310・聖女の悪の裁き方
私たちは作戦の内容を話し合ってから、すぐにミツハちゃんに頼んで、城にいる人たちを大広間に集めてもらいました。
「どうされましたかな、聖女様? 我々をこう一箇所に集めるとは」
サネモリさんが、訝しむように問いを発します。
現在──大広間には私たち以外にも、ミツハちゃんとサネモリさん。さらに宮中印を持ち出すことが出来る、城内の要人が集まっています。
みなさんは一様に不安そうな表情を浮かべ、私の言葉を待っているようでした。
「急にお集めして、すみません」
みんなの前に立ち、凛として告げます。
「実は──この中に、赤影をアマツにもたらした犯人がいるかもしれないのです。犯人は赤影──いえ、その親玉だと考えられる《赤き災厄》をその身に宿し、完全体になることを待っているのです」
そう言うと、この場にいるみなさんの間で動揺が広がります。
すぐ隣にいる人が、事件の犯人かもしれない──そう考えたのでしょう。ざわざわと声や物音が立ち、お互いに一定の距離を保ち始めました。
「エ、エリアーヌ、それは真か?」
ミツハちゃんの顔にも動揺の色が浮かびます。
「俄には信じ難い話じゃが……どうして、そのような結論に至った?」
「それは事件を解決してから、話しましょう。ここで、こちらの持ち札を全て明かす必要はありませんので」
そう答えますが、大臣の一人が前に出て、
「バ、バカを言うな! 横暴すぎる! 私たちを疑うというのですか!?」
憤った様子で声を上げます。
「控えよ。エリアーヌの言葉を疑うのか?」
「し、しかし、ミツハ姫……」
「話を聞いてみよう。エリアーヌ、お主の考えは分かった。じゃが、どうやって事件の犯人を探し当てるつもりじゃ?」
怒りで顔を歪ませる大臣を宥め、ミツハちゃんは私に鋭い質問を放ちます。
「解呪をします。この中に、《赤き災厄》の器となっている人間がいるのですから。違う人間にはなにも起こりませんし、もし《赤き災厄》をその身に宿していた場合──浄化出来る可能性があります」
と、私はミツハちゃんに考えを伝えます。
みんなはまだ、戸惑った様子。
しかし、ここで反論しては、自分が疑われるリスクがあると考えたのでしょう。
渋々といった感じで並び、私たちは彼らに順番に解呪を施していきます。
「あなたも違いますね。次──」
なにも起こらなかったのを見届け、次はシキさんが私の前に立ちます。
「お願いします」
シキさんはなんの抵抗もなく、さっと手を差し出してきます。
私は彼女の手を握り、解呪を発動します。
すると……。
「……なにも起こりませんね」
そう告げます。
本当は、ここに来るまでに一足早く、シキさんの潔白を証明していました。
だけど、シキさんだけ特別扱いしては、他の人に不信感を抱かせてしまうだけでしょう。
ゆえに、これは決められたやり取りだったのですが……あらためて、シキさんが顔色一つ変えないことに、ほっと安堵の息を吐きます。
「無実が証明されて、よかったです」
シキさんは淡々と言いその場から立ち去って──次はこの国の執政官、サネモリさんの出番。
「お手を」
「はい」
促すと、サネモリさんもすぐに手を差し出します。
「……そもそも、この方法で本当に犯人を当てられるのかよ」
サネモリさんに処置を施していると、城の近衛兵の一人がぼそっと声を零します。
「どういう意味だ?」
「いや……赤影には、浄化の力が通じなかったんだろう? なのに、今更解呪って……そもそも出来ないんじゃ?」
あら、鋭い。
やはり気付く人も現れますか。
それに気付く人はまだ極々一部のようですが、あまり時間はかけられませんね。
でないと、私の嘘に気付かれるかもしれないのですから。
「サネモリさんは、どう思いますか?」
「なにがですか?」
急に問いかけられたことに虚を突かれたのか、サネモリさんが首を傾げます。
「私の解呪で、本当に犯人を見つけることが出来るのか……と」
「さあ、分かりません。ですが、聖女様の言うことなら、なにか深いお考えがあるのでしょう」
「その通りです」
「そんなことより、早く自分の身の潔白を証明してほしいです。どうです? もう、分かりましたでしょう?」
「はい……分かりました」
そっとサネモリさんから手を離します。
──本来、私の解呪は赤影や《赤き災厄》に通用しません。
そうでなくとも、犯人がみすみす私の言うことを素直に聞く必要もないのですから。
ですが──。
私は指を突きつけ、ゆっくりとこう口を動かします。
「犯人は、あなただったんですね──サネモリさん」





