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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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259/329

250・偽の聖女はリンチギハムの地に足をつける

 時は魔族が襲来する──少し前に遡る。



 レティシア達は馬車に揺られ、リンチギハムの王都を目指していた。

 目的はもちろん、ナイジェルの王位継承の儀を見届けるためである。


 とはいえ、王位継承当日までにはまだ日数がある。


 ゆえにのんびりとした、馬車の旅を楽しんでいたが……。



「なんで村にスパイの悪魔を紛れ込ませてたのに、簡単にバレんの!? また負けたじゃない!」



 レティシアはそう叫び、馬車の床にカードをぶちまけた。


「君の嘘はバレやすいからね」

「そんなこと言われんの、初めてなんだけど!?」


 クロードに対して、レティシアは抗議の声を上げる。


 レティシアとクロード。

 クロードはベルカイム王国の第一王子。そして、レティシアはその王太子妃である。

 かつて、敵としてエリアーヌの前に立ち塞がった二人。天才呪術士であるレティシアは、エリアーヌ達を苦しませた。


 しかし今となっては、エリアーヌ達と二人は和解し、良き友人である。

 特にレティシアはエリアーヌと定期的にお茶会を開くほど。

 ゆえにレティシアとクロードの二人が王位継承の儀に招かれるのは必然だ。



 ──二人が興じているのは、最近ベルカイムで流行っているカードゲーム。



 村を運営し、発展させていくゲームだ。


 だが、その中に一人悪魔が紛れ込んでいる。悪魔は嘘を吐き、人間の中に紛れ込んで、村陣営を壊滅させなければならない。


 王都に辿り着くまでの暇つぶしとして始めたゲームではあるが──レティシアは何度もクロードに嘘を看破され、一度も勝つことが出来ていなかった。


 そしてカードゲームに興じているのは、二人だけではなくて……。


「カーティスはどう思うのよ」


 馬車の中にいる三人目の人物。

 カーティスに向けて、レティシアは問いを投げかけた。


「私は全く分かりませんでした。てっきり、レティシア様は村陣営か……と。いつもレティシア様を見ているクロード様だからこそ、嘘を見破れたんですね」

「ふふんっ、そうだろう」


 彼の言葉に、クロードは得意げな表情になった。


 カーティスはベルカイムの騎士団長である。

 真っ直ぐな性格で、こうしたカードゲームをしている際にも真面目にプレイしていた。


(楽しんでいないわけではないと思うけど……)


 とレティシアは内心思いつつ、こう口を開く。


「それにしても……カーティスが付いてこなくてもよかったのに。わたし達、二人だけで十分だったわ」

「なにをおっしゃいますか。あなた達は王子と王太子妃。二人だけで旅をさせるわけにはいきませんよ」


 とカーティスから言葉が返ってくる。


 カーティスは今回、レティシア達の護衛ということになっている。

 とはいえ、レティシア自身も上級魔族を前にしても引けを取らない呪術士。

 カーティスとレティシアの二人がいれば、旅の安全は保障されたようなものである。


「そろそろ王都に着くだろうか」


 カードを片付けながら、クロードがそう声を漏らす。


「そうね」

「予定より、少し遅れてしまったな」

「あんたが途中でキレイな湖に立ち寄ったせいでしょ? あんなことをしなかったら、もうちょっと早く着けたわ」

「い、いいじゃないか。君だって楽しんでた。水をかけ合っていた時、誰よりもはしゃいでいたのは覚えてるぞ? カーティスは黙って、ずっと見てるだけだったが……」

「……っ! うっさいわね。過去の些細なことを持ち出してくる男は嫌いだわ」


 ぷいっと顔を背けるレティシア。


「ご、ごめん、レティシア! そんなつもりはなかったんだ。ボクは誰よりも君のことを愛してるから許して!」


 そんなレティシアの機嫌を取ろうと、クロードはあたふたする。

 もっとも、レティシアとて本気で怒っているわけではない。慌てるクロードが可愛くて、ちょっと意地悪をしているだけだ。


「……雨が降りそうですね」


 二人のやり取りに眉一つ動かすことなく、カーティスが窓の外を眺めて呟く。


「ほんとね。湿気のせいで、髪型が崩れるから雨は嫌いだわ」

「湿気で髪がくるんくるんになってるレティシアも可愛いよ!」


 フォローになっているのかいないのか、よく分からないことを言うクロード。


 なんでこの男は、時たま女心を分かっていない言動をするのだろうか──レティシアがそう考えていた時であった。

 大きい雷鳴が周囲に響いた。


「なんだ!?」


 クロードは驚いて、床に手を突いてしまう。


「クロード殿下、ご安心ください。ただの雷ですよ。馬車は無事です」


 とカーティスは馬車の小窓を眺めながら、そう口にする。


 しかし──その中でレティシアは誰よりも深刻そうな顔をした。


「雷とほぼ同時……怨念が爆発したわ」


 怨念という言葉を聞き、クロードは一瞬で表情を様変わりさせる。

 先ほどまで弛緩していた空気が嘘のように引き締まった。


「怨念? それって……」

「ええ、呪いってこと。しかも生半可な呪いじゃないわ。もっと強力なもの──そう、たとえば魔族とかね」


 レティシアはそう言いながら、怨念──呪いの爆心地を探る。


 馬車でもう少し行った先だ。

 方角的にはリンチギハムの王都と重なる。王都でなにかが起こっていることは確かであろう。


「殿下、レティシア様、どうされますか? 王都に危険があるのなら、すぐにこの場から離れ──」

「なにを言ってんのよ。王都の危機ってことは、エリアーヌ達が心配じゃない」

「親友がピンチかもしれないのに、ボク達だけが逃げ帰るのは考えられないな」

「……失礼しました。そしてお二人なら、そうおっしゃると信じていました」


 二人が即断で下した答えを、カーティスは否定しない。


(カーティスって、いつもは真面目だけど、こういう時には柔軟になってくれるのよね。助かるわ)


 とはいえ──レティシアの記憶の中にある昔のカーティスは、常に職務を全うしようとしていた。親友を助けるためとはいえ、リンチギハムには向かわせてくれなかっただろう。


 しかし今はその限りではない。

 これもエリアーヌと関わった影響かしら──とレティシアは思った。


「急ぎましょ」


 馬車の速度が上がる。


 程なくして、リンチギハムの王都に辿り着いた。正門前で馬車をリンチギハムの騎士団に任せ、レティシア達は三人で街に足を踏み入れる。


 そしてそこで広がっていた光景は、予想通りのものであった。


「魔族で……! 溢れかえっているわ!」


 思い返されるのは、一年以上前──ベルカイムを襲った、魔王復活の悲劇である。

 あの時も街中に魔族が溢れ、レティシア達は戦いを強いられることになった。


「王城に向かおう。ナイジェル達はそこにいるはずだ」

「ご安心ください。二人は、私が命をかけてもお守りしましょう」


 クロードとカーティスはお互いにそう言って、王城に向かって走り出す。レティシアもそれに追従した。


 そしてエリアーヌ達と遭遇した──というわけである。

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