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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
三章

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307・強行突破

「ほら、開いたぞ」


 手をパッパッと払って、ドグラスが得意げに言います。


「ち、力づくぅ? 結紋部屋を、そんな方法で開けることなんて可能なんですか?」


 ずれたメガネを直しながら、シキさんが唖然とします。


「実際、可能であっただろう」


 堂々と言い放つドグラス。


「そんなことよりも開いたぞ、エリアーヌ。これで手間は省けたな。再度、我を褒めよ」

「さすがに強引すぎますって! まあ……ドグラスなら可能かもしれないとは思っていましたが……今度は褒めません」

「げせぬ」


 不服そうなドグラス。


「まあまあ、別にいいじゃないか。ドグラスのおかげで助かったのは事実だし」

「そうです。どちらにせよ、ここは見捨てられた神社。なのに今更、扉を壊したからと言って咎められるのも筋が通らないですから」


 ナイジェルとシキさんが、そうフォローを入れてくれます。


 ……なんにせよ、これで先に進めそうです。


 私たちは恐る恐る、結紋部屋の中に足を踏み入れます。


 その瞬間。


「うっ……」


 淀んだ空気に、シキさんが声を上げます。


「これは……」

「はい。赤影の残滓を感じますね。ですが、実体化するほど濃い赤影ではなさそうです」


 私はそう口にします。


 どうしてここだけ、赤影の残滓が残っているのか……真相に近付いてるのを確信し、ますます緊張が高まります。


 そこは狭い一室でした。

 床には幾何学的模様の魔法陣が描かれており、その周りには奇妙なモニュメントや硝子の破片が置かれています。


「ここで、なにか儀式が行われていたみたいですね」

「儀式? なんの儀式だ?」

「そこまでは分かりません。とはいえ、ここは元宗教施設。儀式めいたことが行われいても、不思議ではないのですが……」


 しかしそれにしては、私でもこの儀式の意図も手法も分からない──不気味な空間でした。


「これを見て、エリアーヌ」


 そんな中、ナイジェルが一冊の本を手に取り、私に掲げます。


「『紅の啓示』?」

「うん、そう読めるね。中身も見てみようか」


 私以外のドグラスとシキさんも本を覗き込み、そのページに書かれた文章を目にします。



『Page3:計画は順調に進ん×××。××と魔導具を集め、■■■降臨の触媒が完成。あとは×××を待つのみである』



 淡々とした文章。

 しかし、黒塗りされている箇所や、ページの一部が千切れているせいで、文章を全容を掴むことは出来ません。


「触媒……? この部屋に置かれている魔導具や硝子の破片が、そうだったのかな」

「そうかもしれませんね。続きを読みましょう」


 ナイジェルに答え、私たちはページを捲っていきます。



『Page8:■■■の安定が困難。×××××にまでは至らない。そこで我々は計画を××ンCに変更する』


『Page18:準備は整った。だが、この計画××懸念がある。アマツに××と言われる神勾玉。その正体がはっきりと掴めず。このままでは計画に支障をきたす』


『Page22:■■■の能力が判明。■■■は病原菌のようなもの。ゆえに、人の体を乗っ取り、意のままに操ることが出来る。そこで■■■を完全にするために、×××の体を触媒とすることにした。そのために×××の立場も考えれば、的確。その中で■■■の完成を待つ』


『Page30:■■■の降臨に成功。街には■■■降臨による、赤い影が広がり×××。赤い影の力を魔石に込め、×××蛸に埋め込むことにも成功』


『Page33:これ以上の滞在は××だと判断し、我々はこの国を去る。■■■は未だ完成に至らず。だが、いつか来る■■■を我々は『《赤き災厄》』と命名することにした。これにて、アマツで進めていた×××計画は終了とする。赤い月が昇る×、《赤き災厄》は完全体となり、世界に破滅をもたらすだろう』



「《赤き災厄》……? 赤影のことでしょうか?」


 シキさんが疑問を口にします。


「おそらく、そういうことなんじゃないか……と」

「だが、赤き月というのはなんなのだ? 赤く染まった月など、今まで見たことがないぞ。赤き月が昇った時に《赤き災厄》──つまり赤影が出てくるとするなら、辻褄が合わないのでは?」


 ドグラスも頻りに首をひねります。


「ここに書いてある通り、《赤き災厄》は未完全のまま、この国に降臨してしまったということじゃないかな」

「それに、アマツ人の体を乗っ取って、完成を待つ……って書いてあります。おそらく、人間の体を『器』と見立てて、魔力を熟成させるつもりなのでしょう。そして完成に至った時──赤い月が昇り、この世界に滅びをもたらす……と」


