325・シキVSリュシアン
おかげさまで、『真の聖女』の2027年アニメ化が決定しました!
これも応援&ご協力していただいた、皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
アニメ化決定を祝しまして、『終わらない一日と失われた輝き』編(全30話)を一挙公開します!
お楽しみいただけましたら、幸いです。
──リンチギハムの古代遺跡。
そこに一人の少年が足を踏み入れていた。
「まさかリンチギハムに、こんなところがあっただなんてね」
少年がそう呟く。
白銀の輝きを含んだ、見事な銀色の髪をした少年だ。
歳は十を超えたほどであろうか。その顔からはあどけない印象を受けるが、同時に老獪なしたたかさも感じる。
少年が地面を一歩踏み締めるたびに、天井からパラパラとまだらに砂や石片が落ちた。
顔に付いた砂を拭う素振りすら見せず、彼は目の前を見据える。
「さあ、始めようか」
少年は手をかざす。
その瞬間、少年の足元の魔法陣が起動した。
魔法陣は光を発し、周囲を七色に染め上げていく。
「覚醒めよ。昨日を今日へ、今日を明日へ、明日を過去へと歪ませろ。今ここに、深い眠りより呼び起こす。再びこの世に顕現せよ──《時の巨人》」
やがて七色の光が一つに収束していき──。
「──待て」
不意に声。
少年がゆっくり振り返ると、そこには見事な雰囲気を身に纏った妖艶な女性が立っていた。
「へえ」
感心したように少年は零す。
「君と会えるなんて、思っていなかったよ──魔王」
少年の呼びかけに、魔王──シキは眉をピクリともさせずに無表情で腕を組んだ。
美しい見た目をした女性だ。
少年とは対照的に、成熟した大人の女性の風格を持ち合わせる。
一見、見た目は真面目でおとなしそうといった印象だが、少年を睨む目には明確な敵意が滲んでいた。
「もうその名で妾を呼ぶな。妾のことはシキと呼べ」
吐き捨てるようにシキは言う。
「どうして、君がここに?」
「貴様の足取りを追ってきた。アマツのことといい、貴様は余計なことを考えていそうだからな。そしてようやく、貴様のもとに辿り着いたぞ──リュシアンよ」
シキが少年──リュシアンの名を呼んでも、彼はにこにこと笑みを浮かべるだけだ。
(全く動じず……か。不気味な男だ)
声には出さなかったものの、シキは内心で警戒を高める。
「貴様は、ここでなにをしている」
「面白いことさ。そうだね……せっかくだから、ゲームをしようか」
「ゲーム?」
首を傾げるシキ。
「君が僕に勝てれば、僕の知ってる情報を全て教えてあげる。一方、僕が勝ったら真実は永遠に闇の中。どうかな?」
「はっ!」
シキが吹き出し、腰から細身の剣を抜く。
刀だ。
切れ味こそ優れているものの、非常に折れやすい。使い手を選ぶ武器だ。
ミツハの専属侍女を辞めアマツを去っても、シキはこの刀を愛用し続けていた。
「面白い。なんにせよ、貴様も簡単に口を割るつもりはなかっただろう。無理やり聞き出す方が、妾の好みだ」
「ふふふ、君も話が分かるね」
リュシアンも右手に氷の剣を錬成し、シキに斬りかかった。
戦いが始まった。
古代遺跡は刀と剣がぶつかり合う音がこだまする。
すさまじい戦いだった。戦う力を持たない者が両者の戦いを見たら、まともに視認出来ないであろう。
二人の戦いの余波に耐えきれないのか、地下がグラグラと揺れる。
だが。
「ふうん、こんなものか」
リュシアンはつまらそうに欠伸をし、生身の右手でシキの刀を受け止めた。
「もう少し、やると思ってたよ。どうしたの? さっきから、僕の攻撃を防ぐことで精一杯みたいだけど」
「ほざけ……!」
力任せに、シキはリュシアンを押し返す。
(ちっ……! 悔しいが、ヤツの言う通りだ。今の妾では、こいつの動きに付いていくだけで限界なのは否めない)
本来、シキは一人で世界を滅ぼせるほどの絶大なる力を秘めていた。
だが、エリアーヌ達との戦いに破れ、魔王としてのシキは死んだ。
その後、何者かによって肉体と魂が再生されたが、その力は全盛期の十分の一にも満たない。
思うように体が動かせず、シキは歯痒い思いをした。
「まあいいや。そこそこ、楽しませてもらったからね。ちょっとだけ教えてあげる」
跳躍し、シキから一旦距離を取って、リュシアンは続ける。
「僕がこれからしようとしていることは、眠れる巨人の目を覚ますことだよ」
「眠れる巨人……?」
「ああ。かつてその心優しい巨人は、人間の街に高い壁を築いた。その後、姿を消したけど……まだその力は健在だ。リンチギハムにいる聖女には、永遠の時の中で祭りを楽しんでもらう」
リュシアンの言葉に考える。
(巨人……高い壁……ま、まさか……っ!)
