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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
三章

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308・二人の黒幕(レティシア視点)

 エリアーヌたちが城への帰途を急いでいる頃、レティシアは──。


「レティシア様! あなた様がおっしゃっていた倉庫の鍵を、ようやく持ち出すことに成功しました! こちらがその鍵となっています!」

「すごいですぅ! ありがとうございます!」


 跪く男から、一本の鍵を受け取っていた。


「どうしても、魔王信教の教えをもっと知りたくって……あっ、一度言いましたけど、このことはみんなには内緒ですよ? あなたとわたしだけの秘密にしたいので」

「も、もちろんですっ!」


 レティシアがにっこりと微笑みかけると、男は興奮気味に答えた。


 まだ男は名残惜しそうだったが、こんなところで不必要に時間を食っている時間はないので、レティシアはさっとその場から立ち去る。


「ほんと……ここにいる男たちって単純ね。こんなザルな警備で大丈夫なのかしら?」


 予定通りに事が進みすぎて、レティシアは一種の薄ら寒さを感じたが、悪いことではない。



 ──支部内に信者たちでも立ち寄れない秘密の部屋があることは、早い段階から気が付いていた。



 しかし、その部屋の鍵は支部長にしか持ち出しが許されておらず、こうして手に入れるのに時間がかかったというわけだ。


「なんか忙しいかどうか分からないけど、支部長は一度もわたしの前に姿を現さないしね。手こずったわ」


 だが、これでようやく先に進める。


 他の信者に見つからないように支部内を歩き、レティシアは秘密の部屋の前に辿り着く。


 そして鍵を開けた。


「ここは……資料室?」


 ぎっしりと書類が詰まった本棚。

 それ以外は殺風景で、無機質な印象の部屋である。


 レティシアは本棚から何冊か資料を手に取り、中身を確認していく。


「……目ぼしい情報はないわね。魔王信教が世界の終焉を望んでるって、今更知ったところで──ん?」


 その時、レティシアは一冊の資料が目に入る。


 表紙には『アマツで実施する“紅計画”の詳細について』。


「《赤き災厄》……? それが魔王信教がアマツで顕現させようとしている、なにかってこと?」


 吸い寄せられるように、レティシアはその資料を手に取る。

 そして中身を読み、驚愕で目を見開く。


(な、なんてこと……! これじゃあ、エリアーヌたちは──)


 すかさず、服の内ポケットの念話機に手を伸ばしかけた──その時。



「あれえ──そこでなにをしているの?」



 ぞっと鳥肌が立つ。

 警戒しながら後ろを振り向くと、そこには白髪の子どもがいた。


(なんで、こんなところに子どもが……? いえ、見た目は子どもだけど、実は違う。ともあれ、今はそんなことが重要ではなく──)


 男の一挙一動に注意しつつも、レティシアは仮初の笑顔を貼り付ける。


「ま、迷子になっちゃってぇ。それで……」

「ああ、別にいいよ。もう、そんな風に演技しなくても。君が何者か、分かっているから」


 レティシアがぶりっ子ぶるが、謎の子どもはすかさず止めにかかる。


「演技? なにを言ってるのかしら」

「じゃあ、こう言ったら、ちょっとは顔色を変えてくれるかな? 呪術士でありながら、ベルカイムの王太子妃になった、レティシア──と」


 ニコニコと楽しそうに笑いながら、少年は口にする。


(……っ! なんで、そのことを知ってるの? いや、今はそんなことよりも……誤魔化せそうになさそうね)


 早々に見切りを付け、レティシアは腕を組んで余裕を見せる。


「あら、そう……だったら、どうしてわたしを見逃してたのかしら? その様子だと、わたしが信者のふりをしてたってことも、分かってるでしょ?」

「どうするのかなあ、って思ってさ。だから存在には気付いてたけど、しばらく見逃してたんだ」


 その瞬間。

 子どもは黒いオーラを纏う。


「……っ!」


 魔力とも呪いとも言い難い、禍々しいオーラだ。

 呪術士のレティシアから見ても、その底知れなさは計れず、息苦しさを感じる。


(これは──)


 戦闘モードに入り、レティシアは話しながら呪いを練り上げる。


「名乗り遅れたね、僕はリュシアン。魔王信教を束ねる長で、教皇とも呼ばれている」

「へえ、わたしも運がいいわね。じゃあ、ここであんたを倒せば、万事解決ってことじゃない」


 内側から込み上げてくる恐怖に抗いながら、レティシアはそう言い放つ。


 今の彼──リュシアンの姿を見ていなければ、ただの子どもが教皇と宣っても、嘘だと決めつけていたかもしれない。

 だが、今の邪悪な気を纏っているリュシアンを前にして、レティシアは直感で分かってしまったのだ。


(こいつは、いつでも()()()()()()()


 今まで、レティシアも数々の強敵と戦ってきたつもりだ。

 だが、それらと比べて、彼──リュシアンは格が違った。


 どう足掻いても勝てない、そう感じてしまうほどに。


「なかなか、好戦的なお嬢ちゃんだね。だったら、少し遊ぼうか。楽しくなってきたら、僕の口からぽろっと大事なことが零れるかもしれないよ?」


 揶揄うように言って、リュシアンをゆっくりとレティシアに歩を進める。


(簡単に逃してくれるとも思えないけど──)


 レティシアは思考する。


(少しでも、エリアーヌたちのために有益な情報を持ち帰る。そのためにわたしは、ここに来たんだから。尻尾を巻いて、逃げ出すなんて有り得ないわ)


 レティシアは逃げたい衝動をぐっと堪え、リュシアンと向き合った。



(だから、エリアーヌも気を付けて。黒幕は()()()()()()にいるんだから)

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