表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

346/346

324・不器用な二人の泣き虫

 エリアーヌたちがアマツを去って、一週間が経とうとしている。

 その間、余はアマツの姫として、街の復興に努めていた。


《赤き災厄》によって、街に刻まれた傷痕は深い。

 だが、アマツの民はこれでへこたれるほど柔ではなかった。


 エリアーヌたちが去った寂しさなど感じる暇がないほど、余は毎日働き回った。


 本来なら、執政官であったサネモリが余のサポートに回るはずじゃったが……サネモリは魔王信教の信者として、《赤き災厄》をこの国に招き入れた張本人じゃ。

 エリアーヌが言っていた通り、一命は取り留めたが、牢に入れられ政治の表舞台から遠ざかることとなった。


「そのせいで、本来サネモリがするはずじゃった雑務が余にも回ってきよる。ヤツめ、本当に最後まで迷惑をかけ──」



 ──トントン。



 悪態を吐いていると、不意にノックの音。


「なんじゃ?」


 呼びかけると扉が開き、廊下から顔を現したのは侍女のシキであった。

 彼女はメガネをかけ、表情には感情が宿っていないように見えた。


「今、お時間よろしいですか?」

「よい。じゃが……シキよ、その喋り方はやめてくれぬか? お主の正体を知ってから、むず痒い」


 シキの正体が魔王だということを知った時、余は大層驚いたものじゃ。


 だが、シキの異常なまでの強さ。

 調べても、素性が全く分からない怪しさ。

 それら全てが判明し、すっきりしたというのも事実であった。


「くくく……」


 くぐもった笑いを零しながら、シキはメガネを外し。


「最後くらいは、ちゃんとしようと思ったがな。貴様がそう言ってくれると助かる。妾には、『侍女のシキ』としての口調は合っておらん」

「余もそう思う。今のお主の方が自然体で好きじゃ。で……要件というのはなんだ? 手短に伝えよ」


 問いかけると、シキはあっけらかんと答える。


「いや、なに。侍女を辞職し、この国を去ろうと思ってな」

「……そうか」


 余はそう頷く。


「驚いたりしないのだな?」

「なんとなく察しは付いておったからな。シキよ、今までご苦労だった。《赤き災厄》の一件だけではなく、お主には世話になった」


 それは心からの本音じゃ。

 母上が死んだ時も、余はシキの言葉のおかげで立ち直ることが出来た。


 そんな愛すべき臣下の一人がいなくなることに、一抹の寂しさを覚えるが……今の余には俯いている暇などなかった。


 何故なら、余はアマツの姫。

 余が倒れれば、国が傾くからじゃ。


「お主にばかり頼ってばかりではいかん。これから余は、一人で歩いていかなければならないのじゃ。だからシキよ、これからは自分の進みたい道を進め」

「ほお、あの泣き虫姫が立派になったものだ」


 楽しそうに笑うシキ。


「茶化すな。だが、シキ。今日はわざわざ別れの言葉を言いにきたのか? なにも言わずに姿を消すと思っておったから、そちらの方が驚きじゃ」

「いや、なに……貴様に渡しそびれていたものがあったことを思い出してな」

「渡しそびれたもの?」


 首をひねると、シキは胸元から小箱を取り出し、余に手渡す。


「開けてみよ」

「う、うむ……」


 なんじゃろう? そう思いながら恐る恐る小箱を開けると、そこには信じられないものがあった。




 ──姫の間で代々受け継がれる、ネックレスじゃ。

 



 母上が肌身離さず付け、余が憧れていたもの。

 一度欲しがっていたが、母上は決して余にそれを買い与えることはしなかった。


「それはフタバが亡くなる前、彼女から受け取ったものだ」


 言葉を失っていると、シキはこう続ける。


「娘がアマツの姫としてふさわしいと思った時、渡してくれ──とフタバから渡されていた。どうしてフタバが新参者の余に、そんな大事なものを渡したのかは最後まで謎だったがな」

「ど、どうして……ずっと、欲しかったのじゃ。だが……母上は決して首を縦に振らず……なんのつもりで……」

「その答えも入っている。箱の中身をよく見てみろ」


 シキに言われ、ようやく気付く。

 小箱にはメッセージカードのようなものが入っていた。震える手でそれを手に取り、ゆっくりと開く。



『十歳の誕生日、おめでとう。ずっと大好きよ  ──フタバ』



「──っ!」


 とうとう堪えきれなくなって、両目から涙が零れる。


「これは妾の想像になるんだがな。フタバは貴様のことを嫌っていなかったと思うぞ」


 もう涙で前が見えなくなっていると、シキはこう言う。


「フタバはずっと、貴様のことを気にかけておった。だが、姫として独り立ちせねば、アマツが滅びると思ったから……厳しく接していただけだ。ずっと、貴様を見ていた」

「だとしても、死ぬ時くらいは母上の口から本当のことを言ってくれても……」

「まあ、フタバも不器用だったということだろう。貴様はフタバを完璧な姫だと思っているかもしれない。だが、違うのだ。フタバも一人の人間で、貴様と同じように欠点がある」


 そう言って、シキは余の手からネックレスを取る。


「ほら、前を向け。俯いてちゃ涙が零れるぞ。最後に、妾直々にかけてやろう」

「う、うむ」


 涙を拭って、シキに言われた通りに前を向く。シキは優しい手つきで、余の首にネックレスをかけてくれた。


「今の貴様は立派な姫だ。だが、一人で歩いていかなければならないと考えるのは、間違っている」


 そして、シキは余の頭を撫で。


「人は一人では弱い。間違いなのは、自分の選択を他人に委ねることだ。困ったら、他人を頼れ。妾が魔王として、最後まで出来なかったことだ」


 優しくて温かい笑みを浮かべてから、シキは余に背中を向ける。


「ではな、なんというか……貴様と過ごした日々、意外と楽しく感じたぞ」

「ま、また、会いにきてくれるか!」

「気が向いたらな」


 軽く手を上げて、シキは部屋を出ていく。


 一人になる。

 だが、シキが頭を撫でてくれた感覚が、まだしっかりと残っていた。




 ◆ ◆



 部屋の扉を閉める。



「あんなことをするなど……妾もおかしくなったものだ」



 頭を掻く。


 今までの妾なら、考えられなかったことだ。

 これもナイジェルとの戦いで敗北を喫し──ここでミツハと出会い、妾の中でなにかが変わり始めようとした結果なのかもしれない。


「さて、どこに行くか」


 城を出ても、行くアテはない。


 だが、妾にはどうしても確かめたいことがあった。

 そのためには、この国にいたままでは達成出来ないと思ったのだ。


「そういえばフタバは、妾とミツハが似たもの同士と言っていたな。なかなかどうして……人間の勘というのも侮れないものだ」


 妾も昔、魔界の片隅で一人で泣いていた。


 しかしその時、手を差し伸べてくれる()()がいた。

 妾は()()がいなくなって、道を踏み外したが……ミツハは大丈夫だろう。


 ミツハには味方が大勢いる。

 妾にはなかった、彼女を慕う民たちが──。


「行こう」


 歩き出す。


 もう、子どもの泣き声は聞こえなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

シリーズ累計145万部御礼
Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/1103
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000355043

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新7巻が発売中!
hev6jo2ce3m4aq8zfepv45hzc22d_b10_1d1_200_pfej.jpg

☆新作はじめました☆
「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