345・再会
その後、しばらく周囲を警戒していましたが、巨人は復活せず、時の亡霊もこれ以上出てきませんでした。
あらためて、私はシルヴィさんと向かい合います。
「初めまして……ですかね? なんだか、こうして顔を合わせるのは不思議な感じです」
私がそう言うと、シルヴィさんはくすくすとおかしそうに笑い、
「はい、初めまして。もっとも、私達はあの光の中で一度、お会いしていましたけれどね。あなたともう一度お会いすることが出来て、心から嬉しいです」
と口にしました。
シルヴィさんは新雪のような白い髪と肌の、キレイな女性でした。
ファーヴは『どことなく、エリアーヌと似ている』と言ったことがありましたが……なるほど。彼女ほど私はキレイなつもりはありませんが、なんとなく彼の言ったことが分かります。
「ファーヴも久しぶりだね」
「ああ──久しぶりだ」
ナイジェルとファーヴが短く言葉を交わします。
ファーヴは黒髪の、どこか影のある男性。
体も引き締まっており、全身から頼もしさも感じます。
「だが……正直、あの空間から出られたのが、未だに信じられないくらいだ。急に闇の中で光の剣が現れ……それを手に取って空間を斬り裂くと外に出られたが、エリアーヌ達のおかげか?」
「はい」
「そうか。だったら、詳しく聞かせてもらってもいいか? 一体、なにがあったのかを」
問いかけるファーヴに、私はこう説明します。
今日はリンチギハムで行われる祭り──女神祭の前日。
しかし、今日という一日がループし、なかなか抜け出せなかったこと。
ループから抜け出すためには、時空を覆う結界を破らなければならない。だけど私達は結界の内側。内側からでは結界の力が及び、破ることが出来ない。
そこで私が考えたのは、外側から結界を壊してもらうことでした。
「時空の外側にいる人なんて、本来なら存在していません。だけど、私達には一人……いえ二人だけ、心当たりがありました」
「それが私達だったというわけですね」
「はい」
シルヴィさんの言葉に、私は頷きで返します。
彼女達が閉じ込められていた場所は、時の牢獄。
そこは闇に包まれ、時間の概念も適応されていない場所だと聞きました。
だから、二百年前の人物であるシルヴィさんが歳を取っていないわけですね。
「時の牢獄──つまり結界の外にいた俺達には、唯一、結界の力が及ばなかったわけか」
「はい。そして、今ファーヴが持っている剣は、内側と外側を繋ぐ架け橋のような力があったのだと考えられます。その剣を伝って一度、私はシルヴィさんの声を聞きました」
「私はあのどこまでも続く闇の中で、ずっと明日が来ることを信じて祈っていましたが……その声が届いたんでしょうか」
「おそらく、そうだろうね」
とナイジェルも首を縦に振ります。
「結界の外側にいて、誰よりも『明日が来てほしい』と思っていた人物──ファーヴとシルヴィさんにこちら側にあった剣が渡り、こうして結界が破られたというわけですね」
「合点した。結果的に君達の助けになれて、よかった」
ファーヴが頬を緩ませます。
そんなことを話していると……。
「エリアーヌ、ナイジェル──無事であったか」
向こう側から、ドグラスが手を振りながら、こちらに歩いてきました。
「ドグラス! あなたもご無事でしたか?」
「うむ、愚問だ。我があんなガキ一人に遅れを取るわけがない。だが……」
ドグラスは悔しそうに顔を歪ませ、こう続けます。
「あのガキ──リュシアンだとか言ったか。ヤツは死んだ」
「し、死んだ!? 殺してしまったんですか?」
「いや……殺すつもりはなかった。だが、ヤツが勝手に魔力を暴走させて、身を滅ぼしたのだ。それだけが悔やまれるところだ」
ドグラスはリュシアンと戦った時のことを思い出しているのか、小さく舌打ちをします。
リュシアンから詳しい話を聞けなかったのは残念ですが、悔やんでも仕方がありません。
彼は一体、なにを企んでいたんでしょうか?
仮にリュシアンがこの状況を作り出していたとするなら、どうして今まで顔を出さなかったんでしょう。
謎は残ったままです。
「汝らの方だが──どうやら、その様子だと上手くいったようだな」
考えていると、ドグラスがファーヴの顔を見て、ニヤリと笑います。
「全く、心配をかけよる。汝は昔から、問題があっても勝手に一人で抱え込みよる」
「すまない」
「謝ってほしいわけではない。それよりも……隣の女は、汝の恋人か? なかなかお似合いではないか」
そう言って、ドグラスは拳を軽く握って、ファーヴの前に掲げます。
「ファーヴ、よくぞ戻ってきた。汝ともう一度会えるのを、楽しみにしていたぞ」
「俺もだ」
ファーヴも応えるように拳を握り、ドグラスと軽く拳と拳を合わせます。
表情こそ乏しかったものの、二人の間には強い絆が結ばれているように感じました。
シルヴィさんもそんな二人を眺めて、嬉しそうに微笑んでいます。
「さて……と。リュシアンのことは残念だったけど、これで最初の予定通りにいったわけか。本当にループから抜け出せたのかな?」
「どうでしょう……」
ナイジェルが持つ懐中時計を見せてもらうと、まだ日は跨いでいませんでした。
ファーヴ達がこちらの世界に戻ってきて、時の亡霊も再び現れていません。
結界が破られ、ループから抜け出せたとは思うんですが……。
「こればっかりは、日を跨がないと分かりませんね。あと十分ほどでしょうか。その時になれば全てが分かって──」
ふらぁ──。
言葉を続けようとすると、急に体が浮遊感に包まれました。
「エ、エリアーヌ!?」
倒れていく私の体を、ナイジェルがすかさず支えます。
「す、すみません……さすがに時空の外側に祈りを届かせるのは、疲れたみたいで……魔力が切れたみたいです」
「そ、そうだったのか。大丈夫かい?」
「はい。一晩寝れば、完全に回復するはずです。だから、そう心配しないで……」
ああ……いけません。
こうして話している間にも急激に眠気が襲ってきました。
ナイジェルの胸の中でそっと目を閉じ、眠りに落ちるのでした。





