235・思わぬ助け
「次から次へと湧いてきよるな」
上空で羽ばたいているアンデッドドラゴンを見据え、ドグラスはそう声を発した。
一度目では──とはいえ、ドグラスはそのことを知らないが──苦戦を強いられ、時間を消費させられたアンデッドドラゴンである。
しかし今のドグラスの顔には焦りの色はなかった。
雑魚どもを眺め、どう料理をしようかと考える捕食者のそれである。
「ドグラス、油断しちゃいけないよ」
隣に立つナイジェルが嗜める。
「無論だ。慢心はしておらぬ。そのために、我々は戦いの準備をした」
そう言って、ドグラスがその剣を掲げる。
刀身部分が水晶のように透き通っており、一見、戦闘用というより観賞用の剣である。
だが、これがそのような生ぬるいものではないことは、ドグラスとナイジェルは知っている。
「まずは小手調べだ──っ!」
ドグラスが地面を蹴り上げ、跳躍。
アンデッドドラゴンに剣の一撃をくらわす。
一閃されたアンデッドドラゴンが、断末魔を上げて地に落ちる。斬られた部分が溶け、再生されることはない。
「ガハハ! さすがは聖属性の魔法が付与された剣。アンデッドドラゴンが、面白いように溶けていきよるわい」
ドグラスは肩で剣を背負い、そう高らかに笑った。
──竜島にはアンデッドドラゴンがいる。
リンチギハムを発つ前、エリアーヌにはそう教えられていた。
一度目のドグラス達はそれを知らず、ろくな準備もせずにアンデッドドラゴンと戦うことになった。
しかし二度目の今では、アルターのしもべがアンデッドドラゴンであることが分かっている。
そこでアンデッド系の魔物やドラゴンに効果がある聖魔法を、エリアーヌが剣に付与したということだ。
「エリアーヌが付与してくれたものだから、効果のほどは疑ってなかったけど……こうして目にすると、彼女のすごさにあらためて気付かされるね」
とナイジェルも絶賛する。
竜島に向かうまでの僅かな時間。
本来なら、腕利の魔法使いが多大な時間を消費しても、なお届かないといった代物であったが、エリアーヌは一瞬で用意してみせた。
彼女の力は、ドグラスも舌を巻くほどである。
「さあ──ナイジェル、やるぞ。まずはこいつらだ」
そう言って、ドグラスは再び剣を構える。
ナイジェルもそれに続いた。
(本当なら聖水を空から散布したかったが──空はアルターが目を光らせておる。ベルカイム王国の時のようにはいかないだろう)
考えながら、空を飛ぶアンデッドドラゴンをドグラス達は駆逐していく。
彼らを前に、アンデッドドラゴンはなすすべがなかった。
◆ ◆
私達は不死身のドラゴン──アルターを前にして、苦戦を強いられていました。
何度ファーヴが斬りつけ、アルターは絶命したことでしょう。
しかしそのたびにアルターは蘇り、私達に恐怖を与えました。
「やはり違和感があるな」
アルターが一度攻撃の手を緩め、ギョロッと鋭い眼光を私に向けます。
「さては“真の聖女”よ──貴様、二度目だな?」
一瞬心臓の鼓動が跳ね上がりますが、私は冷静にこう答えを返します。
「どういう意味か分かりません」
「とぼけるな。時の聖女の力は分かっておる。時を戻す能力は最後まで開花しなかったが──なるほど、なるほど。一度目で貴様は儂に負け、時の聖女の力で時を遡ったといったところか?」
私が答えなくても、アルターは全てを理解しているかのように語ります。
その目は全てを見通す神の力を秘めているようにも感じました。
「黄金の息──不死身──儂の力を披露しても、まるで見るのは二度目かのように対処していたゆえに違和感があったが……そうか、そうか。ならば、もう隠す必要もあるまい。時の聖女は時の牢獄にいる。そこからヤツの力の一部を吸い上げ、儂は不死身の体を得た」
「やはり、そうだったか……!」
ファーヴの目に灯っていた希望の光が、さらにその輝きを強いものとします。
「貴様らでは儂に勝てぬ。儂の不死身の力は絶対だ。たとえ時の聖女が生きていたと分かっても、どうする? ──ファフニールよ。儂を倒してコアを取り出さねば時の牢獄は開けられぬし、仮に中に入ったとしても彼女を見つけ出せる可能性は極小だ」
「それでもいい。可能性が少しでも残っているなら、俺は前に進むだけだ」
「そうか。ならば僅かに残っている希望も、儂が摘もう」
アルターの周りに魔力が奔流します。
「十連発だ。防いでみせよ」
大口が開かれます。
視線で侮蔑するように、アルターが笑う。
決してブラフではありません。
一撃必殺の黄金のブレスを、十連撃で放とうとしているのです。
私はすぐさまファーヴの前に十重もの結界を張り、攻撃に備えます。
そして──十発もの死が迫り来る。
一枚──二枚──。
次から次へと結界が割れていきます。
八発目までは問題なく耐えられましたが──九発目、とうとう耐えられず、当たった瞬間に九枚目の結界が破裂してしまいます。
「いけませんっ!」
私は思わず声を上げてしまいます。
九発目のブレスは結界に当たったというのに、その勢いは止まることがありません。
そのまま十枚目の結界と相殺。
しかし最後の十発目の攻撃が残っています。黄金のブレスがファーヴに向かっていきます。
すぐにファーヴは回避行動を取り、その場から逃れようと──。
「ギリギリ間に合ったか」
次の瞬間。
光の雷が横に伸び、黄金のブレスに当たり──相殺されます。
私は光の雷が放たれた方向を、咄嗟に見ます。
「フィリップ!」
宙に浮き──。
そこには精霊王フィリップが手をかざし、アルターに対峙していたのです。





