347・幸せなひととき
ループから無事に抜け出せた私達はひとまず場所を移し、食堂に集まることにしました。
「お待ちどおさま!」
そう言って、食堂のテーブルに料理が載ったお皿を並べていきます。
チーズオムレットです。
「おお! 旨そうだな!」
席に着いたドグラスがチーズオムレットを見て、じゅるりと涎を垂らします。
「ふふふ、そうでしょう。シルヴィにも、手伝ってもらいましたから」
腰に手を当てて、ドヤ顔で答えます。
「エリアーヌは料理が上手ですね。料理をするのは久しぶりですが……足を引っ張らないだけで、精一杯でした」
シルヴィが控えめに笑います。
──起きてからまず、私達は朝食を摂ることにしたのです。
シルヴィにも手伝ってもらって、チーズオムレットを作りました。
彼女は現在、淡い青色のエプロンを身につけています。
その姿はとても可憐で、ファーヴが惚れるのも納得です。
「……思えば、シルヴィを救い出すために長命竜アルターに向かう前にも、同じものを作ってもらったな。思い出の味だ」
しみじみとファーヴが口にします。
「それにしてもエリアーヌ、随分とシルヴィさんと仲良くなったみたいだね。呼び方も変わってる」
「はい」
ナイジェルの言葉に、私は頷きます。
当初は彼女のことを、『シルヴィさん』と呼んでいました。
ですが、それでは距離を感じます。
なのでチーズオムレットを一緒に作りながら、『シルヴィ』と呼ぶことに決めました。
彼女も笑顔で喜んでくれて、一気に距離が縮まったように感じます。
「それにシルヴィとは友達になるって、約束しましたから」
「そうです。友達相手に“さん”付けなんて、おかしいでしょう?」
シルヴィもくすくすと笑います。
「さあさあ、料理が冷めないうちに、どうぞお召し上がりください」
「じゃあ、早速……」
ナイジェルがフォークとナイフを手に取って、チーズオムレットを口に入れます。
ドグラスとファーヴもその後に続きます。
すると……。
「美味しい!」
ナイジェルは目を輝かせ。
「「旨い!」」
ドグラスとファーヴは、そう声を揃えました。
「よかったです」
ほっと胸を撫で下ろします。
「何度食べても、エリアーヌが作った料理は美味しいね。朝から元気が出るよ」
「だが、いつも食べるチーズオムレットとは少し味が違うような? 素朴な味がする」
「これは……シルヴィがいつも使ってた調味料だ。ああ──懐かしい。この料理を食べるだけでも、元の世界に戻ってきたんだと実感するよ」
そう会話を交わしながら、三人は夢中になってチーズオムレットを食べていきます。
「エリアーヌ、私達も食べましょうよ。お腹がペコペコです」
「そうですね」
私もシルヴィと席に着きます。
私はナイジェルの隣。シルヴィはファーヴの隣です。
そのまま、チーズオムレットに口を付けます。
……美味しい!
卵の優しい味が、しみじみと体に染み渡っていきます。
チーズも舌の上でとろけ、シルヴィが勧めてくれた調味料も味に合っています。
やっぱり、待ち望んでいた“明日”はいいものですね。
こうしてみんなで食卓を囲って、楽しくご飯を食べることが出来るようになったのも、ループを抜け出せたから。
素直にそう思いました。
「あら、ファーヴ」
シルヴィがふと気付いて、隣に座っているファーヴに手を伸ばします。
「口元にチーズが付いていますよ」
「ぬ」
ハンカチで口元を拭かれ、ファーヴがきょとんとします。
「ありがとう、シルヴィ。君達が作ってくれた料理が美味しすぎて、口元が汚れていたことにも気が付かなかったよ」
「どういたしまして」
シルヴィが笑顔で答えます。
「ガハハ! どうした、ファーヴ。恋人の前では、随分と恭しいのだな。汝のそういう顔を見るのは、なかなかにない」
「うるさい」
茶化すドグラスに、ファーヴが苦い顔を作ります。
「そういうお前こそ、パートナーはいないのか? お前ほどの器量の男だ。すぐに相手が見つかると思うが……」
「我は理想の壁が高い男なのだ。今は恋人を必要とせぬ」
何故だか誇らしげにドグラスが胸を張ります。
ですが、すぐに優しい顔つきになって。
「……ファーヴ。本当によかったな。恋人とまた、こういう日々を過ごすことが出来て」
「……っ!」
ファーヴが声に詰まります。
「いきなり、どうした。お前らしくないではないか」
「なあに。我も色々と思うところがあったのだ。汝は裏切り者と罵られようと二百年以上も、たった一人の女を好きでいたのだからな。我にはそういう相手がおらぬ」
そう言って、ドグラスはファーヴから視線を外し、再びチーズオムレットに手を付けます。
……ファーヴが時の牢獄に行ってから、言葉にこそほとんどしなかったものの、彼のことを一番心配していたのはドグラスです。
親友と再会出来て、嬉しいんでしょう。
二人のやり取りを眺めて、そう感じました。
やがて、朝食も食べ終わり……。
「ふう──食った、食った。この後はどうする?」
お腹をポンポンと叩いて、ドグラスがみんなに問いかけます。
「ナイジェルは今日のために、色々と動き回らないといかんのか?」
「そうだね。とはいえ、雑務はほとんど終わらせている。午前中は、純粋に祭りを楽しませてもらおうかな」
とナイジェルはおどろけるように言います。
「でしたら、みなさんで祭りを回りましょうよ」
手を叩いて、私はみんなにそう提案します。
「この日のために、準備を頑張ってきたんですから。ファーヴとシルヴィにも、リンチギハムの祭りを楽しんでほしいです」
「うむ、それもいいな」
「ぜひ、ご一緒させてください。ナイジェルとエリアーヌの邪魔にならなかったら……ですけどね」
ファーヴは腕を組んで頷き、シルヴィがウィンクを返します。
「お邪魔だなんて、そんなそんな……では、行きましょうか」
「うん」
「無論、我も行くぞ」
私達は椅子から立ち上がります。
こうして私とナイジェル、ドグラス。ファーヴとシルヴィの五人で、祭り中の街に繰り出すことになりました。





