246・断ち切る
「すまない、待たせたね」
「ナイジェル殿下!」
マリアと共に、僕は神剣が封じられている宝物庫の前まで辿り着いた。
報告にあった通り、宝物庫から黒いモヤが漏れ出ている。見ているだけで不安になってくるような──そんな禍々しい空気が、場に流れていた。
既に騎士達が集まっている。
声をかけると、みんなが一斉に僕へ視線を向けた。
「にぃに……」
その中には既にセシリーの姿もあった。
彼女は肩で息をして、顔色も悪い。
「ま、魔王の力が漏れ出たと思って、封じ込めようとしたの。だけど……上手くいかなくって……ごめん」
「謝る必要はないよ。頑張ってくれたんだね」
と僕はセシリーの背中を優しく撫でる。
──彼女は《白の蛇》との戦いの一件で、エリアーヌに続き二人目の聖女の力に目覚めた。
エリアーヌと女神いわく、セシリーは『邪悪なものを浄化する力』に秀でているらしい。
しかしその力はまだ完全に目覚めておらず、出力も不安定なものであった。
「なるほど──邪悪な魔力だ。今まで見たことがないほどにな」
フィリップがそう声を漏らす。
「そうだな。しかも広がっていく速度が徐々に上がっているように見える。セシリーがいなければ、今頃どうなっていたのか……」
ヴィンスも彼の言葉に同意する。
この黒いモヤの正体は、はっきりしないけど、放置しておくわけにはいかない。
だからといってセシリーにも無理となれば、どうすれば──。
その一瞬の逡巡が、命取りとなった。
「……っ! みんな、伏せて!」
まるで今まで抑えていた力が爆発するかのように──黒いモヤがさらに広がりを見せ、僕達に襲いかかろうとした。
「させないのっ!」
しかしセシリーが手をかざし、魔力を放出。光と闇の力がぶつかり、相殺となった。
「ありがとう、セシリー! 助かった──」
疲労困憊の状態でもう一度力を使ってくれたセシリーに感謝し──その時であった。
「……っ!」
僅かに残っていた黒いモヤ──。
それがひっそりと僕の頭に絡みついた。
「にぃに!」
セシリーの声が遠く聞こえるほど、強烈な頭痛が襲いかかる。
さらに続けて頭の中に声が響いた──。
──〈やはり未完成の聖女では、妾の力を抑え込むことは出来ぬか〉
「こ、この声は……」
〈時は満ちた。まずは手始めに……〉
間違いない──魔王だ。
昔、僕が理想の王子様について悩んでいる時、〈貴様はなにを捨てる?〉と問いかけてきたことを思い出す。
「にぃに……もしかして、魔王の声が……? だったら、答えちゃいけないの! 気を確かに持って!」
セシリーが必死に制止してくるが、僕の意思とは関係なく、魔王の声が響いてくる。
他の者も異常に気付き、駆け寄ってくる光景が朧げに見えた。
そんなみんなを嘲笑うかのごとく──。
〈妾が断ち切る!〉
その声は雷鳴と重なり、頭に打ち付けられた。
そしてこの時──国を覆う結界が消えた。





