337・★ループ五回目
■■ループ五回目■■
そして、再び夜が明けます。
朝起こしにきたドグラスに五回目の説明を終えてから、私は再びレティシアに連絡を取ります。
彼女は同じように快諾。
今回も『ゆっくり来て』と言われましたが……。
「こんなに早く来て、よかったのか? ピンク髪女には、昼から来てと言われているのだろう?」
昼前。
レティシアと連絡を取り私とドグラスはすぐにリンチギハムを発ち、ベルカイム王城に到着していました。
「気になるんですよね」
王城の廊下を歩きながら、私はこう口にします。
「昨日──いえ、前回のループの際、レティシアは酷く慌てている様子でした。まるで、私に都合の悪いことを聞かれたくないかのように」
慌てて駆け寄ってきたレティシアに問いかけても、彼女は答えをはぐらかしていました。
関係がないことかもしれませんが……今は少しの変化も見過ごすわけにはいきません。
「だから早く来れば、レティシアが慌てていた理由も分かると思いまして」
「そうだったのか。だが、早く来たくらいで、早々に口を割るものか? 真正面から行ったところで、また適当に誤魔化されるのでは」
「分かりません。ですが、彼女は今クロードの自室にいるはず。今度は私達から、レティシアを迎えに行きましょう」
そう言いながら私は昨日、偶然出会ったカーティスから言われた言葉を思い出します。
『レティシア様ですか? 確かクロード殿下の部屋にこもって、なにかを話している様子でしたが──』
クロードの部屋──きっと、レティシアの異変の理由はそこに隠されているはず。
幸い、私は元々ここで聖女を務めていました。
なので、城内の造りや部屋の場所は、まだなんとなく覚えています。
気持ちが先走り、気づけば足取りは早くなります。
そしてクロードの自室の前まで到着。
すると……。
「──だーからっ。あん──は来なくても──ってば!」
「なにを──うんだい。レティシア一人を危険に晒す──いだろう?」
中から、男女が言い争っているような声が聞こえてきました。
「まさか……」
嫌な予感を覚えながら、部屋の扉を開けます。
するとそこには予想通り、レティシアとクロードの二人がいました。
「エ、エリアーヌっ!? あんた、もう来てたの? ゆっくり来てって伝えてたのに……」
私に気付き、レティシアが慌てた表情を見せます。
一方、クロードは罰が悪そうな顔を浮かべました。
「少し気になることがありまして。──それよりも、この惨状はなんですか?」
クロードの自室はまるで激しい戦いの後のように、散らかっていました。
ものが散乱し、ベッドのシーツも大きく捲れ上がっています。
只事ではない状況に、思わず体が強ばります。
「だ、だって! レティシアが一人で行くって言ってるんだぞ!?」
クロードが胸に手を当て、私に詰め寄ります。
「しかも、危ないかもしれないらしいじゃないか! 君の頼みを断るつもりは毛頭ないが、そんな危険なところにレティシア一人で向かわせるわけにはいかない! だから、ボクも行くって言ってたんだ!」
「あんたも連れて行くわけには、いかないでしょ!? あんたが来ても、足手纏いになるだけなんだから!」
「君を守る盾になることくらいは出来る! しかも君は最近、勝手に魔王信教の支部に乗り込んだよね? ボクがあの時、どれだけ君のことを心配したのか分からないのか!」
「もう! なによ! また昔のことを引っ張ってくるつもり!? どんだけ女々しいのよ!」
クロードとレティシアが、再び言い争いを始めます。
……え、えーっと。
レティシアは一人でベルカイムに行こうとしたけど、クロードが必死に止めているということでしょうか?
そして言い争っているうちに、部屋がこのような有様になってしまったと。
「だから前回、あなたは逃げるようにリンチギハムに向かおうとしたわけですか……」
溜め息混じりに、ぽつりと呟きます。
ギリギリまで言い争っていたのでしょう。ゆっくりしていれば、クロードが追いかけてくるかもしれないと。
私達にゆっくり来るように促したのも、この状況を見られたくなかったというわけですか。
「ガハハ! 相変わらず、ベルカイムのバカップルは仲がいいな。仲がいいほど、拳と拳で語り合うという言葉もあるしな!」
二人が言い争っている様を眺めて、ドグラスが楽しそうに笑います。
仲がいいほど、拳と拳で……もとい、喧嘩するという言葉は確かにありますが、二人には争ってほしくない。
だから。
「……すみませんでした。私が急に声をかけたせいですね」
頭を下げて、二人に謝ります。
「そ、そんな! 君のせいじゃない!」
「そうよ。悪いのは全部、こいつ。そろそろ王位を継承することも考えないといけなのに、いつまで経っても子どもなこいつのせいなんだから!」
「ボクがレティシアを一番に考えるのは当然だ! それは仮に王位を継いでも同じ。君の幸せを実現するため、国を豊かにする!」
クロードが堂々と宣言します。
その宣言を受けて、レティシアの顔が一瞬緩んだのが見えました。
色々言うものの、やっぱりクロードが大好きなのは、お変わりないようです。
「クロードの心配も分かります。なのでレティシア、クロードも連れて行ってあげるのはどうですか?」
「は、はあ!? なんのために?」
私の提案に、レティシアは声を荒らげます。
「こいつ、ただの足手纏いになるわよ!?」
「うっ……その通りかもしれないが、そんなにストレートに言わなくてもいいじゃないか……」
一方クロードは、唇を尖らせて不満そうに呟きます。
「このままじゃ、クロードもレティシアをベルカイムに向かわせないでしょう。無理やり城を出ても、後から追いかけてきそうです」
「そ、そうだそうだ! レティシアを一人で危険な場所に向かわせるわけにはいかない!」
味方が増えたと分かって、クロードがパッと表情を明るくします。
まるで子犬みたいです。
「ドグラスもいいですよね?」
「おう、問題ないぞ。定員が一人や二人増えようが、背中には乗せられる。時の亡霊とやらが襲いかかってきても、我が守ってやろう」
ドグラスにも聞くと、彼は力強く頷きました。
「はあ……」
一方のレティシアは深い溜め息を吐きます。
「こうなるってなんとなく分かってたから、来てほしくなかったのよね……分かったわ。エリアーヌが良いって言うなら、もうわたしは止めない」
「本当かい!?」
「ただし! 勝手な行動はしないこと! そのせいで怪我をしても、文句は受け付けないんだから!」
「ああ、もちろんだ」
クロードが楽しそうに何度も頷きます。
少し予定が狂いましたが、昨日と同じように行動を取っても、結果は変わらなかったでしょう。
今は少しでも、ループから脱出するために変化を求めるべきです。
「あっ、そうです──レティシア。昨日……というと、ややこしいですね。前回のあなたは、結界の亀裂を見てなにかに気付きかけていたんですが、心当たりはないんですか?」
「え?」
不思議そうに目を丸くするレティシアに、昨日の出来事を伝えます。
「……悪いけど、昨日のわたしがなにを考えていたかは分からないわ。現場を実際に見たら別かもしれないけどね」
しかし、レティシアは首を横に振ります。
「そうですか……」
「まあ、こうなることは分かっていたではないか。ループの記憶を引き継げるのは、エリアーヌとナイジェルだけなのだろう?」
暗い顔をする私の背中を、ドグラスが励ますように叩きます。
「ドグラスの言う通りですね。では、行きましょうか。フィリップとヴィンセント様も迎えに行きますが、今から出発すれば夜までには十分間に合うでしょう」
「そうね」
そう返事をするレティシア。
こうして私はドグラスとレティシア──そしてクロードの四人と、ベルカイム王城を後にするのでした。





