348・楽しいお祭り
王城を出て、私達は祭りを練り歩きます。
「楽しいお祭りですね〜」
祭りの風景を眺めて、シルヴィがほんわかと言います。
「シルヴィが暮らしていた時代──二百年前も、このような祭りはあったんですか?」
「はい、もちろんです。とはいえ、当時の世界でこれほど人が多い場所は、なかなかなかったと思いますが」
とシルヴィが頬に手を当てて、そう答えます。
「この二百年間で、随分と技術や医療も発達したからでしょう。あの糸に吊り下げられているものはなんですか?」
「あれは魔石ランタンだね」
魔石ランタンを見上げて質問するシルヴィに、ナイジェルがこう答えます。
「魔石を燃料として、灯りが点くんだ。そのおかげで夜になっても、街中は明るく照らされる」
「まあ……!」
シルヴィが驚きで目を見開きます。
「素晴らしいです。便利なものがあるんですね〜。見るもの全てが新鮮です」
「あっ、ナイジェル陛下とエリアーヌ王妃!」
話しながら歩いていると、不意に声をかけられます。
「あなたは……ドーナッツ屋の店主ですか」
「おや、私のことを知っておられるのですか。エリアーヌ王妃に名前を覚えられていて、光栄です」
ドーナッツ屋の店主が嬉しそうに頬を綻ばせます。
ループされる前にはここでドーナッツを分けてもらいましたが、この時間軸ではお会いしたことがなかったですか。
街中でナンパをされ、先代国王に助けてもらって、そのまま魔法研究所に向かったのでした。
「お近づきの印に、どうか店のドーナッツを食べてくださいませ。人数分用意します。もちろん、お代はいりません」
「どうしよっか?」
「ぜひ、食べてみたいです……! この時代のお菓子に興味がありますので」
ナイジェルがみんなに視線を送ると、シルヴィがきらーんと目を輝かせました。
私達は店主の好意に甘えて、紙包みに入ったドーナッツを受け取ります。
「……っ! 美味しい!」
「俺は一度体験しているとはいえ、やはりこの時代の料理はどれも美味しいな。癖になる味だ」
シルヴィとファーヴが並んで、美味しそうにドーナッツを食べます。
その光景は微笑ましく、二人の事情を知っていなければ、ただの仲睦まじいカップルに見えていたでしょう。
「ファーヴのやつめ、幸せそうだな」
「ですね」
ドグラスの言葉に、私はそう頷きます。
みんなでドーナッツを食べ終わり、ドグラスが「よし」と声を零して、ファーヴのところへ向かいます。
「ファーヴよ、まだまだ祭りは始まったばかりだ。我ら二人で、旨い出店の料理を探そうではないか」
「おっ、それは面白そうだな」
「せっかくだから、どちらがより旨い料理をエリアーヌ達にプレゼント出来るか、勝負しよう。どうだ?」
「臨むところだ」
ファーヴがふっと笑いかけドグラスの提案に乗り、二人は祭りの人混みの中に消えていきます。
まるで遊び場まで走っていく、子どものようです。
「ファーヴが、あんな顔をしているのを見るのは初めてかもしれません。私といる時は、よく見せてくれるんですけれどね」
「そうなんですか?」
問いかけると、シルヴィは「ええ」と返事をします。
「昔のファーヴは、いつも影があるような人物でした。物事に興味がなく、いつ死んでもいいと思っているような……そんな彼を、私は見過ごせなかったんです」
「きっと君と出会ってから、変わったんだよ」
昔話に思いを馳せるシルヴィに、ナイジェルがそう言葉をかけます。
「人は守るものが出来た時、強くなれる。ファーヴにとって、君がそういう存在だっただけさ」
「そうです。それに昔、ファーヴも言っていました。昔の自分は弱く、自ら命を絶とうとした……と。そんなファーヴが変われたのは、シルヴィのおかげです」
「……ありがとうございます」
噛み締めるように言うシルヴィ。
そして両腕を広げ、風を全身で感じるように上半身を逸らします。
「ああ──空がキレイ。本当に私は、この世界に戻ってこられたんですね。なんだか、まだ実感が湧かないです」
「実感なら、今からゆっくり湧いてきますよ」
シルヴィにそう微笑みかけます。
「それに……時間ならたっぷりあります。急ぐ必要はありません」
「そうかもしれませんね」
「君とファーヴはこれから、どうするつもりだい? 君達がいいなら、しばらく王城で暮らしてもらってもいいけど……」
「ありがとうございます。ですが──」
とナイジェルに対し、シルヴィは首を横に振ります。
「ファーヴと世界中を旅してみようと思っているんです。聖女の役割からも解放されましたし、これからの人生は自由に生きようかと」
「いいですね! 私も応援しますよ。特にアマツはオススメです。料理も美味しくて、ミツハちゃんっていう可愛いお姫様もいるんです」
自分のことのように、つい楽しんでしまいます。
今まで、シルヴィは昨日も今日もないような場所で、永劫の時を過ごしていました。
ですが、今は違います。
シルヴィとファーヴには未来があるのです。
元の時代じゃないのは思うところがあるのかもしれないけれど、せめてお二人には今の時代を楽しんでほしいと思いました。
「アマツ……ですか。二百年前も聞いたことがあります。エリアーヌが言うなら、次はそこに──」
「おーい」
シルヴィとこれからのことを話し合っていると、向こうの方からドグラスとファーヴが駆け寄ってきました。
ドグラスの手には肉串。ファーヴの手にはリンゴ串が。
「旨いものを見つけたぞ。ファーヴの恋人──シルヴィといったな。汝もそれだけ細いし、スタミナを付けないといけないだろう。そのための肉串だ」
「ふっ、ドグラスもまだまだだな。シルヴィは肉料理があまり得意ではないのだ。こういったリンゴ串のような甘いものの方が好んでいる」
「分かっていないのは汝の方だ、ファーヴ。そのような軟弱なお菓子を食べて、なにが楽しい? せっかくの祭りなのだ。普段では食べないような料理を食べてこそ、祭りの醍醐味だろう」
ドグラスとファーヴが睨み合い、火花を迸らせます。
二人のそんなやり取りを見て、私とシルヴィはついくすりと笑ってしまいました。
「まあまあ、お二つとも食べてもらえばいいではないですか」
「そうです。朝ごはんは食べたとはいえ、まだお腹がペコペコですからね。まずはリンゴ串から……」
とシルヴィが手を伸ばしかけた──その時でした。
「えっ……」
一瞬眩暈がして、ふらつきます。
「おかしいですね。まだ魔力が回復していないんでしょうか」
一晩寝れば完全に治るはずなのに……不思議に思いました。
あらためて、ドグラスの方へ視線を移すと、
「おーい」
ドグラスとファーヴが手を振って、こちらに駆け寄ってきました。
二人の手には、先ほどの肉串とリンゴ串が。
「旨いものを見つけたぞ。ファーヴの恋人──シルヴィといったな。汝もそれだけ細いし、スタミナを付けないといけないだろう。そのための肉串だ」
「ふっ、ドグラスもまだまだだな。シルヴィは肉料理があまり得意ではないのだ。こういったリンゴ串のような甘いものの方が好んでいる」
またもや、二人は言い合いを始めます。





