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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
三章

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319・キレイな満月

「か、風が強い! 本当に落ちぬのか!?」


 シキにしがみつきながら、ミツハちゃんが必死に声を出します。


「安心せよ」


 そんなミツハちゃんを安心させるように、シキが微笑みかける。


「妾に捕まっておれば、大丈夫だ。貴様が落ちてもらっては困るからな。なにせ貴様は、妾たちの切り札なのだから」

「う、うむ」



 ──休憩を終え。



 私とナイジェル。さらにはシキとミツハちゃんの四人で、ドラゴン形態になったドグラスの背中に乗っていました。

 ぐんぐんと高度を上げ、赤い月が近付いてきます。


「やはり……っ!」


 大きく見えてくる赤い月に、私は確信を深めます。


《赤き災厄》が次なる攻撃を放つ前に、決着を着けなければならない──。

 とはいえ、肝心の《赤き災厄》の居場所が分からず、私たちは途方に暮れました。


 しかし、私たちはとうとう見つけたのです。

《赤き災厄》は、()()にいました。


『ちっ……さすがに厳しいな』


 頭の中に、ドグラスからの念話が響いてきます。


『エリアーヌ、ナイジェル。これ以上近付くのは困難だぞ』

「予想していたけど……やっぱり、赤い月に近付けば近付くほど、赤影が濃くなっていくね」


 ナイジェルも苦悶で顔を歪めます。


 しかし。


「問題ない」


 シキがニヤリと笑います。


「ここまで近付いてもらえれば、十分だ。一撃で仕留める」


 立ち上がり、シキが掲げるのは──一本の剣。

 月隠宮で見た、魔王の剣の模造品レプリカです。


「ミツハ、この作戦には貴様の力も不可欠だ。頼んだぞ」

「うむ! 任された!」


 少し前のミツハちゃんからは想像出来ないくらいに頼もしく頷き、彼女は手をかざします。


 神勾玉、発動──。


 聖女の加護とも違う──温かい光がミツハちゃんの手に灯ります。

 その光はシキが持つ剣に乗り移り、彼女は思い切りその光る剣を振りかぶります。


「貴様の力、無駄にはせぬ──うおおおおおおおお!」


 ありったけの叫び声を響かせ、シキが剣を投擲。

 剣は風を切り裂きながら、ぐんぐんと赤い月へと接近していきます。


 そして──。



 赤い月に剣が突き刺さり、木端微塵に砕け散ったのです。



「つ、月が……壊れた……」


 ミツハちゃんが唖然とします。


 人類では決して手が届かないと思っていた月。

 それがシキの手によって砕け、周りに赤い結晶のようなものが散らばります。


「よく見てください!」


 しかし、私は赤い月があった方を指差します。


「私たちが見ていた月は、月ではなかったのです! 《赤き災厄》はそこにいました!」


 徐々に周囲に散った赤い結晶も霧散し、その奥から一体の災厄が姿を現します。


 人間を形どった、赤い煙のような存在──。

《赤き災厄》です。


「かくれんぼは僕たちの勝ちみたいだね」


 ナイジェルが緊張を滲ませながら、勝利宣言をします。



 ──《赤き災厄》がサネモリさんの体を食い破り、夜空には赤い月が昇りました。



 しかし、それは間違い。

 空に浮かぶ赤い球状の物体は月ではなく、《赤き災厄》を包む繭だったのです。


 私がそれに気付けたのは、レティシアの言葉でした。



『あーあ……こんなことがなかったら、あんたとゆっくりお月見でもしたかった。せっかくキレイな満月も出てるんだから』



 アマツではない場所にいるレティシア。

 彼女は何気なく、『キレイな満月』と口にしました。


 しかし、それはおかしいのです。

 あの禍々しい赤い月を見て、レティシアが『キレイな満月』と口にするはずがないのですから。


 世界中どこにいても、見える月はたった一つだけ。

 ここから私は、『赤い月だと思っていたものは、月ではなかったのではないか』と考えるに至りました。


 上空まで昇れば、アマツの街を一望することが出来、隅々にまで魔力を行き渡らせることが可能でしょう。

 その間に《赤き災厄》は完全となるための力を蓄える──それが《赤き災厄》の真の狙いだったのです。


「思えば、魔王信教の資料に書かれていた『赤い月が昇る』という一文も、《赤き災厄》召喚のためのブラフだったのかもしれませんね」


 そう呟きます。


 ですが、地上からでは赤い月……いえ、《赤き災厄》には攻撃が届きません。

 そこで、シキは自分が持つ、魔王の剣の模造品を見て、



『模造品とはいえ、よく出来ておる。あれがあれば妾の元々の力を一部引き出し、直接攻撃が届く位置まで行かずとも、剣を届かせることが可能だろう』



 と言いました。


 その後、私とナイジェルはもちろんのこと、《赤き災厄》の切り札となり得るミツハちゃん。

 そしてシキの四人でドグラスの背に乗り、《赤き災厄》に近付いたというわけです。


『ああ──その忌々しい光。太古にワレを■■■力ダ。よくも、またワレの前に姿を■■たか』


《赤き災厄》は上空を浮遊したまま、手をかざす。


『滅びを執行する──』

「ナイジェル! シキ! これが最後の戦いです! 準備は出来ていますか!」

「うん、もちろん!」

「こちらもだ」


 ナイジェルは剣──魔王の剣の模造品を失ったシキは代わりに刀を構え、《赤き災厄》と対峙します。


 ドグラスの背に乗ったまま、私たちは《赤き災厄》との空中戦に挑むのでした──。

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