シキは驚愕で目を見開く。
「貴様は、古代の災厄を引っ張り出してくるつもりなのか! あの力は、妾でも扱えなかったもので──」
「君に出来なくても、僕ならやってみせる」
リュシアンがパチンと指を鳴らす。
その瞬間、地面に描かれた魔法陣が完全に光をなくし、停止した。
「はい──これで終わり。ここからはエリアーヌ達の仕事だよ。君が抗おうとしても無駄さ。今の君では、巨人の歩みは止められない」
「待て!」
シキがリュシアンに手を伸ばす。
だが、その手は空を切った。
リュシアンの姿がまるで夏の陽炎のようにゆらめき、目の前から完全に消えてしまった。
「ちっ……逃げられたか」
小さく舌打ちをする。
とはいえ、リュシアン自身は逃げたつもりはないだろう。彼はただやるべきことをやり終えたから、消えただけ。
この場でシキを殺すことも可能だったに違いない。
だが、彼はそうしなかった。
元魔王とはいえ、今のシキでは彼の計画を止めることが出来ないと確信しているからだ。
「くそっ……忌々しい。せめて、本来の半分の力でも取り戻せれば、あの小僧の顔を少しは歪ませることが出来ただろうがな」
しかし、それは叶わなかった。
(まあ……いつまでも悔やんでいても仕方がない。今はこれから先の未来のことを考えよう)
シキは忌々しげに顔を歪め、先ほどリュシアンが立っていた地点から目を背ける。
まだこの古代遺跡に残っている魔力を解析し、修復しようと試みた。
「ちっ……完全に穴が空いてしまったか。もう元に戻すことは出来ぬ。エリアーヌ達にすぐに教え──いや」
今更教えても、遅いだろう。なんにせよ、リュシアンの術は発動してしまった。
それに術が起動した以上、直にシキ自身も時の歪みに呑み込まれる。今日あったことも忘れ、平穏な日々を過ごすに違いない。
「ヤツも厄介なものを、目覚めさせようとするものだ。この力は妾とて、御せられない」
だが──。
「リュシアンよ。油断したな。妾はこれで終わるつもりはない。時が来れば、必ず妾は時の歪みから抜け出してみせる。その時には──」
そう言って、シキは服の内側からあるものを取り出す。
それは真っ黒い宝石が付けられた指輪であった。
「この指輪に輝きが灯る時、世界の時は再び動き出すだろう。だからエリアーヌ、ナイジェル──」
シキはリンチギハムでいるであろう、二人の救世主の顔を思い浮かべながら、指輪をぎゅっと握り込んだ。
「貴様らの力だけで、リュシアンの企みに気付いてみせろ。ヤツには、真の狙いがある」
『真の聖女』アニメ化が決定しました!
みなさま、ぜひ放送を楽しみにしてくださいませ。





