234・あなたを信じていいと、私が信じた
私はドラゴン化したドグラスの背に乗り、竜島に再び足を着けました。
辺りはすっかり夜になっています。
生い茂る木々のせいもあって、視界は一度目の時よりさらに悪くなっていますが、贅沢を言っている場合ではありません。
「ドグラスとナイジェルは大丈夫だろうか」
シルヴィさんの形をした黄金のもとへ向かう道中。
ファーヴはそう話しかけてきました。
「ええ、二人ならきっと上手くやってくれるはずです」
竜島に到着して、私達はすぐに予定通り二手に分かれました。
私とファーヴはアルターのところに。
ナイジェルとドグラスは宝玉を仕掛けるために。
このまま誰にも気付かれず、宝玉を設置し終えるのが一番いいんですが……それはあまり期待しない方がいいでしょう。
きっと、途中で邪魔が入るはず。
「そうか。君は二人のことを信頼しているんだな」
「あなたはそうではないんですか?」
「いや──俺も君と同じだ」
そう言うファーヴの横顔は、不安という感情が一切入り込んでいません。
一度目では見られなかった彼の表情。
これも最善を尽くしたという自信の表れでしょうか。
「……君は俺をまだ信じてくれるのか?」
ぽつりと。
ファーヴが一言、そう声を漏らしました。
「急にどうされたんですか?」
「いや……俺が君達に嘘を吐いたことは事実だ。俺が君達の立場なら信じないだろう。それなのに……どうしてまだ、『信じる』と言ってくれるんだと思ってな」
「うーん、難しい質問ですね」
口元に人差し指を当て、一頻り考える。
今まで、裏切られた経験がなかったというわけではありません。
クロードの婚約者として尽くしてきたのに、裏切られて、追放されたのが良い例ですね。
だけど私は信じることは力──その言葉を信じている。
「きっと理由なんてないと思うんです」
「ない?」
「はい。あなたを信じていいと、私が信じた。そして、私はあなたを信じたい──そんな答えではダメでしょうか?」
そう言うと、ファーヴは一瞬虚をつかれた表情。
しかしすぐに表情を柔らかくして。
「ふっ──やっぱり、君は面白い。ドグラスが君のことを気に入っているのが頷けるよ」
「褒めてくれているんですよね?」
「無論だ。俺を信じるということに、一点の曇りがない。シルヴィもそうだった。君達が女神に聖女として選ばれたのは、それが理由かもしれないな」
──そんな会話を交わしながら、私達は島の奥へ奥へと進んでいきます。
やがて一度目と同様、大木がある場所まで辿り着きました。
そして木やツタに絡まるようにして、シルヴィさんの形をした黄金が。
「おい──長命竜アルター」
ファーヴは呼びかけます。
「もう気付いているんだろう? 聖女を連れてきた。姿を現せ」
敵意が込められたファーヴの声。
当初、しばらく反応がなかった。
やがて耳障りな声が聞こえてきて、
「不可解だ。儂と貴様は協力関係にあるのではないか? どうして、そのように殺気を滾らせている」
なにもない上空に、突如漆黒のドラゴンが現れました。
全長が分からないほどの巨躯。
長命竜アルターです。
「お前とは袂を分かった」
そう言って、ファーヴは両手に双剣を顕現させます。
それに対して、アルターは声の調子を変えずに。
「……なるほどな。人質は、ただの黄金の塊だと看破しておるのか。撒き餌としては下等だったか」
アルターが体をくねらせ、赤き血潮のような眼球がギョロッと私達を見据えます。
「その上で問おう。既に真実を知っているのに、どうして貴様はわざわざ聖女をここに導いた?」
「お前を倒すためだ。お前の狙いは全て分かっている」
ファーヴがそう告げると、アルターがくぐもった笑いを貰います。
「くっくっく……儂を倒すだと? たかが一ドラゴンの貴様が? 儂の前に手も足も出なかった過去を忘れたか」
そしてアルターは空に視線を向ける。
「……なにをするかと思い好奇心で傍観しておったが、他にも島の中に虫が紛れ込んでおるようだ。これ以上は許さぬ」
次の瞬間。
島のいたるところから、新たな魔力が現れたのを感知します。
悲鳴のような雄叫びが上がり、地が震えます。
アンデッドドラゴンが、この地に召喚されたのでしょう。
『ドグラス!』
私は側頭部に手を当て、念話を試みます。
『そちらはどうなっていますか?』
『うむ、アンデッドドラゴンが湧いてきおったわ。だが──問題ない。ナイジェルも冷静だ』
ドグラスから答えが返ってきます。
『当初の予定通りだ。お互いのやるべきことをしよう。汝は汝らで、アルターの足止めをしてくれ』
『分かりました』
そう言葉を返して、私は念話を切ります。
「ファーヴはともかく──聖女には奇妙さすら感じるな。どうして、取り乱さない? ファーヴから儂のことを聞いておったか? 貴様の反応には違和感が残る」
──だってこれが二度目ですからね!
声に出さずに心の中で返答し、アルターを見上げます。
「まあいい。なんにせよ、聖女の身柄を無理やり拘束するだけだ。降伏すれば、今なら穏便に済ませてやるが?」
「いいえ、結構です。それに……ファーヴとは違い、あなたは信用出来ません」
「貴様を騙したファフニールと儂は違うと言うか。面白い。当初の予定とは少し違ったが、儂が直々に“真の聖女”の力を試そう」
アルターは両翼を上下に動かす。
それだけで暴風が発生しました。私はすぐに結界を張ります。
さあ、再戦です。