 点と点が繋がってきました。


 アマツに突如、現れ始めた赤影。

 その正体は未だにはっきりとはしませんが、確かに魔王信教の手が入っているように思えます。


 しかもナイジェルの推測通りなら、これはまだ始まり。

 赤き月が昇る時──彼らの言う《赤き災厄》がこの世に姿を現すのでしょう。


 もちろん、ここに書かれていることが全て真実だと決まったわけではありません。

 ですが、今の状況が揃いすぎています。


「ならば、すぐに《赤き災厄》の『器』となった人間を探すべきだ。未完成のままヤツを処理することが出来れば、破滅とやらも訪れず、赤影も消滅するかもしれないのだから」


 ドグラスが緊張感を滲ませた声で言います。


「ですが……どこにいるんでしょう? 小国ではありますが、アマツには多くの人々が暮らしています。その中から、《赤き災厄》を探し出すことは不可能なのでは?」


 対して、シキさんが疑問を零します。


「とにかく、今は城に帰ろう。すぐにこれを持ち帰って、他のみんなにも相談するんだ」

「そうですね。ミツハちゃんやサネモリさんも、城で待っているでしょうし」


 そう言って踵を返そうとすると、シキさんがある一点を見つめて、固まっていました。


「剣……?」


 呟くシキさん。


 シキさんの前には、一本の剣がありました。

 すぐには思い出せませんでしたが──私が言うよりも早く、ナイジェルが気付きます。


「魔王の……剣」


 そうです。



『妾の剣は絆を断ち切る。もう貴様は聖女の力を行使することは出来ぬ』



 リンチギハムの王城──そして魔界で魔王と対峙した時、彼女が持っていた剣と酷似していました。


 ですが。


「……よく似た、模造品レプリカのようですね。あの時に感じた、邪悪な魔力とは違います」


 すぐに断言します。


「そうだね……まああの時、魔王は完全に滅んだ。それと同時に、剣も消滅したはずなんだから」

「驚かせおって……それにしても、模造品か。これも魔王信教とやらの持ち物か? 魔王を信仰するあまり、作成したとでも?」


 ナイジェルは安堵の息を吐き。

 ドグラスは不思議そうに首を傾げます。


「さあ……分かりませんね。とはいえ、あまり重要なアイテムとは思えず──シキさん?」


 あらためて結紋部屋を後にしようとすると、シキさんだけが剣の前でじっと固まったままでした。


「私は……これを知っている? どうして。私にはこれが……」

「あまり不用意に触れては──」


 手を伸ばすシキさんを止めようとしますが、間に合わず──彼女はそのまま剣に触れました。


 その瞬間でした。



「くっ……! 頭が……割れるように痛──ああああああっ!」



 突如、シキさんがその場で蹲り、悲痛な叫び声を上げたのです。


「シ、シキさん!? 大丈夫ですか!」


 すぐに蹲るシキさんを剣から離し、治癒魔法をかけますが、特に効果はなさそう。

 ですが、気持ちを落ち着かせる効果があったのか、シキさんがゆっくりと顔を上げます。



「そうか……そういうことだったか。なんでこんなことを、忘れていたのか」



「シキさん?」


 急に人が変わったかのような低い声を発するシキさんに、ますます訳が分かりなくなります。


「……すみません。ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」


 やがて今まで苦しんでいたのが嘘のように、シキさんはずれたメガネを元の位置に戻しながら、立ち上がります。


「本当に大丈夫ですか?」

「はい。きっと、この部屋の空気が私には合わなかっただけかと。すぐにこの部屋から出れば、問題ありません」


 未だ不安は残りますが、当のシキさんは平気な顔をして、部屋の外へ歩き出します。


「……まあ薄いとはいえ、赤影の残滓が残っていたからね。聖女のエリアーヌ。こういう邪悪な気に慣れている僕やドグラスならともかく、彼女には辛かったかも」

「人間とは、相変わらず軟弱な生き物であるな」


 ナイジェルとドグラスもそう口にします。


 この邪悪な気に慣れていなかったから……と二人は言いますが、私にはとてもそうは思えませんでした。

 しかし無言のままのシキさんを見ていると、これ以上問い質すことも出来ません。


「とりあえず、この剣は一度持ち帰ろうか。魔王信教に繋がるヒントになるかもしれないし」

「そうですね」


 頷き、魔王の剣の模造品を持ってから、私たちはその場を後にするのでした。

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