335・★ループ三回目
■■ループ三回目■■
三度目のループ。
夜になるのを待ち、私達は中央広場に向かいます。
今日はナイジェルだけではなく……。
「全く……未だに信じられないな。まさか、一日がループしているなどと。こういうやり取りも、汝らにとって三回目なのだったか?」
ドグラスもいます。
彼の言葉に頷き、中央広場を見渡します。
「人払いは済んでいるようですね」
「うん。時の亡霊が出てくると分かっているのに、ここにみんながいてもらう必要はないから。僕達がいればみんなを守れると思うけど……念のためだ」
とナイジェルが答えます。
昨日は急なことだったので仕方がありませんが、今日は違います。
昼間のうちにナイジェルが手を回し、夜には人々が中央広場に近付くことを禁じました。
そのおかげで、昼間はあれほど活気付いていた中央広場が、今は静けさに包まれます。
「エリアーヌ、今日も亀裂はあるかい?」
「はい。やはり、夜のこの時間にしか亀裂は現れないようですね」
昨晩の時計塔の前まで近付くと、空間に同じような亀裂が生じていました。
亀裂の先は、虹を封じ込めたような七色。
この結界を破れば、明日を迎えられるはずです。
「ドグラスはどうですか?」
「おう、ばっちり見えるぞ。もしかしたら、人間以外の種族や、魔力などの特別な力がある者には見えるかもしれないな。これをこじ開ければいいのだろう?」
ポキポキと拳を鳴らすドグラス。
「じゃあ、早速思いつく限りのことをやってみようか」
「はい」
頷き、ナイジェルに聖女の加護を付与します。
聖女の加護によって、ナイジェルの体から黄金の輝きが放たれます。
彼はなにも持たないまま、右手を高く掲げました。
「おいで──神剣」
天上から舞い降りるは光の剣。
ナイジェルは神剣を手に取り、亀裂に斬りかかります。
ズシャアアアアンッ!
空間を斬り裂くようなすさまじい音が聞こえたかと思うと、光の粒子が辺りに散らばります。
「どうだ!?」
「いや──」
ドグラスが目を見張ると、ナイジェルは暗い顔をして俯きます。
ナイジェルが一閃した場所。
そこには──先ほどまでから変わらず、亀裂が残ったままになっていました。
「手応えがないね」
「神剣の一撃ですら、結界は破られぬというわけか。これは、思った以上に厄介かもしれ──」
ドグラスがそう言葉を続けようとした時、亀裂の中から時の亡霊が現れました。
「これが汝らの言う、時を歪める亡者か」
私達の周りを浮遊する時の亡霊を、ドグラスは虫を払うようにはたき落としました。
「邪魔なヤツらだ。まあ、この程度では準備運動にすらならないがな。ガハハ!」
「ドグラス、油断はいけませんよ」
高笑いを上げるドグラスを、私は軽く嗜めます。
時の亡霊を全て消滅させた後、今度はドグラスが亀裂の前に立ちます。
「今度は我がやってみよう」
そう言って、ドグラスは『竜の騎士』モードになります。
竜の姿を模した鎧に身を包んだドグラスの右手には、先ほどまでなかった槍が持たれていました。
人間社会に溶け込み、長く暮らしてきたドグラスは、竜と人の力強さを掛け持ちます。
竜人一体──それが『竜の騎士』モードの正体です。
「時の亡霊どもは汝らに任せたぞ。本気を出す──うおおおおおお!」
ドグラスが両手で槍を構え、亀裂を激しく突きます。
衝撃波が生じ、周囲一体が風で揺れます。
しかし。
「……ちっ。やはり、難しいか」
舌打ちするドグラスの前には、やはり亀裂が残ったままになっていました。
肩を落とす間もないまま、時の亡霊が再び現れます。
私達はそれらを一瞬で倒し、ドグラスに向かい合います。
「なにか分かりましたか?」
「いや……ほとんど手応えすら感じなかった。こんなことは初めてかもしれぬ」
「まあ、無理もないよ。なにせ、空気を斬り裂けって言ってるような話だし。しかも僕には、君達が見えている亀裂すらも見えない」
とナイジェルが肩をすくめます。
ドグラスとナイジェル、両者の力を借りても、亀裂を広げることは無理でしたが、諦めるわけにはいきません。
再び亀裂に挑もうとすると、
「あっ……」
また眩暈がして、次の瞬間には亀裂もドグラスも私の前から消えていました。
「……また日を跨ぎましたか」
「これで四回目のループになるね」
とナイジェルも口にします。
今日で決着を着けることは出来ませんでしたが、少しずつルールが分かってきました。
一つ目。このループは時空を覆う結界を張っているためであると考えられること。
二つ目。結界の亀裂をこじ開けようとすると、時の亡霊が現れて、私達の邪魔をする。
三つ目。結界の亀裂が生じるのは、夜の中央広場。日を跨げば消滅する。
四つ目。亀裂は誰にでも見えるものではなく、私やドグラスといった限られた者だけ。
……といったところでしょうか。
「今日も夜になったら、ここに来よう。神剣やドグラスの槍では無理だとしても、他になにか方法があるはずだ」
「はい」
そう答え、今日も私達は帰路につくのでした。





