344・ずっと、彼女はそこにいた
「はあああああっ!」
ナイジェルが巨人の右腕を斬り裂きます。
巨人は断末魔の叫びを上げ、大きくよろめきます。
切断された右腕から、一本の剣が落ちてきました。
「おっとっと」
落下する剣を、私は慌てて両手で抱えます。
「取りあえず、一本目だね」
「はい。ですが、剣は二本必要です。もう一本の剣を、なんとか取り戻してください!」
「もちろんだよ!」
ナイジェルが頷き、再び巨人に向かっていきます。
ぐんぐんと接近してくるナイジェルを、巨人は左腕で払おうとします。
しかし、ナイジェルに直撃しようかとした時──不可視の壁によって弾かれます。私の結界です。
ナイジェルは器用に空中で方向を転換させながら、剣を振りかぶります。
その視線の先には、巨人の左腕が。
「これで……終わりだ!」
横薙ぎに一閃。
巨人がさらに大きく揺めきます。周囲から時の亡霊を集め、体を修復していきます。
ですが、左手から剣が零れ落ちます。
ナイジェルは落下しながら、落ちてくる剣を掴みました。
「エリアーヌ! 後は頼んだよ!」
「はい!」
ナイジェルから剣が山なりに投げられ、私は二本目の剣を受け取ります。
亀裂は……まだ存在しています!
いつ夜が明けて、また一からになるか分かりませんから、早くやらなければ。
「間に合って……!」
私は再び亀裂の前で膝を突き、二本の剣を地面に並べます。
──ずっと、彼女はそこにいました。
魔界でも、神界でもない。
こことは別の時空の理に支配された場所。
外側の世界。
二百年前、長命竜アルターとの戦いに敗れ、彼女はその場所に閉じ込められました。
その後、彼が一人で迎えに行きましたが、未だこちらの世界に帰ってくることは叶わず。
一年以上の月日を重ねる中、私はずっと彼女達との再会を心待ちにしていました。
「お願い……!」
手を組み、祈りを捧げます。
地面に置かれた二本の剣は、私の祈りに応えるように光を放ちます。
そしてその姿が朧げとなり、光の粒子となって亀裂の向こうへ消えていきました。
「くっ……まだ諦めていないつもりか」
私が祈りを捧げている間、ナイジェルが巨人を見上げ、顔を歪めました。
体の修復が終わり、巨人は怒りの咆哮を上げ、右腕を大きく振りかぶります。
ナイジェルもすかさず剣を振いますが、修復した右腕は一筋縄ではいかないのか、その厚い皮を破ることは出来ませんでした。
「エリアーヌ!」
ナイジェルが私を呼ぶ声が聞こえます。
しかし、私は彼女達が来てくれることを信じて、ずっと祈りを捧げ──。
「エリアーヌには、指一本触れさせん」
──突如、亀裂が大きくなり、中から二人の人影が現れます。
彼はその手に持った二本の剣で、襲いかかる右腕を一閃します。
「ぐおおおおおおお!」
巨人の叫びが響きます。
それは幻想的な光景でした。
巨人を構成していた時の亡霊が解体し、天に昇っていきます。
消滅していく巨人を視界の端に捉え、私は彼らの名前を呼びました。
「──ファーヴ! シルヴィさん!」
──一年以上前。
恋人を救うために、時の牢獄に入っていたファーヴ。
そして、その恋人のシルヴィさん。
シルヴィさんは微笑みながら、こう口を開きました。
「──ありがとう、エリアーヌ。私達を見つけてくれて。あなたのおかげで、私達はこちらの世界に帰ってくることが出来ました」





