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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
三章

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309・城内の裏切り者

「待ってください」


 城に入ろうとした時。

 シキさんが、私たちを呼び止めます。


「どうされましたか?」


 月隠宮を出てここに来るまで、ずっとなにかを考えているようでしたが……なにかあったんでしょうか?


「……先ほどから引っかかっているんですよ」


 顎に手を当て、シキさんが話し始めます。


「月隠宮にある結紋部屋。あの部屋に入るためには本来、宮中印が必要となるはずでした」

「うむ、そうだったな。まあ、我が結紋ごと吹き飛ばしてやったがな!」


 左の掌に右の拳を当て、ドグラスが言います。


「はい。ですが、あれは言わばイレギュラーな手段。ドグラス様にしか出来ないことでした」

「そうだね。でも、それが一体なにが──あっ」


 ナイジェルもなにかに気が付いたのか、動きを止めます。


「ナイジェル様はお気付きになられましたか。そう──結紋部屋に入るためには、城で厳重に管理されている宮中印が必要。ならば、あの部屋に入るには、城の()()にいる者の協力が不可欠なんですよ」


 シキさんにそこまで言われ、私もようやく彼女がなにに引っかかっていたか分かります。


「ということは、こうですか? 城にいる者の中に、魔王信教の信者がいる。その者はアマツの国民……さらには国を守る立場でありながら、《赤き災厄》を降臨させようとしていると」

「それだけではありません。あの部屋で見た資料には、人間を《赤き災厄》の『器』として、その中で成熟させると書いてありました。もし……それが城の内部の者なら? 《赤き災厄》を体の中で成熟させながら、完成を待つことが出来ます」

「宮中印を盗めば、誰でも犯行が可能ではないのか?」

「一度言いました通り、宮中印は厳重に保管されています。ただ盗むだけならまだしも、盗まれてからも誰も気付かないなんて、考えられません」


 ドグラスからの問いに、シキさんはそう答えます。


「ならば、このままミツハ様とサネモリ様に、結紋部屋の内容を伝えるのは危険です。結紋部屋に辿り着かれることは、犯人にとって予想していなかったことなのですから。知られれば、なにか私たちに危害を加えようとするでしょう」

「うむ、その通りだな。だが、相手から尻尾を出してくれるなら、こちらとしては望むところではないか? いちいち犯人探しをする手間も省ける」

「ドグラス様の言うことにも一理あります。ですが、相手がこちらより一枚上手な場合……証拠の隠滅を図る可能性があります。そうなると、犯人の特定がさらに難しくなります」


 シキさんの言うことはごもっともなことです。


 こうなった以上、無闇やたらに情報を開示することは、相手に先手を取らせるきっかけとなってしまうでしょう。

 ここにいる私たちだけで、城の内部にいる犯人を探さなければなりません。


「ゆえに、ミツハ様とサネモリ様にも伝えず、私たちは城の内部にいる犯人を突き止める必要があります。結紋部屋に入ったことはいずれ知られると思いますので、出来るだけ早く……ですね」

「汝の言っていることは筋が通っておる。しかし、一つだけ抜け落ちている視点があるぞ」


 シキさんに鋭い視線を向け、ドグラスがこう口を動かします。


「内部にいる者の犯行。つまり、汝が犯人であるという可能性だ」

「…………」


 ドグラスの追及に、シキさんは黙ります。


「そうなると、今の状況すら汝の罠かもしれぬ。あの部屋で、突如苦しみ出したことにも疑問が残るしな」


 人を怪しみすぎるのはよくない──とは、言い切れません。

 今はあらゆる可能性を考える時。

 シキさんを疑いたくはありませんが、これがシキさんの罠である可能性も考慮した方がいいでしょう。


 しばらく私たちは、シキさんの反応を待っていましたが。


「……今、私の無罪を証明する術はありません」


 やがて諦めたように、彼女は嘆息します。


「ですが、私が犯人ではありません。お願いします、ドグラス様──そして、エリアーヌ様、ナイジェル様。私を信じて……!」


 胸に手を当て、瞳を潤ませるシキさん。

 その表情からはとても、嘘を吐いているものとは思えませんでした。


「……とにかく、犯人は内部にいるという可能性は事実だ。ミツハ姫とサネモリに伝えないという判断は、間違っていないんじゃないかな」

「だが、相手も馬鹿正直に口を割るか? 優しいナイジェルのことだ。まさか、尋問をかけるつもりではなかろう。ただでさえ、相手は《赤き災厄》を体に飼っている可能性がある。無理やり聞き出すにしても、危険がある」

「そこが悩みどころだね」


 ナイジェルとドグラスは二人して、頭を悩ませます。


 本来、犯人の特定には時間を要します。

 相手もそう簡単に白状してくれないでしょうから。


 ですが。


「──そうです」


 私は今まで、赤影と戦ってきた光景を思い出しながら、こう口にします。


「私に考えがあります。もし私の策がハマれば、すぐに犯人を突き止めることが出来るでしょう」

「考えって?」


 疑問を発するナイジェルに、私は口元に人差し指を付けて、続けて告げます。



「聖女には聖女の、悪の裁き方があるということですよ。犯人には痛い目を見てもらいましょう」

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