332・★ループ二回目
■■ループ二回目■■
ループ二日目。
同じようにこの状況を打破すべく、私達は行動を始めました。
ですが、昨日と同じことをやっていても、また繰り返しになるだけ。
そう思った私とナイジェルは、ドグラスに頼んである場所に連れて行ってもらうことにしました。
その場所とは……。
「久しぶりだな」
精霊の村。
黒髪で少年のような見た目をした精霊が、私達を出迎えてくれます。
彼はフィリップ。
見た目は十五ほどの少年ですが、実際の年齢は私達よりもずっと上。二百年以上は生き、私達が生まれるよりももっと前から、この世界を見守ってきました。
そんな彼なら、なにか知っているはず。
その後、私達は挨拶もそこそこに、木の上にあるフィリップの家に場所を移しました。
「せいじょさまー」
「こちらをどうぞですー」
フィリップより一回り小さい精霊が、テーブルに料理を並べてくれます。
野菜のボトフです。
元々、精霊は必ずしも食物の摂取を必要としていないため、食に淡白でした。
ですが、精霊の水をもらうお返しとして、私が頻繁に料理を作りにきたため、その美味しさに目覚めました。
今では料理人を目指す精霊もいるのだとか。
最初にここを訪れた時から変化を感じられ、ほっこりします。
「ありがとうございます」
そうお礼を言って、野菜のボトフに口をつけます。
……美味しい!
野菜の温かみが体の芯までじんわりと染み渡り、こんな状況ですが、心が癒やされていくようでした。
「最近はどうだ? 明日は女神祭当日だろう」
「うん、そうだね。最近はそこそこ忙しくて、ここに来る暇もなかった」
「そうか……まあ、君だったら涼しい顔をして、やり遂げるんだろうな。俺はベルカイムの王子達と定期的な話し合いがあるから行けないと思うが、陰ながら応援しているよ」
「そのことなんですが……」
私は、今日という一日がループしていること。
色々と試してはいるものの、このループから抜け出せないことをフィリップに伝えました。
「そんなことが……!」
話し終えると、フィリップは驚きで目を見開きました。
「全く、気が付かなかった。まさか、君達──いや、俺達も含まれているのか。俺達がそんな状況に陥っているとは」
「汝はなにか心当たりはないのか? たとえば──時を操るような術だ」
フィリップに、ドグラスがそう問いかけます。
それを受けて、フィリップは顎に手を添え、一頻り考えます。
やがて。
「……いや、聞いたことがない。そもそも時を操るなど、本来有り得ないものなんだ。少なくとも、俺が過ごした二百年間で、そのような術を使える者はたった一人しか知らない」
と首を左右に振りました。
「たった一人……というと、シルヴィさんのことですね」
「そうだ」
フィリップが私の目を真っ直ぐ見つめて、そう答えます。
シルヴィさんは長命竜アルターとの戦いの際、ファーヴが死ぬことによって力を発動し、数時間前に時を戻してくれました。
そのおかげで、私達は長命竜アルターを撃破。現在に至るというわけです。
時を操る力と聞いて思い浮かべる人物だけど、彼女の力はたった一度きり。
しかも彼女はファーヴと一緒に、時の牢獄に今もなお閉じ込められているはずです。
「シルヴィ……ファーヴの恋人だな」
とドグラスが腕を組みます。
「そもそも、時に干渉する力とは、どのようなものなのだ? 原理さえ分かれば、それを跳ね返すことが出来るかもしれぬ」
「時に干渉するなどといった行為は、通常なら不可能だ。ゆえに俺でも詳しい原理は知らない。それでも──」
フィリップはそう前置きをして、こう続けます。
「時を歪ませ、かつそれを大多数の人間に気付かれないようにする──もし、そのようなことを可能とするなら、やはり魔法が関わっているだろう」
「魔法」
「うむ。しかも、世界全域に魔力を行き渡らせる必要がある」
「そうですね。一部だけに魔力を行き渡らされたとしても、必ず歪みが出てしまいます。そうなると、術自体が破綻するはずです」
私もそう意見を口にします。
「とはいえ、時間を操る術に限らず、世界全域に魔力を行き渡らせ、かつそれを維持し続けるなど非現実的だ。必ずどこかで解れが出る。だが──唯一それを可能とする術が存在する。君達もよく目の当たりにしているはずだ」
「我らが……か?」
ドグラスは答えが分からないのか、首をひねります。
「結界を張る……かな」
