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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
三章

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316・再臨する災厄

「魔王──!」


 私がそう言うと、シキさん──いえ、魔王はニヤリと笑います。


「ようやく気付きおったか。気付かれぬままなら、どうしようかと思っていたぞ」


 続けてそう言って、魔王は背を向けます。


「まずはこやつらだ。この国に叛逆したこと、しかと後悔させてやる──はあっ!」

「ま、待ってください!」


 手を伸ばしましたが、あと少しのところでそれは空を切ります。

 一瞬で距離を詰めたかと思うと、魔王は赤影に乗っ取られた一人の男性に向けて掌底を放ちます。

 男性は苦悶の顔を作り、地面に倒れます。ですが、ただ気を失ったみたい。私はすぐに彼に治癒魔法をかけます。


「……? なんのつもりだ? どうして、そやつらに治癒魔法をかける」


 不可解そうに、私を見る魔王。


「傷つけてはなりません。この方たちは赤影に体を支配されているだけで、悪人ではないのですから」

「だが、妾たちを襲う。殺してしまう方が早いのでは?」

「いけません」


 魔王から目を逸らさず、私は言います。


「言い争いをしている場合ではないぞ!」


 ドグラスが叫びます。

 彼は襲いかかってくる人たちをなんとか躱しながら、一瞬だけ私と魔王に視線を移します。


「そうだね。色々聞きたいことはあるけど……今は目の前のことだ。じゃないと、落ち着いて話も出来ない」


 ナイジェルも剣で相手の猛攻を防ぎながら、私たちを諭します。


「……はあ」


 私が魔王をじっと見つめていると、彼女は疲れたように溜め息を吐きます。


「ここで押し問答をしているのも、バカらしいな。分かった──()()貴様の考えに従ってやろう。なんにせよ、《赤き災厄》を退けるためには、貴様の力も必要になるからな」

「ありがとうございます」


 お礼を言います。

 魔王に「ありがとう」と伝えるなんて、なんだか変な感じがしますが……今は考えている場合でもありません。


「ミツハちゃん、あなたの周りに結界を張ります。念のために、そこから動かないでくださいね」

「しょ、承知した」


 ミツハちゃんがこくりと頷き、私は彼女に結界を張ります。

 これでしばらくは安心。

 私と魔王は、ナイジェルたちと共に戦います。


「しかし、妾に殺すなと命令したくらいだ。なにか策はあるのだろうな?」

「いえ、今のところは……」

「ないだと? それでよく、妾に偉そうに命令したものだ」

「偉そうでもそうじゃなくとも、決して譲れませんから」


 むっとしながら、ナイジェルたちに結界を張ります。

 今のところは結界の効果もあって防げていますが、時間の問題。《赤き災厄》という根本を絶たない限り、私たちはジリ貧です。


「ちっ……。少し戦いの場に慣れさせておくつもりだったが、そういうわけにはいかなくなった。切り札をここで切る」

「切り札……?」


 舌打ちしたかと思うと、魔王は勢いよくミツハちゃんの方へ顔を向けます。


「貴様の出番だ! ぶっつけ本番になるが、甘えたことは許さない! 貴様の力──いや、神勾玉を解放しろ!」

「……っ!」


 ミツハちゃんは魔王の言葉を真剣な眼差しで聞き、ぐっと握り拳を作りました。

 一体なにを──と思った次の瞬間。

 ミツハちゃんは握った拳を開き、手を前に突き出します。

 そのまま、静かに目を閉じ。


「余なら出来る……余はアマツの姫じゃ。アマツの民を守る必要がある。じゃから──今だけでもいい。嫌いだとしても、今だけは余に力を貸してくれ──母上!」


 かっと目を開いたかと思うと、ミツハちゃんの体が眩い光に包まれます。


「これは──女神の加護……」


 いえ……女神の加護とは少し違います。

 しかし、内包される魔力は、それに匹敵するほどの輝きと強さを秘めていました。

 光が拡散されていきます──。

 辺りを輝きで包み、光は天にまで昇っていきました。


「見ろ! 人間どもに、光が向かっていく!」


 と、ドグラスが前方を指さします。


 聖なる光はゆっくりとアマツの人々に浸透します。

 体から薄く立ち昇っていた赤い煙が、徐々に消えていきます。


「もしや……赤影を体から取り除いた?」


 奇跡のような光景。

 だけど、今はそうとしか考えられません。


 やがて光が収まり視界も開けたかと思うと、正気を失っている者は誰一人見当たりませんでした。

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