341・たった一つだけの答え
夜。
私とナイジェル、ドグラスの三人は亀裂がある中央広場に向かっていました。
「それにしても、汝の言っていることは本当なのか?」
隣を歩きながら、ドグラスがそう問いかけてきます。
「はい」
それに対し、私は頷きを返します。
「今まで、私達は大きな勘違いをしていました。このループから抜け出すためには、結界を壊さなければならない。そのためには内側から結界を壊す──と」
一見、合理的な方法だったでしょう。
それしかなかった、と言い換えてもいいのかもしれません。
ですが、それでは結界は壊せない。
「結界の内側にいる限り、結界の効力が私達に及ぶため、壊すまでには至らない。ならば──外側から壊せばよかったんです」
日中、ニーナさんが語ったお伽話でも、巨人の支配に怯える人々は結界を壊せませんでした。
しかし、外側からなら?
巨人が築いた壁を壊すことが出来ます。
「だけど本来なら、それは不可能だった。何故なら、結界の範囲は時空──この世界そのものだから。結界を壊して外に出るためには、外に出なければならない。それは矛盾しているから……だよね?」
ナイジェルからの問いかけに、私は静かに首を縦に振ります。
私達がこの世界で生きている以上、誰も外側には行けないでしょう。
魔族が住む魔界や、神が生きる神界もこことは次元が違うものの、『この世界』であることには変わりありません。
この世界の時間が適用されず、悠久の時を過ごす場所──そこがいわば、世界の外側なのでしょう。
ですが、そんな場所は果たしてあるでしょうか?
歳を取らず、百年も二百年も生きていられるような場所が。
しかし。
「たった一つだけ、あるんです。そして、彼女達はまだそこにいるはずです」
それが日中、先代国王やニーナさんの話を聞いて、私が閃いた案。
外側にいる彼女らに、結界を壊してもらう。
そのために私達は中央広場に向かっていました。
「うむ……試す価値はありそうだな。だが、そのオンボロの剣がどうして必要なのだ?」
そう言って、ドグラスはナイジェルが腰に差す二本目、三本目の剣に視線を移します。
それは魔法研究所で保管され、かつて『心優しい巨人』が使っていたとされる剣です。
もっとも、ニーナさんの推測では、『巨人が人間を守るための剣』ではなく、『人々が巨人の束縛から逃がれるための剣』なんですか。
「保険……の意味合いが強いです。ですが、今この状況と巨人のお伽話は、あまりにも似ています。無関係とは思いにくいんです。
それにこの剣に触れた際、私が聞いた不思議な声──これはきっと、外側と内側を繋ぐ架け橋のような機能を担っていると思うんですよ。なので、あるいは……と」
「まあ、もし結果が空振りだったとしても、何回でも繰り返せばいい。一日がループされている以上、時間はたっぷりあるんだから」
ナイジェルもそう言ってくれます。
私の考えていることは、まだまだ推測の域に過ぎません。
ですが、私達は何度も今日という一日を経験して、この答えに辿り着きました。
中央広場に向かう足取りも、自然と早くなります。
人気が少ない道に入り、私達の足音が静かな夜の街に響き渡りました。
もう少しで中央広場に着く──ですが。
「──そんな悠長なことを言っていて、いいのかな? いつまでこの状況が続くか、分からないのに?」
上空から声。
見上げると、道の両脇に設置されている魔導灯の上に、一人の少年が座っていました。
少年は私達を見下ろし、口元に微笑みを浮かべています。
「あなたは……っ!」
足を止めます。
あの夜、中央広場で歌を歌っていた少年です。
六度もループを繰り返しても、あの少年は私達の前に一度たりとも姿を現しませんでした。
なのにこのタイミングで出てきて、自然と体が強ばります。
「あなたは一体、何者なんですか?」
警戒心を高めて、私はそう問いかけます。
「それに、どうして今まで姿を現さなかったのか──」
「そういえば、まだ名乗っていなかったね。僕の名前はリュシアン。魔王信教の教皇とも言われているね」
リュシアン──。
その名前を聞いて、一気に緊張が走ります。
レティシアは『リュシアンとよく似ている』と言っていましたが、その懸念が当たっていたのです。
ナイジェルは咄嗟に剣を構え、ドグラスも敵意を膨らませ少年──リュシアンを睨みます。
ですが、リュシアンはそれらを受けても、飄々とした口ぶりで、
「やれやれ、随分と歓迎してくれているんだね。まあ、いいや。君達にはやることがあるんだろ? 僕には構わず、さっさと行きなよ。邪魔するつもりはないからさ」
と言い視線を外し、そのまま近くの建物の屋根に飛び移り、どこかへ去っていきました。
「くっ……ヤツめ、逃げるつもりか!」
「このまま放置するのは、ちょっと気になるね」
「ですが、結界も破らなければなりませんし……」
「だったらナイジェル、エリアーヌ、リュシアンは我に任せろ。汝らは中央広場に向かうといい」
「あなた一人で大丈夫ですか?」
「ふっ、我を誰だと思っている。あのような生意気な小僧、我一人で十分だ!」
ドグラスはニヤリと笑い、跳躍。建物の屋根の上を走って、リュシアンが逃げた方角へ消えていきました。
「本当に大丈夫でしょうか」
「まあ、ここはドグラスに任せておこうよ。こうなったら、僕らも急がないといけない。このタイミングでリュシアンが出てきた以上、なにが起こるか分からないんだから」
「そうですね」
頷き、私はナイジェルと共に走り出します。
今まで見つからなかったリュシアン──どうして今更になって、私達の前に姿を現さなかったのでしょうか?
今はまだその問いに答えられず、私達は急いで街中を駆けていきました。





