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【アニメ化決定!】真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです  作者: 鬱沢色素
三章

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338・明日が来て欲しいという願い

 夜の中央広場。


「じゃあ……始めようか」


 私とナイジェル、ドグラス。レティシアとフィリップ、ヴィンセント様──そしてクロードが一堂に介し、空間に生じた亀裂の前に集まります。


 みんなが固唾を呑む中、聖女の加護が付与されたナイジェルが、右手に神剣を召喚します。


 亀裂に向かって一閃しますが──結果は同じ。

 やはり、力づくでは亀裂をこじ開けられないようです。


「今ので大体の状況は分かってもらえたかな?」

「ええ、なんとなくね」

「ナイジェルの神剣でも斬り裂けないとは……よほど強い結界のようだな」


 昨日と同じようなやり取りを、私達の中で交わします。

 その後、順番に亀裂を広げられないか試していきます。


 ヴィンセント様は氷の魔剣で。

 フィリップは雷撃魔法で。

 レティシアは呪いで。


 私も浄化魔法をかけてみますが結果は同じで、亀裂は元のままでした。


「……やはり、昨日と同じではダメのようですね」


 しかし、あらゆる攻撃や浄化の光を浴びせてもダメなら、次はなにをするべきなんでしょう。


「…………」


 一方、クロードは亀裂がある方を眺めて、なにかを考え込んでいるようでした。


「クロード?」

「いや……」


 声をかけると、クロードはこう話し始めます。


「その亀裂……なにかが気になってな」

「気になる?」

「ボクに馴染みが深いような力だ。これなら……」


 そう言って、クロードは近づき、両手で亀裂を無理やりこじ開けようと試します。


「くっ……! やはり、ボクの力だとビクともしないな。だが、レティシアも頑張ってるのに、ボクだけ指を咥えて待つわけにはいかん!」

「ちょ、ちょっと、クロード! あんま無茶をしないで!」


 レティシアも慌てて、クロードを止めようとします。


 しかし、その瞬間。

 亀裂から断末魔の叫びを上げながら、時の亡霊が這い出て、クロードに襲いかかります。


「う、うわああああ!」


 自分の体に纏わりついてこようとする時の亡霊に、悲鳴を上げるクロード。

 結界魔法……いえ、間に合いません!?


「クロード!」


 レティシアが手を伸ばします。


 それよりも早く、時の亡霊がクロードの首元を食い破ろうとして……。


「あれ?」


 ですが、時の亡霊がクロードに触れた瞬間。

 嘘かのように時の亡霊がただの煙となり、やがて完全に消滅してしまいました。


「あ、あんた、大丈夫なの!?」

「あ、ああ」


 しゃがんでクロードの安全を確認するレティシアに、彼は戸惑いの表情で頷きます。


「時の亡霊がクロードに触れた瞬間、消えたように見えたぞ」

「攻撃が不発だったのか?」


 ヴィンセント様、そしてフィリップが順番にそう口にし、クロード達に視線を注ぎます。


「おい、エリアーヌ。これはどういうことだ?」

「完全に時の亡霊が、クロードを食い破ろうとしたと思うんですけれどね。これは……」


 どうして時の亡霊の攻撃がクロードに通用しなかったのか分からず、私もすぐにドグラスに答えを返しません。


 一方、レティシアは少し考えてから、


「……っ! 分かったわ」


 と手を叩きました。


「なにが分かったんですか?」

「この結界を動かしているのは魔力じゃなくて、呪いなのよ!」


 立ち上がり、レティシアが私に顔を向けます。


「呪い?」

「うん。わたしたちは『結界』と聞いて、それが魔法なのだと思い込んでいた。だけど、時の亡霊がクロードに触れた瞬間、消滅したのを見て分かった。術者と結界を繋いでいる繋がりは、魔力なんじゃない──強烈な負の感情。つまり呪いってわけ」

「なるほど。ならば結界の亀裂から生じる時の亡霊も、元は呪いの力だと考えれば腑に落ちる。だから時の亡霊がクロード王子に触れた瞬間、消滅したんだ」

「うん」


 ナイジェルの言葉に、レティシアが首を縦に振ります。


 ベルカイム王国には元来、聖女は時の王太子と結婚し、子を産むしきたりがありました。

 それは私がベルカイムを追放されたからなくなったのですが、先代までは別。つまりクロードは先代聖女の子どもなのです。

 先代聖女の力を一部引き継いだクロードには、呪いに対する抵抗力が人一倍ありました。だからでしょう。


「少しは、ボクも役に立ったみたいだな。それなら話は早い。力づくでこじ開けるのではなく、解呪すればいいだけなんだから。エリアーヌ──」

「いえ」


 クロードの言葉に、私は首を横に振ります。


「確かに……私は今まで、亀裂──つまり結界ということで、それが魔法なのだという先入観がありました。なので、レティシアのようにその奥に眠る強い感情……結界と術者を繋いでいる呪いについては、気が付きませんでした」

