249・上級魔族シアド
「──おっと、ここで行き止まりだよ。聖女と王子様を合流させるのは、面倒だから」
足元に魔力の塊が被弾します。
直撃こそしませんでしたが、異様な雰囲気に私とドグラスは足を止めます。
顔を上げると、近くの建物の上に一人の男性が座り、私達を見下ろしていました。
いえ……一人と数えるのは、不適格かもしれません。
「魔族か」
ドグラスがそう言って、口角を吊り上げます。
魔族の見た目は全身からやる気のなさを感じさせるような、無気力な空気に包まれていました。
黒々とした髪が額に乱れて落ち、その深い瞳からは感情を読み取ることが出来ません。
ですが、内に秘められる魔力は、他の魔族とは一線を画するもの。
「ドグラス」
「分かっておる。他の魔族とは明らかに違う。汝──上級魔族だな?」
「そうだと言ったら、どうする?」
明確な答えは返ってきませんでしたが、ドグラスを前にしても余裕を崩さない態度に、ますます確信は深まっていきます。
魔族の中でも強力な個体──それを上級魔族と呼びます。
今まで、精霊の森でバルトゥル。そしてベルカイム王国では四体の上級魔族が敵として、私達の前に立ちはだかりました。
初めて見る上級魔族ですが、ベルカイムの時はどうして出てこなかったのでしょうか?
「名があるなら名乗れ。墓標にその名前を刻んでやろう」
「名前……ねえ。シアドって呼ばれることが多いんだけど、あまり思い入れがないんだ。好きに呼べばいいよ」
「ならばシアド──我らはここを通る。汝はおとなしくしておけ」
そう言うと、ドグラスの体が光に包まれます。
光が減退した時には、ドグラスは雄々しき竜のフォルムを形取った、勇敢な姿へと様変わりしていました。
『竜の騎士』
今のドグラスの状態を、私達はそう名づけました。
人の姿でいる時間が長くなり、ドラゴンとしての血が薄まってきたドグラス。
そんな彼は戦いの技術こそ身についたものの、かつての力強さを失っていました。
そこでドグラスは強きドラゴン──長命竜アルターの血を喰らい、ドラゴンとしての力強さを取り戻します。
だけどこの力にはデメリットもあります。
今のドグラスは天衣無縫の力を得る一方、五分程度しかこの状態を保つことしか出来ません。
魔力を回復させるには時間もかかりますので、ここぞという時にしかドグラスも『竜の騎士』になりません。
上級魔族シアドを前にして、ここが使いどころだと判断したからこそ、ドグラスも発動したのでしょう。
「へえ……なかなか面白い芸だね。でも、僕がなにも用意をしてないと思った?」
対して、上級魔族──シアドはパチンと指を鳴らしました。
すると──私達を囲むように、複数の火の玉が現れます。それらは形を変化させ、やがて魔族となりました。
「そいつらは肉壁だ」
シアドが淡々とそう告げます。
一体だけでも強力な魔族──。
それらが大挙を成し、私達の前に立ち塞がりました。
数は百を超えるでしょう。
「多分、その姿を保つには、魔力を多く消費するんだろ? 君たち二人だけで、僕のところまで辿り着けるかな?」
「さあ、どうかな。試してみるか?」
とドグラスは怯まず、好戦的な笑みすら浮かべていましたが──こうして時間を稼がれるのが、今の私達にとって一番厄介。
そう焦りを感じていると、
「あら、わたしのことを忘れてない? わたしも混ぜてよ」
シアドに向けて、黒い塊が飛来します。
「む……?」
寸前のところでシアドはそれを回避しましたが、表情を険しくしました。
「あれは……呪い?」
しかも生半可なものではなく、上質でキレイな呪い。
私は呪いが飛んできた方向に視線をやります。
「ごめんね。遅くなったわ」
「レティシア!」
視線の方向には──レティシアが立ち、その傍にはクロードとカーティスが控えていました。





