294・潜入捜査(レティシア視点)
レティシアがエリアーヌとの念話を切り、念話機を服の内側に隠したところで、
「おっ、こんなところにいやがったのか」
大股でこちらに近付いている男が、彼女にそう声をかけた。
一人ではない、三人だ。男三人がレティシアのような可憐な少女に近付いていく光景は、それなりに威圧感がある。
「ごめんなさ〜い。迷子になっちゃったんですぅ」
だが、それに対してレティシアは一切同様を見せず、猫撫で声で返事をした。
男たちの表情が緩む。
視線はレティシアの胸や太股に向けられ、邪な感情を抱いていることが丸分かりだ。
(きもい)
それに対して、レティシアは内心で悪態を吐く。
──潜入捜査。
そのために彼女がやったことは、信者のふりをして魔王信教の支部に潜り込むことであった。
とはいえ、本来なら自分みたいな怪しい女を、信者希望だからといって簡単に招き入れないだろう。
だが、レティシアはかつてクロードに取り入り、ベルカイムという大国を滅びかけさせた悪女。
その時と比べれば、こんな新興宗教に潜り込むことなど容易いものである。
(もっとも……もう捨てたと思っていた、ぶりっ子の仮面をまた被ることになったけど)
「レティシアちゃんは、弱くてか弱い女の子だからな。心配したぜ」
内股で体をくねらせ、見るからに『弱い女性』を演じ切っているレティシアに対して、男たちは一切の警戒心を抱いていないようだった。
「それにしても、レティシアちゃんみたいな可愛い女の子が、魔王信教の信者になってくれるなんてな。うち、女の子が少ないし、助かったぜ」
「魔王信教の崇高なる思想に惹かれたんですぅ。それに、信者の男性たちも、アウトローっぽくてカッコいいと思って……」
男たちの表情がますます緩む。
「レティシアちゃんは、ほんと可愛いよな。顔だけじゃない。その胸も──」
男の一人の右手が、レティシアへと伸びた。
しかし、男の手が彼女の豊満な胸に触れようかとした寸前。
咄嗟に、レティシアは彼の手を払いのける。
「え……」
まさか払いのけられると思っていなかったのだろう。男の目がきょとんとなる。
「ごめんなさい。わたし、男の人に触れられたことがなくて……ついビックリしちゃいました」
「そうだ、そうだ。レティシアちゃんは今まで、男と付き合ったことがないんだろう? レティシアちゃんみたいな清楚な女の子が体を触られそうになったら、ビックリするに決まってるじゃねえか」
「お前、勝手な真似をすんなよ」
「ははは、すまねえ、すまねえ」
レティシアが謝ると、他の男も彼を嗜める。
口では謝罪しているものの、その声の調子からは反省の色は見られなかった。
(ごめんだけど……いくら潜入捜査だからといって、わたしの体を簡単に触らせるつもりはないわ。わたしはクロードのものなんだから)
エリアーヌに救ってもらう前の彼女なら、男の手を払いのけることはしなかっただろう。
胸なんて触らせても、減るもんじゃない。少しでも相手が好感を覚えてくれるなら、安いもんだ──と。
しかし、今のレティシアは違う。
ぶりっ子モードに戻っても、譲れない一線が彼女なりにあるのだ。
「そんなことよりレティシアちゃん、行こうぜ。支部の中を案内してやるから」
「わあい、ありがとうございますぅ」
歩き出す男たちを、レティシアは追いかける。
(見てなさい。あんたたちの企み、絶対にわたしが丸裸にしてみせる)
男どもに愛想を振り撒く表情の裏に、悪女の微笑みを隠しながら、レティシアは決意するのであった。





