333・謎の少年の所在
リンチギハムに戻ってから、ドグラスは城内の異変を探り、私とナイジェルは街に出て少しでも手がかりを見つけようとしました。
ですが、やはり前回と同じことが繰り返されるだけ。
焦りを募らせていると、いつの間にか日も落ち始めて、街は夜闇に染まりつつあります。
往来する人の数も徐々に減って行き、道端の魔導灯がぽつりぽつりと灯り始めます。
「ループ以前はこれくらいの時間帯に中央広場に行けば、謎の少年がいました。彼がなにか知っているといいんですが……」
そう呟きながら大通りを歩き、やがて中央広場に辿り着きます。
そして、時計塔の前。
そこで足を止めますが……。
「あれ? いません」
前回は、あれほど目立っていた少年。
一度見たら忘れられないくらいの印象を与える少年ですが、忽然と姿を消していました。
「本当にここだったのかい?」
「はい、どうしてでしょう。時間も間違っていないはずなのに……」
前回と今回、街中を歩き回って、私達が干渉しなければ人々が全く同じ行動を取っていることは観測済み。
その法則に則れば、彼もここにいると思ったんですが……。
「とにかく、もう少し辺りを探してみましょう。どこかにいるかもしれませんから」
「そうだね」
その後、ナイジェルと辺りを隈なく探索しましたが、昨日の少年の姿は見当たりませんでした。
「おかしいですね……どうしてでしょう?」
時計塔の前に戻ってきて、私は頬に手を当てます。
「今のところは分からないね。それに人々が昨日と同じ行動を取るとはいえ、僕達は違う。なるべく同じ行動を取るようにはしたけど、微妙に話す内容も違うし、その影響が巡りに巡って少年の存在を消してしまったかもしれない」
ナイジェルがそう推論を口にします。
どうしましょう。同じ一日が繰り返される異常事態の中、彼だけが唯一の手がかりだったのに……。
「一体、どこに──あれ?」
そこで私は気が付きます。
「ナイジェル、見てください」
「ん?」
私が指差す方に、ナイジェルが視線を移します。
時計塔の前。
その目立たない場所に──不思議な黒い物体が浮いていました。
細長くて、まるで線が入ったような……いえ、これは亀裂?
先ほどは気が付きませんでした。
しかし。
「うーん……うっすらと、嫌な感じがするような。ここが、どうかしたのかい?」
「ナイジェルには見えないんですか?」
私は問いかけますが、ナイジェルは当惑した表情で返します。
周囲にも視線を向けてみると、中央広場にいたみんなはこの不思議な亀裂を意にも介さず、過ごしているように思えます。
私にしか見えない?
だったら、これは……。
「亀裂……私にしか見えない……そして、僅かな魔力も感じる。もしかしたら──」
導かれるように私は手を伸ばし、その亀裂に触れようかとした瞬間。
「え?」
浮遊感が体を包み、そのまま目の前が真っ白になりました。
薄く白みがかった世界。
その世界の中で──私は街の中央広場に立っています。
(私はなにを見ているんでしょうか?)
口を動かしますが、声にはなりません。
先ほどまで夜だったというのに、今は空に太陽が昇り、周囲を明るく照らしていました。
街は相変わらず、祭り前日の活気付いた雰囲気で──いえ、少し違います。
今日よりも往来する人々の数がさらに多く、笑顔で満たされています。
大通りに並んでいる出店もお客さんに対応しており、当日予定されていたイベントも開催され──。
(これは……祭りの当日)
私達が何度やっても掴めない、明日という未来。
求めていた明日の光景が、目の前に広がっていたのです。
ですが、この光景も長くは続きません。
白みがかった世界はさらに薄くなり、やがて目の前が再び眩い光で覆われ──。
「エリアーヌ!」
ナイジェルの声によって、意識を引き戻されます。
「ナイジェル……」
気付けば、ナイジェルが私の両方を強く掴み、心配そうな顔で揺さぶっていました。
「よかった! 急にぼーっとして、いくら話しかけても返事がなかったんだ。どうしたんだい?」
「え、えーっと……」
戸惑いながら、私は先ほど見た光景について話しました。
するとナイジェルは顎に手を添え、真剣な顔つきになります。
「祭り当日の光景が見えた、か。幻や夢の類だとも考えられるけど、気になるね」
「はい。あの光景は一体なんだったんでしょう?」
首をひねります。
分かりませんが、なにか手がかりかもしれません。
私はもう一度空間に生じた亀裂に、手を触れようとすると──。
「え?」
伸ばしかけた慌てて手を引っ込めます。
次の瞬間、亀裂の中から煙のような存在が飛び出してきました──。