一方ナイジェルはその可能性に気付き、そう口にします。
正解と言わんばかりに、フィリップが首を縦に振ります。
結界魔法。
私は聖女として、世界中の街や村々に結界を張っています。
この結界は半永久的。外から大きな衝撃が与えられたり、私が結界を解除をしなければ、人々を守り続けます。
私がその場にいなくとも──です。
一度結界を張ってしまえば、最小限の魔力でその内側に魔法の効果を行き渡らせることが可能となります。
フィリップが言っているのは、つまりそういうことでしょう。
「時の聖女シルヴィが数時間前に時を戻したのも、原理的には結界を張ったおかげだと思う。もっとも、彼女も細かい原理まで理解していたのかは不明だがな」
とフィリップは肩をすくめます。
「なんにせよ世界全域に結界を張れば、一日を何度もループさせることが可能になるかもしれない」
「とはいえ、世界全域に結界を張る……という規模でもないと思いますけれどね。なにせ、対象は『時間』です」
「その通りだ。分かりやすいように『世界』とは言ったが──その範囲は俺達が過ごす時間、『時空』そのものだからな。時空そのものを覆う結界を張る。もし本当にそれが可能なら、途方もない力の持ち主なのだろう。それこそ──魔王以上の」
魔王以上。
その言葉を聞き、場が重苦しい空気に包まれます。
だけど。
「そう暗い顔をしても、仕方がないだろう。今は対抗策を考えるべきだ」
とドグラスがニヤリと笑い、自分の手のひらの拳をぶつけます。
「ドグラスの言う通りだね。仮に時空そのものに結界を張っているとするなら、結界を破ればこのループから抜け出せるんじゃ?」
「だと思います」
……やっぱり、ナイジェルもドグラスも、フィリップも頼りになります。
私一人では、途方に暮れていただけでしょうから。
か細い糸ですが手繰り寄せることが出来て、気持ちが前向きになりました。
「あっ、そうそう。ループする以前の出来事を思い出していたんですが……」
私は前置きをして、こう続けます。
「一つ、気になることがあるんですよ」
「気になること?」
「はい。ループする以前、私は不思議な少年に出会いました。彼は……」
私は中央広場で出会った、歌を口ずさむ銀髪の少年のことを説明しました。
「だから、リンチギハム王都の外から来たと思ったんですが……ナイジェルはなにか知っていますか?」
「いや──知らないね。そんな目立つ子どもがいたら頭に入っているはずだけど、王都民にはいなかったはずだ」
そう答えるナイジェル。
「心優しい巨人の歌を口ずさんでいた……か。気になるな。しかもいきなり姿を消すなど、明らかに怪しい」
ドグラスも私と同様に引っかかりを覚えたのか、神妙な顔つきで口にします。
「もしかしたら、そいつがなにか知っているかもしれぬな」
「はい。なので今日、もう一度会いに行ってみようと思います。ナイジェルも来ていただけますか?」
「うん、もちろんだよ」
と自分の胸を叩くナイジェル。
方針は決まりました。
一日がループしている状況が働いている理由は、時空に結界を張って、なんらかの魔法を発動させている可能性が高い。
ならば、その結界を壊せば、ループから脱出出来るかもしれない。手がかりは少ないけれど、一度その方面も当たってみる。
さらに今晩、謎の少年に話を聞きにいく。一日がループしている以上、今晩も中央広場に行けば会えるでしょうから。
……といったところですか。
「今日がダメでも、また明日──ループしているはずだ。何度でもチャレンジしよう」
ナイジェルもそう力強く言います。
「一日がループしているとはいえ、それ以外に異変が起こっていないのが幸いでしたね。ループする度に人が傷ついていく……という状況なら別ですが、何度でも挑戦することが出来ます」
「そうだね。もっとも、この状況がずっと続くのかは分からないから、油断は大敵だけど」
「街は平和そのものだ。汝らから話を聞かされていなければ、我も呑気に平和を享受していただろうな。ガハハ!」
場をさらに明るくしようとしてくれているのか、ドグラスが豪快に笑います。
ですが、フィリップだけは別で、
「平和……か」
と俯き加減になって、ぼそっと呟きました。
「フィリップ?」
「いや、なんでもない。少し嫌なことを考えてしまった。今の君達に言うべきことでもないからな」
問い返しますが、フィリップはさらっと話を流してしまいました。





