233・二百年前からずっと──
「お前がなにも語らぬからだ!」
王城に響き渡るような大きな声。
天まで突き抜けんばかりの叫びに、ファーヴの動きが止まります。
「どうして! 我に相談しなかった! 二百年前も喋れば良かったではないか! 恋人のこと──そして長命竜との対立のこと! そうすれば、我だって汝を助けていた!」
「俺の想いなど、お前には分からぬ!」
ファーヴが地面を蹴り上げます。
一瞬姿が消失したかと思うと、次の瞬間にはドグラスの前に現れ、再び激しい剣戟が始まりました。
「俺の方こそ問う! どうして、俺の想いを分かってくれないのだ! お前は大事な友だ! だからこそ、友を巻き込みたくなかった! お前と一緒でも、アルターには敵わなかった! 俺一人で解決するしかなかったんだ!」
「この自信過剰め! その傲慢さのせいで、二百年前にも汝はアルターの前で膝を突いたのだ!」
今までの洗練された二人の動きは、まるで子どもの喧嘩のように変わっていました。
お互い、剣に感情を乗せ、本音を吐露しながら力いっぱいに振るいます。
「そして二百年の時を挟み、結局我らを巻き込んだ!」
「そのことは、すまなく思っている! だからこれが終わったら、どんな償いでも……」
「違う違う違う! 我が汝に言ってほしい言葉は、そうではない! 感情をぶつけろ! 汝が言うべき言葉は謝罪ではない! 心から叫べ!」
ドグラスの言葉に呼応し、ファーヴは表情を引き締めます。
一旦、二人の間の距離が空く。
「ならば言う!」
ファーヴは一度すーっと大きく息を吸い、ドグラスに向かって駆け出す──っ!
「俺を助けてくれっ! ドグラス!」
その懇願の一言とは裏腹に。
今まで見た中で最高の一撃が、ドグラスに放たれます。
叩き上げられた一撃をドグラスは受け止めますが、勢いに負け、その右手から剣が離れました。
クルクルと宙を回転し、地面に突き刺さる剣。
「……負けか」
ドグラスは自分の敗北を認め、地面で大の字になりました。
「ようやく言いおったではないか。その言葉を待っていた」
「……ドグラス。あらためて言う。俺を助けてくれ。俺一人ではシルヴィを救えなかった。俺にはお前の力が必要だ」
「任せろ」
少年のような笑みを浮かべるドグラス。
一方、泣きそうなファーヴの顔。
表情だけを一見すると、どちらが勝者なのか分かりません。
「もしかしたら、二百年前からファーヴは心の中で、ずっと叫び続けていたのかもしれないね。ドグラスに、助けてくれ──って」
「そうですね」
ナイジェルの言葉に、私は頷きます。
「ファフニール、我は弱くなっているか?」
ドグラスがファーヴにそう問いかけます。
「……そうだな。動きは昔と比べて洗練されていたが、ドラゴンとしての力強さがない。しかし再度、お前と剣を交えて、分かったことが一つある」
「それはなんだ?」
ドグラスが続けて教えを請うと、ファーヴは意味深な表情をして語り始めました。
「これは仮定なんだが──この国に来てから、お前は人間の姿でいることが多いのではないか?」
「正解だ。市街でドラゴンの姿になっては、無用な騒ぎを生むからな。最初は嫌々だったが……今では、この姿の方が好ましいとすら思っているよ」
「それがお前の弱くなった理由だ。人の姿でいる時間が長すぎて、ドラゴンの血が薄まっている。ドラゴンにとって、己が血は力の源だ。おそらく、一度目のアルターがお前を見て『半人』と言ったのも、それが理由だと思う」
聞こえてくる言葉に、私とナイジェルもお互いに顔を見合わせて、言葉を失います。
私達では思い至らないことでした。
ですが、ドグラスの本来の姿はドラゴン。
それを魔力で無理やり変えるわけですから、なんのリスクもないと考える方が不自然だったかもしれません。
「なら、我はどうすればいい?」
ドグラスが問いを飛ばします。
「そうだな……強力なドラゴンの血を直接体内に取り込む必要がある。ドラゴンの血は芳醇な魔力で満たされているからな。俺のもので事足りればそれでよかったのだが、まだ足りない。もっと強いドラゴンの血を摂取するのが必須だ」
「しかしそれをしているだけの時間はない……ということだな」
「ああ」
「…………」
ファーヴの言葉に、ドグラスは考え込みます。
ドグラスが弱くなった理由については判明しましたが、根本的な解決にはなりませんでした。
だけど──それ以上の収穫がありました。
ドグラスのすっきりした顔を見ていると、私はそう感じます。
「……分かった。助かる。では──行くとするか。エリアーヌとナイジェルにも、無駄な時間を取らせてしまったな」
「大丈夫だよ」
「そんなことよりお怪我はありませんか?」
「怪我? このような児戯で、我が怪我をするはずがないだろう! ガハハ!」
勢いよく立ち上がり、豪快に笑うドグラス。
私は彼の元気そうな姿を見て、ほっと安堵の息を吐きます。
「ファフニール──いや、ファーヴ、頼りにしているぞ」
「それは俺も同じだ」
そう言って、ドグラスとファーヴは拳を突き合わせました。





