268・くだらぬ、くだらぬ。絆こそが人間の力
コミカライズ9巻が、本日発売です!
──魔族界。
「はあっ、はあっ……ようやく倒し切ったね」
ナイジェルが肩で息をしながら、そう口にします。
私達の前には戦いに敗れた魔族の山。
宰相と呼ばれた上級魔族は何十回も斬り伏せたのち、ようやく消滅しました。
「一度休みたいところですが──急ぎましょう。随分と時間を取られました」
「そうだね」
と私達はお互いに確認の頷きを交わし、邪悪な魔力が感じられる方向へと走り出しました。
ここはベルカイムの王城をモチーフにして構築したのでしょうか──走っていくうちに、私達が目指している場所がなんとなく分かりました。
玉座の間です。
そのため、スムーズに移動することが出来ました。
やがて私達は大きな扉の前に辿り着きます。
「エリアーヌ」
「はい──この先ですね」
扉を押し開くと、やはり玉座の前──透明な膜に包まれ覆われ、静かに横たわる一人の女性──魔王が目に飛び込んできました。
「ぐっすり眠ってるところ悪いけど──目覚めさせるわけにはいかないものでね」
すかさずナイジェルが魔王に斬りかかります。
剣が薄い膜に当たった瞬間、まるでしゃぼん玉が弾けるように、瞬く間に破裂しました。
「やったか!」
これにはナイジェルも声を上げます。
薄い幕の内側から重厚な闇が漏れ、魔王の姿を隠しました。
闇のせいで視界が遮られる。
これで……魔王は滅んだ?
だけど現実はそんなに甘くなく──。
「少し遅かったな──聖女達の訪問、歓迎するぞ」
闇が消えた頃には、右手に剣を持った魔王が立っていました。
「ああ……!」
「間に合わなかったか……」
私とナイジェルは共に警戒心を高めます。
魔王が秘める魔力が、昨日よりも顕著に強まっているのを感じます。
今日と比べれば、昨日の魔王はまるで子どもだったような──そんな絶望的な印象も抱きました。
「王都から聞こえる悲鳴は、妾の良い養分となってくれた。感謝する」
ニヤリと魔王が笑みを浮かべます。
「こうなってしまったからには仕方がないね。君をあちらの世界に行かせるわけにはいかない。ここで止める」
そう言って、ナイジェルは剣を構えます。
魔王はそんな彼を見定めるかのように、余裕げな視線を向けます。
「ならば妾は妾の目的を果たすため、無理やりにでも押し通るのみだ!」
魔王の姿が目の前から消失──したかと思うと、彼はナイジェルにゼロ距離まで詰め、剣を一閃しました。
「僕も簡単にはやられないよ。みんなのためにも、僕は君に勝つ」
しかしナイジェルも力強い声で答え、剣で受け止めました。
剣と剣がぶつかり合うたびに飛び散る火花。
通常の人の目で追い切れない速度で戦いが展開されます。
「一度──貴様には言ったな」
剣を振るう手を止めないまま、魔王はナイジェルに語りかけます。
「貴様は聖女の付属品。貴様だけが弱い。貴様は聖女がいなければ、なにも出来ぬ……と」
「否定はしないよ。だけど、エリアーヌとの繋がりが僕の武器だ。君とは違う」
「繋がり……か。貴様ら人間はそれを『絆』と呼ぶんだったな」
魔王がナイジェルの脳天に剣を落とします。ナイジェルは反応しきれず、剣で受け止めることが出来ません。
ですが、魔王の剣を結界が阻みます。
彼女は忌々しそうに一瞬顔を歪め、剣を下ろします。
「くだらぬ、くだらぬ。絆こそが人間の力。数千年前、妾を封印した聖女も同じことを言っておった。実にくだらぬ」
と魔王は足を止めます。
一見、隙だらけに思えますが、戦っているナイジェルはそうとは感じていないのでしょう。微動だに出来ません。
「貴様らは目障りだ。この剣の真の力を見せてやろう」
「一体なにを──」
ナイジェルが問いを続けるよりも先に、魔王がすっと剣を振り上げます。
それは不気味なくらい、静かに感じました。
一瞬でナイジェルと距離を詰め、魔王は剣を一閃──しかしそれは空を切ります。
わざと外した──?
ならば、なんの狙いが……。
「え──」
私の体から魔力が抜けていく感覚。
いえ──正しくは、ナイジェルとの絆が途切れてしまったような。
不思議な感覚が体を襲います。
「これで邪魔なものはなくなった! 再び踊ろうではないか!」
私が異変に戸惑っている間にも、魔王が追撃の剣の閃光をナイジェルに放ちます。
「くはっ……!」
「ナイジェル!」
間一髪のところで魔王の攻撃を剣で受け止めますが、勢いに押されるナイジェル。
体が後方に吹き飛び、床に強く叩きつけられました。
さらにそれだけではなく──彼の体から光が消え失せています。
「これは……」
ナイジェルも自分の体を見て、混乱しているよう。
そう──私も理解します。
彼に付与していた女神の加護がなくなっているのです。
「ナイジェル! 心配いりません! 再度、加護を付与します!」
よぎる悪寒を抑え、女神の加護を付与しようとします。
だけど──無理。
ナイジェルの身に女神の加護を宿すことは、二度と出来ませんでした。
「前は完全に断ち切れず、すぐに再生されてしまった。しかし──もう無駄だ」
魔王がゆっくりと歩み寄ってきます。
その優雅な足取りは、覇道を突き進む王のようでした。
膝を突くナイジェルに剣先を突きつけ、魔王は高らかに告げます。
「妾の剣は絆を断ち切る。貴様と聖女の絆──断ち切らせてもらった。貴様はもう、その身に女神の加護を宿すことは出来ぬ」
おかげさまで、松もくば先生によるコミカライズ9巻が本日発売となりました。
ぜひ、ご覧くださいませ!