「だったら──」

「ですが、私もなにもしていなかったわけではありません。あらゆる可能性を考えて、今まで何度か解呪も試してみたんです。ですが、なんの反応もありませんでした」


 だからこそ、余計に時空を覆っている結界の原動力が呪いだと、気が付かなかったんですね。


 私が言ったことに、再び場の空気が重くなります。


「どうすればいいのかな? レティシア嬢、呪術士である君なら、なにかいい方法が分かるんじゃ?」

「そうね……」


 顎に手を添え、レティシアがこう話し始めます。


「……この結界を維持している呪いは、『明日が来てほしくない』という負の感情……つまり、強い想いでしょうね。だから、一日を何度もループさせてるのよ。

 だったら、その真逆の『明日が来てほしい』という強い想いをぶつければいいんじゃないかしら? エリアーヌが使う解呪というのも、根本的にはそういう力が働いているから」

「抽象的な話だね。だけど、『明日が来てほしい』という想いは、みんなも持ってるはずだよね? しかも僕とエリアーヌは、何度も今日という一日を経験している。明日を望む想いは、相当強くなっているはずだけど……」


 ナイジェルが顎に手を添え、そう口を動かします。


「……もしかしたら、俺達が結界の内側にいるからかもしれないな」


 考えていると、次にフィリップがぽつりと呟きます。


「結界の内側にいるから、その効力が俺達にまで及んでいる。だからどれだけ強い想いを抱いても、それがかき消されるんだ」

「そ、そんな……」


 私は思わず、声に詰まってしまいます。


 今日という一日をループさせる結界と術者を繋ぐ力は、『明日が来てほしくない』という想いの強さ。

 この結界を破るためには、『明日が来てほしい』という真逆の想いをぶつける必要がある。


 だけど、結界の内側にいる限り、私達の想いの強さがかき消されてしまいます。

 結界を破るためには、外に出なければならない。ですが、簡単に外に出られるなら、苦労はしていません。

 堂々巡りです。


 大きく前進はしたものの、高い壁に阻まれました。


「結界を破るためには、結界の効力が及ばない『外』に行かなければならない……ということか。本末転倒な気もするな。しかし──」


 ヴィンセント様はふっと笑いかけ、私に顔を向けます。


「もう少しで一日が終わる。何度ループしても、お前は諦めないんだろう? どれだけ不可能だと思われても、前に進み続けようとするに違いない」

「ええ、その通りです」


 力強く頷いた瞬間、いつもの眩暈が。

 ハッとなった時には、ヴィンセント様も──そしてレティシアとクロード、他のみんなも消えていました。


「これで六回目のループだ」

「そうですね」


 ナイジェルの言葉に、私はそう答えます。


「最後にヴィンスが言い残したように、諦めるわけにはいかない。それになにも分からなかったわけじゃない。少しずつ前に進んでいこう」


 そう言って、ナイジェルは私に手を差し出し、私はその手を握りました。


 ……難題が私達の前に立ちはだかりました。

 ですが、不思議と諦める気にはなりません。


 必ず、この一日から抜け出す──強い覚悟を抱いて、私達はその場を後にしようとすると、



『エリアーヌ』



 女性の声が頭に響きました。


「誰ですか?」


 振り返りますが、誰もいません。


 今の声……どこかで聞いたことがあります。

 あれは、そう──魔法研究所。

 お伽話にあった魔法の双剣を握った時、私に呼びかけた女性の声と同じもののような気がしました。


「エリアーヌ、どうしたんだい?」

「いえ、誰かに話しかけられた気がして」

「え?」


 ナイジェルが首をかしげます。


 不思議なことですが、彼には聞こえていないよう。


 一体、誰なんでしょうか……それとも私の初耳。


 疑問でしたが答えは出ず、もやもやした気持ちを抱えながら、今度こそ私はその場を去りました。



 ◆ ◆



「なにかに気付いたようだね」


 エリアーヌ達が帰路につく中。

 少し離れた建物の上で──リュシアンは、彼女達の様子を眺めていた。


(やっぱり、僕の想像通りだ。君達はどんな状況でも、勝利を手繰り寄せようとする)


 エリアーヌやナイジェルの強さは、いわばその『諦めない心』にあったのだろう。

 その強い心のおかげで、一年前は魔王。最近ではアマツで《赤き災厄》すらも退けた。


「少しずつ、結界は開いている。この調子なら、彼女たちは(こいがね)いていた“明日”を掴めるはずだ。でも──」


 リュシアンは口元に笑みを浮かべて、こう続ける。


「それが命取りだ。君達が前に進もうとすればするほど、破滅に近付いていく」


 リュシアンの姿が常闇に消えていく。


 完全にその場を後にする前に、リュシアンはこういう言葉で締め括った。




「さあ、踊り続けるといい。真実に辿り着いた時、君達がどういう顔を見せてくれるか楽しみだよ──」

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