330・★ループ一回目
■■ループ一回目■■
──ベルカイム王城内。
その高台の上から、リュシアンは微笑んでいた。
彼の視線は一点に向けられている。
エリアーヌの私室だ。
「やっと、気付いたか。少し遅かったね」
リュシアンの口ぶりはまるで歌っているかのごとく美しく、祭りの始まりを心から楽しんでいるようだった。
昨夜、彼はエリアーヌに接触した。
明日の祭りを心から楽しみにしている彼女は、今その瞬間の幸せがずっと続いていくのだと確信しているようだった。
そしてそれは図らずとも、実現する。
ベルカイムは永遠という名の鳥籠に囚われ、偽りの幸せを享受し続ける。
「さあて、君達はこの永遠の一日から逃がれることは出来るかな?」
そう呟き、リュシアンは姿を消した。
先ほどまで彼がいたはずの高台には、もう誰もいない。
◆ ◆
それから。
私とナイジェル、ドグラスの三人は城内の会議室に場所を移し、現状について話し合っていました。
「本当なのか? 祭り前日が、ループしていると」
腕を組み、ドグラスが真剣な顔をして問いかけます。
「ああ」
ナイジェルが頷きます。
「僕だって、最初は信じられなかった。だけど、朝起きたらどうもおかしい。他の大臣や使用人にも聞いて、どうやら今日が祭り前日だということが分かって、こうして慌てているというわけさ」
「みなさんが勘違いしている可能性はないんでしょうか? 勘違いではなくても、なんらかの精神攻撃を受けて、今日が祭り前日だと思い込まされている……とか」
私がそう質問すると、ナイジェルが首を横に振ります。
「いや……それは考えにくいだろうね。その証拠に昨晩に終わらせた雑務も山積みのままだったから」
うーん……精神攻撃でもないとするなら、本当に今日という一日──私達からすれば、それは昨日なんだけど──が繰り返されていると思うしかなさそう。
「それに──これを見てよ」
とナイジェルは胸元から、あるものを取り出します。
それは懐中時計でした。
「この懐中時計はなかなかの優れものでね。今日の日付も表示されるんだ。ここには、今日が『白狐月の十五日』であることが示されている」
ナイジェルが持っている懐中時計に目を凝らすと、そこには時間だけではなく、うっすらと白い狐のような絵が浮かび上がっていました。
時計盤の片隅には小さく『十五』と書かれており、今もなお秒針が動き時を刻んでいます。
「ちゃんと日が進んでいるなら、今日は『白狐月の十六日』のはず。なのに、この表示はおかしい」
「確かに……そうですね」
「もちろん、これだけなら懐中時計の故障という可能性もあるだろう。だけどこれは最新式のもので、故障したとは考えにくい。決めつけるのはよくないかもしれないけど、一つの基準にしてもいいと思う」
そう言って、ナイジェルは懐中時計を胸の内にしまいました。
「……とにかく、汝らの言っていることが本当なら、明らかな異変だ」
「ドグラスの言う通りです」
「一日がループするなどというのはぞっとする話だ。そのことを、汝らしか認知出来ていないというのも」
ドグラスはそう口にし、悔しそうにぐっと握り拳を作ります。
ドグラスにとって、今の状況は信じ難いことでしょう。
だけど、私達の話に真摯に耳を傾け、状況を呑み込もうとしている。
私達を信じてくれるドグラスに、ただただ感謝しました。
「なんにせよ、我らはこの一日から逃れなければならない。どうする?」
「昨日と変わらず行動してみよう。そうしていく中で、なにかが見えてくるかもしれないから」
「そうですね」
もちろん、私達の考えが杞憂に終わる可能性もあります。
今日という一日が繰り返されるのはこの一度きりで、明日になれば元に戻っている可能性もあるのですから。
ですが、そう楽観視しすぎるのはよくないでしょう。
私達は普段と変わらない行動を心がけ、この一日がループする理由を探らなければ。
「うむ、我もナイジェルの意見に賛成だ。だったら、我は城内に異変がないか確かめよう。昨日はセシリーとラルフに付き合って──」
「あれー? にぃに、こんなところにいたの?」
ドグラスが言葉を続けようとすると、セシリーちゃんがラルフちゃんと一緒に、会議室に顔を出しました。
「セシリーちゃん、どうされましたか?」
「んー、ドグラスを呼びに行こうと思ってエリアーヌお姉ちゃんの部屋に行ったら、誰もいなかったの。だからお城の中を探し回っていたけど、この部屋から声が聞こえたから」
そういえば、昨日はドグラス、私を呼びに来たナイジェルと話し合っていると、今と同じようにセシリーちゃん達がやってきました。
祭りの準備を手伝ってもらうため、ドグラスを探していたんですね。
セシリーちゃんが来る前に、私達はここに場所を移してしまったので、前回とは違って会えなかったのでしょう。
「こちらは我に任せろ。汝らは城の外へ向かうといい」
「じゃあ、城の中はドグラス達に任せるよ。エリアーヌ、僕達も行こうか」
「はい」
頷き、ナイジェルと一緒に会議室を出ます。
出て行き間際、セシリーちゃんとラルフちゃんが不思議そうな顔をして、首をかしげていました。





