262・道なき道を照らす、勇気の灯火
騎士からの報告を聞き、私達はすぐに噴水広場へ向かいました。
他の方々もその話を聞きつけてか、自然とそこに集まります。
ドグラスとヴィンセント様、フィリップ、さらには騎士団からもアドルフさんとマリアさん。
セシリーちゃんとラルフちゃん。レティシアとクロード、カーティス──他の住民達も集まり、噴水広場に出現した謎の扉を囲みます。
「似た扉を見たことがあるな」
ドグラスが謎の扉を見上げ、そう口にします。
「はい。昨日──王都の上空に現れた扉のようですね」
と私も告げます。
──やりました!
予想が的中し、思わず小さくガッツポーズをしてしまいます。
現れた扉は昨日の扉と似通っていましたが、纏っている空気は相反するもの。
白を基調とし、神々しく清廉な雰囲気を放っていました。
「これが……魔族界に繋がる扉ってことなのかな?」
「おそらく、そうなのでしょう」
ナイジェルの言葉に、私は首肯します。
古代遺跡の最奥──壁画に描かれていたものを思い出します。
ヒントは二つ。
一つ目はみんなが聖女に祈りを捧げている光景。
そしてもう一つは、聖女は『絆』を力にしたという記述です。
「だから一斉に祈りを捧げることにより、それが力──絆となって、なにかが起こると思ったんです。根拠はそれだけだったのですが、私達は賭けに勝ちました」
「世界平和を祈るみんなの想い──それが形となって、僕達の前に姿を現してくれたんだ」
ナイジェルは感慨深く、巨大扉を見上げます。
そう──これはみんなの想いの結晶。
もし、みんなの思い描く世界平和の形が違っていたら、巨大扉は私達の前に姿を現さなかったでしょう。
魔王を打倒し、世界を平和にする──。
そんな、みんなの想いが一つになった。
なんとなく、そう思いました。
「ならば、悠長に話している場合ではない。今すぐ魔族界に乗り込んで、我が魔王を──」
とドグラスが一歩前に踏み出し、扉を押し開けようと──。
「くっ……!」
しかし彼が扉に触れた瞬間、まるで見えない形に阻まれるように手が弾かれてしまいました。
「どういうことだ……? 触ることが出来ぬ」
「そんなまさか──」
今度は私が近付くと、ドグラスのように弾かれず、しっかりと扉に触れることが出来ました。
「僕も大丈夫みたいだね」
隣のナイジェルもそっと手を当てていますが、扉から拒絶されることはありません。
「おそらく、扉を潜るためには神聖な魔力が必要になるんだろう。女神の加護に完全適合するほどの──な」
フィリップがそう推測を口にします。
「女神の加護に完全適合? ということは……」
クロードの言葉に、
「ええ、みんなで行きたいところだけど、エリアーヌとナイジェルしか無理でしょうね」
とレティシアが答えました。
「なんということだ……せっかく魔族界に行く《入り口》が見つかったというのに、たった二人しか行けないなんて……」
カーティスが愕然としますが、私はそれを元気づけるように。
「そう悲観する必要はないでしょう。どちらにせよ、全員で魔族界に行くわけにもいきませんでしたから」
仮に全戦力を魔族界に傾けたとしたら、今度は王都が心配になってきます。
魔族界で戦っている間、魔族が私達の世界で暴れていては、私とナイジェルも安心して戦えませんからね。
ゆえに王都を守るためにも、ある程度戦力を分散させる必要があります。
「だから──君達に頼みがある」
ナイジェルも私と同じことを考えていたのか。
広場の風景を眺め、力強い言葉を続けます。
「僕とエリアーヌは魔族界に行き、魔王を倒す。だからその間、君達にはこの街を守ってほしい。君達がこちらの世界を守ってくれるなら、僕も安心して戦える。どうだろう? 世界平和を実現するため、みんなも一緒に戦ってくれるかな?」
それはナイジェルからのお願い。
だけどみんなの表情を見ていたら、答えなど最初から決まっていたかもしれません。
「当たり前だ。王子の──いや、親友の願いだ。その願い、しかと受け止めよう」
とヴィンセント様が氷の魔剣をかかげます。
「君達には人間やドラゴンも住む、この世界の素晴らしさを教えてもらった。今こそ、その礼を返す時だ」
フィリップは真剣な顔で頷き。
「任せて、にぃに! にぃにの分も、セシリーが頑張るの!」
『神獣であるラルフもいるぞ』
セシリーちゃんとラルフちゃんも、気合い十分のよう。
「あんたらには、いっぱい迷惑をかけた。だから今度はわたしが助ける番。主役になれなかった女の意地を見せてあげるわ」
「なにを言うんだ! レティシアはボクにとって大事な主役だ。だから……そんな君がもっと笑顔になれるため、この街を──世界を守る。ナイジェル、任せてくれ」
レティシアとクロードは、相変わらず仲睦まじい。
「ガハハ! 魔王と戦えぬのは残念だがな。こちらの世界は我らが守ってやろう!」
ドグラスは自信満々に、拳を強く握りました。
──ナイジェルの願いに答えたのは、それだけではありません。
騎士団のみんなも。
まだ心の傷が癒えていない、街の人々も。
ウォオオオオオオオオ──。
私達のために鬨の声を上げます。
「……みんな、ありがとう。君達は僕の誇りだ」
そう言って、ナイジェルが私の手を握ります。
「行こう、エリアーヌ」
「ええ、今こそ魔王に私達の絆を見せつける時です」
──まだ戦いは始まってすらいません。
完全に力を取り戻していない魔王ですら、私とナイジェルは敗北を喫しました。
上級魔族達も手強く、一筋縄ではいかないでしょう。
今までで一番激しい戦いになることは、容易に想像出来ます。
だけど──私達には仲間がいます。
それは一条の光となり、道なき道を照らしてくれます。
私とナイジェルは勇気の灯火を胸に抱いて、扉を潜りました。





