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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
三章

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315・情けない姿を見せるな

 赤影に乗っ取られた人々から離れるように走り、私たちは路地裏に逃げ込みました。


「ちっ……我ともあろう者が、こんな情けないことを……」


 ドグラスが悔しさで歯軋りします。


「なんとかならないのかな?」

「今は逃げることしか出来ません」


 ナイジェルに、私はそう答えます。


 当初、追いかけてくるのは五、六人でしたが、今では十数人まで膨れ上がっています。

 こうしている間にも、「聖女はドコだ」「サガせ」「コロせ」という声がいたるところから聞こえてきます。


「やはり、《赤き災厄》を探すところから始めなければなりません。大元を絶てば、赤影の影響は消えるはずですから……」

『イタ──』


 そう話し始めると、私たちの居場所が見つかり、人々が集まってきます。

 ……これでは落ち着いて話をすることも出来ませんね。


 路地裏を出て、私たちは再び走り始めます。

 夜空に浮かんだ赤い月はさらに輝きを増し、街は不気味さで覆われていました。


 なにか……救いの手があれば!


 神にも縋る思いで走っていると、私たちは足を止めます。



 目の前には──巨大な赤影が。



「逃げるだけでも精一杯だというのに、ここにきて赤影が立ち塞がるか。こやつは我でも、少々手こずりそうだ」


 ドグラスの額からつーっと細い汗が滴ります。

 その赤影は、まるで陸に上がった鯨。見上げんばかりの巨体が、歓喜するように咆哮を上げます。


「……しかも、後ろはアマツの人々か」


 ナイジェルが後ろを振り返ると、赤影に乗っ取られた人々が私たちに追いついてきました。


 前には鯨のような赤影。

 後方にはアマツの人々。


 逃げ場がありません。


「エリアーヌ、下がっていよ。まずは目の前のこやつを始末する。ナイジェル、汝はエリアーヌを守っていろ」

「ドグラス一人でやれるのかい?」

「やるしかなかろう。もう出し惜しみは出来ぬ。『竜の騎士』に──」


 ドグラスが切り札を切ろうとした瞬間。



「情けない姿を見せるな、聖女──そして真の王よ」



 ズシャアアアアアアアン!


 突如、大きな斬撃音が立ったかと思うと、鯨のような赤影が真っ二つに割れます。


 赤影は煙となって霧散し、その先から現れたのは──。



「シ、シキさん!? それにミツハちゃんまで……」



 城で待機しているはずの、二人の姿でした。


 シキさんはいつも使っていたはずの刀ではなく、何故だか、月隠宮から持ち帰った魔王の剣の模造品を右手で握っています。

 その剣で、巨大な赤影を一刀両断に斬り伏せたのでしょう。


 混乱している間に、シキさんはミツハちゃんとゆっくりこちらに歩み寄ってきました。


「ど、どうして城で待機しておかなかったんですか!? ここは危険で……」

「エリアーヌばかりに任せておれぬじゃろう!」


 そう口にするミツハちゃんは、心なしか城を出る前より頼もしく見えました。


「余も戦う! そのためにシキと共に参上したのじゃ! もう余は怖がらぬ。余にはまだするべき使命があるのだから!」


 はっきりと告げるミツハちゃん。

 今の彼女は、十歳の子どもではなく、まるで立派な大人になったかのようでした。


「悠長に話し合っている場合ではないぞ。まずは目の前のことを片付けるべきだ」


 シキさんの視線を追うと、アマツの人々は襲いかかろうともせず立ち止まり、困惑しているようでした。

 正気は失っていますが、一瞬で鯨のような赤影がやられ、危機を感じているのでしょう。


 ですが、それも時間の問題。

 徐々に戦意が湧いてきたようで、目の力をさらに強いものとします。


「その通りだね」

「うむ。聞きたいことは山ほどあるが、後にしてやろう」


 ナイジェルとドグラスも、戦う姿勢を取ります。


「行くぞ。まずはあやつらを蹴散らす」

「シ、シキさん? 随分と雰囲気が変わったような……それに口調まで……」


 シキさんからは、今まで感じていた丁寧でおとなしい雰囲気は一切感じません。


 私が問いかけると、シキさんは一瞬きょとん顔。

 そして楽しそうに。


「くくく……まだ気付かぬか? ()たちは、一年前にあれほど戦ったではないか」

「一年前……?」


 彼女の口調に違和感を覚えていると、シキさんはゆっくりとメガネを取ります。

 そしてメガネを乱暴に捨て去り、体内から魔力を放出します。

 一括りにした髪も解き、その立ち姿はまさしく威風堂々としたものでした。


「「「……っ!?」」」


 ここまできて、私たちはようやく気付きます。


「この魔力……っ!」


 間違いありません──。


 目の前に立たれるだけで、両足が震えるような邪悪さ。

 絶対的な君主の風格を併せ持ち、彼女の目は妖艶な輝きを放っていました。


 私は震える声で、彼女の本当の名前を呼びます。





「魔王──!」

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