247・ドグラスにお姫様抱っこをされるのは、まだ慣れません
大きな雷の音が鳴ったかと思うと、遺跡全体がゴゴゴッと音を立て、崩れ始めました。
「くっ……! もう少しだというのに!」
悔しそうに顔を歪めるのはドグラス。
“真の聖女”の記述。
もう少し時間をかければ、ドグラスも解読出来るかもしれませんが──それだけの猶予はなさそう。
「このままでは崩壊に巻き込まれ、生き埋めになってしまいます!」
「やむを得ん! エリアーヌ、掴まれ!」
ドグラスの言葉に私は頷き、彼に身を寄せます。
天井が崩れ、破片の塊が落下してきました。
しかしドグラスは跳躍し、器用に塊を乗り移りながら、上へ上へと目指していきます。
私もドグラスを信頼し、彼から離れないように努めていると……なんとか崩落に巻き込まれず、地上に脱出することが出来ました。
「一体なんなのだ。まるでタイミングを見計らったように……」
「ですが、起こったことを悔やんでも仕方がないでしょう。それよりも──」
やっぱり。
先ほどは脱出することに意識を割いていたため、確証は持てなかったのですが、こうして地上に出ることによって分かったことがあります。
「リンチギハムの王都を覆っていた結界が……消滅しています」
「なんだと!?」
ドグラスが驚愕し、目を見開きます。
「それは真か!? だとしたら、一体どうして?」
「まだ分かりません。ただ、王都の方角から、複数の邪悪な魔力を感じます。それも生半可ではないくらいの」
私は一度、これを体感したことがあります。
それは──ベルカイム王国で、魔王が復活した時です。
始まりの聖女と封印されていた魔王を見つけ、女神との《道》を架けるためのアイテムを手に入れた瞬間。
ベルカイム王都に張っていた時限式の結界が壊され、魔族の集団が雪崩れ込んできました。
今はあの時の状況と酷似しています。
「ならば、魔族が襲撃をしかけにきたと? ベルカイムの時、魔族の残党は全て消滅したと思っていたがな。いや、それだけならまだしも、魔王が復活──って、ここで考えても仕方がないな」
とドグラスは話を途中でやめ、リンチギハム王都の方角へ視線を移します。
「王都に戻るぞ。遺跡で得た情報を精査するのも、全てが落ち着いてからだ」
「ですね」
深く頷きます。
「ドラゴンの姿に戻り、飛んでいくのも──今は危険だな」
天候は雨。
雷もまだ鳴り響いています。
結界を張り、傘代わりにすれば雨は凌げるかと思いますが……雷はその限りではありません。
飛んでいるドグラスと、その背に乗る私に雷が落ちれば、タダでは済みませんからね。
結界とて限界がありますし、これからのことを考えると、なるべく魔力は節約するべき。
「リスクを覚悟で飛ぶ必要があるでしょうか? 王都にいるナイジェル達に、少しでも早く合流したいですし……」
「なに、無理して飛ぶ必要はない。何故なら──」
え?
──と思うのも束の間、ドグラスは私をひょいっと抱えました。
一般的に『お嬢様抱っこ』と呼ばれる体勢です。
「ド、ドグラス!? なにをなさるつもりですか?」
「なにって……このまま走って、王都に向かうだけだが? こうすれば、王都まですぐに辿り着ける。今まで以上に速度は出すし、少々怖い思いをするかもしれないがな」
とドグラスが悪戯少年のように笑います。
確かに……こうすれば、空を飛ぶよりかは安全でしょう。
怖いのは事実でしょうが、高度がない分、空を飛ぶよりはマシかもしれません。
しかし……これには大きな問題が一つあります。
それは私がドキドキしてしまうことです!
そんなことを言っている場合でもないことは重々承知していますが、それで割り切れるなら苦労はしません。
「本当に大丈夫でしょうか……」
「不安か? ならば杞憂だ。我がエリアーヌを落とすことは絶対にないし、優しくエスコートしてやるからな。大船に乗った気分でいよ!」
私の不安の方向性を、ドグラスは理解していないんでしょう。
地面を蹴り、そのまま駆け出しました。
ドキドキする胸の鼓動を抑えながら、私は王城にいるであろうナイジェル達のことを考えます。
ナイジェル、今のあなたの目にはなにが映っていますか?
本当に魔族──そして魔王が……。
傷つくみんなの顔を思い浮かべると、胸が痛みました。
松もくば先生によるコミカライズ8巻が、明日(6月28日)発売予定です!
よろしくお願いいたします。





