リュシアンがナイジェルの胸から手を引き抜き、息を吐きます。
「じゃあね、みんな。次に会う時は、祭りも終わっているだろう」
「待て!」
ドグラスがすぐさまリュシアンを捕まえようとしますが、その手は空を切りました。
まるで幻のようにリュシアンの姿がゆらめき、最終的に完全に消えてしまいました。
「ナ、ナイジェル──っ!」
倒れていくナイジェルを、私はすかさず支えます。
胸を貫かれたというのに、不思議なことに血の一滴も流れていません。
しかし、その瞼は重く閉じられたまま。
ナイジェルの右腕が力をなくしたように、私の胸元からだらんと垂れ下がります。
その右手に嵌められている指輪は──すっかり輝きを失っていました。
◆ ◆
「ここは……?」
ゆっくりと目を開ける。
ここは……薄暗い一室のようだ。
室内は狭いが、壁や床材から察するに、そう粗末な場所ではないらしい。まるでお城の一室である。
そんな場所で、僕──ナイジェルは両手を後ろで縛られ、椅子に座らされていた。
「──お目覚めかな?」
少年の声。
暗がりの中から、リュシアンが姿を現した。
「……そうか。そういうことだったんだね」
彼の顔を見て、確信に至る。
「君は、《時の巨人》を守っていた結界に亀裂を入れた。その目的とは終わらない一日の中で、僕達が《時の巨人》の結界を完全に破ることだった」
「…………」
「だけど、あくまでそれは過程に過ぎない。君の真の目的は、その先──僕だったんだ」
「正解」
リュシアンがにっこりと笑う。
「今から僕がしようとすることを成すためには、どうしても《時の巨人》の力が必要だった。《時の巨人》は倒されてしまったけど、十分にその力に触れることが出来た。これでやっと前に進める」
「今から君がしようとしていること……?」
問いかけるが、リュシアンから答えは返ってこなかった。
……思えば、おかしいことばかりだった。
リュシアンの真の狙いが『《時の巨人》の解放』だとしたら、いざ結界が破られようとしたタイミングで、僕達の前に姿を現す必要がない。
せめて、《時の巨人》が解放されてから、ゆっくりと顔を出せばよかったからだ。
だが、彼はそうしなかった。
あれはいわば、自分が舞台から降り、僕達の意識を逸らすことにあったのだろう。
ドグラスからリュシアンは自壊したと聞かされ、まんまと油断してしまった。
──全てはこの時のため。
《時の巨人》の力に触れ、僕をここに攫うことだったんだ。
「……何者なんだ」
同じことを問いかけても答えは返ってこないと考えた僕は、質問の矛先を変える。
「ドグラスからは間違いなく『死んだ』と聞かされたけど、そうじゃなかった。それに、君も一日のループから逃れられていたよね? 君は一体何者なんだい?」
「それは、これから分かる」
そう言って、リュシアンは右手をかざす。
その手には、光の球があった。
「これは君達が《時の巨人》を解き放ってくれたおかげで手に入れた、時に干渉する力。これを使って、今から君には、あるものを見てもらう」
「あるもの?」
「過去のお話だ。この国が、雪の監獄に閉じ込められるようになった前──そんな国で暮らす、一人の王子とその友達の話。抗えない運命を前にして、君は立ち上がることを諦めるだろう。そのために僕は、君をここに連れてきた」
光の球を携えたリュシアンの右手が、ゆっくりと僕に近付く。
なんとか逃げようとする。
だが、両手を縛られているせいで体を上手く動かせなかった。
そのまま視界は光の白で覆われ──次の瞬間、僕はこことは違う空間に誘われるのであった。
──前編『終わらない一日と失われた輝き』完。
後編『眠れる王子と白銀の誓い』に続く──。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
『真の聖女』2027年アニメ化決定を祝いましての、一挙公開となりました。
前編の『終わらない一日と失われた輝き』が終わり、後編の『眠れる王子と白銀の誓い』に続きます。





