261・世界平和
その後。
私は王城に戻り、みんなを一部屋に集めました。
「みなさんで一斉に祈りを捧げましょう」
私の突拍子もない意見に、みんなは一瞬言葉を詰まらせます。
「なにか考えがあるんだね」
「はい」
頷くと、ナイジェルは理由も聞かず、こう口を動かします。
「よし──分かった。みんなで……ってことは、何人くらい必要なのかな?」
「可能なら──王都の民、全員です」
もちろん、あまり告知に時間をかけていられないので、情報が行き渡らず、何人かは漏れることになると思います。
ですが、私の考えが当たっているなら、人数が多ければ多い方がいいことは確か。
それくらいの覚悟を持ちましょう。
「ガハハ! また面白いことを考えよるな。心配するな。我が空から、皆に知らせてやる!」
『ラルフも手伝おう。本気を出せば、夜になるまでには王都全域を駆け回れるはずだ』
「セシリーもラルフのお手伝いをするの!」
ドグラス、ラルフちゃん。セシリーちゃんもやる気十分です。
「だが……具体的になにを祈ればいいんだ?」
手を挙げ、そう質問したのはフィリップ。
「そうですね……世界平和というのはいかがでしょうか?」
「世界平和──」
とナイジェルが噛み締めるように、その言葉を反芻します。
「はい。魔王の目的も世界平和だったでしょう? ですが、彼の世界平和とは力によって全てを支配するものです。
だけど私達はその道を選ばない。みんなが手を取り合って、平和な世の中を実現していくような──そんな理想の形です。魔王に喧嘩を売る私達には、ピッタリの願いではないでしょうか?」
「ますます面白い──喧嘩か。今の我らにはピッタリの言葉かもしれぬな」
ドグラスが楽しそうに笑って、拳をもう片方の手の平に叩きつけます。
「くくく……エリアーヌよ。相変わらず、意外と好戦的なところがあるな。無論、私も手伝う」
堪えきれないといった感じで、くぐもった笑い零し、ヴィンセント様もそう口にします。
だけど彼もどこか楽しそう。
「そうと分かれば、こうしてはいられん。我はもう行くぞ」
『セシリー、行くぞ。ラルフの背中に乗れ』
「背中に乗れ……ってことなの? 分かった!」
ドグラスが最初に部屋を出ていき、次はラルフちゃんとセシリーちゃん。
ヴィンセント様とフィリップも部屋を後にし、私とナイジェルだけが残されました。
「僕達も行こう。こうしている間にも、魔王が力を取り戻しちゃうかもしれないからね」
「…………」
「どうしたんだい、エリアーヌ? ぼーっとしているみたいだけど……」
「いえ……理由を聞かないんだと思いまして。不安にならないんですか?」
とナイジェルの顔を見上げます。
理由を説明する前に、みんなは部屋を出ていきました。
私の言うことに、一片の疑いも感じていないよう。
問うと、ナイジェルは「はは」と笑って。
「そういえば、そうだったね。でも、細かく説明している時間がもったいないだろ?」
「それはそうですが……」
「みんな、エリアーヌのことを信頼しているのさ。エリアーヌが言うんだから間違いない。なにか考えがあるんだろう……って」
「か、買い被りすぎですよ」
「決して買い被りじゃない。これも君が頑張って、みんなと信頼関係を築き上げてきた成果だよ」
ふんわりとした口調で告げるナイジェル。
レティシアも言っていました──私の今までしてきたこと。紡いできた絆が、なによりの宝だ……と。
一人では勝てない魔王。
ならば、私達は全員で魔王に挑みます。
──それからの私達の行動は迅速でした。
ドグラスやラルフちゃんが王都内を駆け巡り、情報を隅々まで伝達していきます。
ビラも作り、騎士団や冒険者の方々の力も借りて、徹底的に広めていく。
時刻は夕暮れ頃。
約束の時間が近くなり、私とナイジェルはルーフバルコニーに立って、街の風景を眺めていました。
「エリアーヌ──時間だ」
「はい」
頷き、私とナイジェルは手を合わせます。
目を閉じて、私はある想いを抱きます。
──世界が平和でありますように。
そして──全てが終わったあと、世界が幸せで満たされますように。
そう祈って。
いつも活気に満ちていた街が静寂に包まれます。
こんな瞬間は初めてかもしれません。
今頃、王都のみなさんも祈りを捧げているでしょう。
心が一つになり、祈りの力が高まっていくような──そんな感覚を抱きました。
不思議なことに、体がぽかぽかと温かくなります。
それは隣に愛する人、ナイジェルがいたからかもしれません。
『……アーヌ……よくぞ──ました』
え……?
空耳でしょうか。
しばらく聞こえてこなかった女神の声が、不意に届いた気がしました。
今のは──と思うのも束の間、ふと目を開けると、驚くような光景を目にしました。
「こ、これは……!」
街全体が神々しい光に包まれていたのです。
それはまるで神が私達に祝福を与えているかのよう。
やがて光は収まり、街はいつもの景色に戻ります。
「……キレイな光だったね」
「はい。ですが、これだけでは──」
私の推測が正しければ、街のどこかにあれが出現しているはずです。
「ここからだと、分からないね。街の者に話を──」
そうナイジェルが言葉を続けようとした時。
「殿下! エリアーヌ様!」
ルーフバルコニーに、一人の騎士が駆け込んできました。
「どうしたのかな?」
「たった今、報告が入りました。街の──」
息を整えながら、彼はこう口にしました。
「噴水広場に巨大な謎の扉が出現しました!」





