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真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

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196・君にふさわしい男

 ドグラスは屋上に着くと、ドラゴン形態を解いて人間の姿に戻る。そして私達は地面に着地。



「聖女ですか。せっかく曲も終盤だというのに、それを歪ませて──いえ、この転調も面白い。まだ天上の音楽は続く」



 そこで私達の前に立ちはだかるのは、ディートヘルムさん。

 彼は心底愉快そうな顔をして、私達を見つめていた。


 それから目線を逸らさず、私はこう口を動かす。


「訳の分からないことを言わないでください。あなたがなにを考え、このような凶行に出たのかは知りません。ですが、結婚式がメチャクチャになったのは事実。その代償を、あなたには払ってもらわなければいけません」

「エリアーヌ……」


 ナイジェルの少し驚きを含んだ声。


 自分でも驚くくらいに、今の私は怒りを覚えていました。


 それはこの事態を未然に防げなかったことに対する、自分への憤り。

 そしてなにより、このようなことを引き起こしたディートヘルムさん──いえ、ディートヘルムへの怒りでした。


「よくぞ間に合いましたね? 中庭で手こずっているのは分かりましたが、ここまでは距離があります。気付かれるのには、時間がかかると思っていましたが」

「ファーヴのおかげです」


 と言いながら、私は先ほどのことを思い出していた。



『こんなことをしている間にも、姫と王子は危機に陥っている。お前らの目的はなんだ?』



 あの時、ファーヴは私達にそう問いを投げかけた。


 姫と王子──この場合でしたら、それはレティシアとクロードのことを指しているのでしょう。

 そして彼が指差す方を見ると、レティシアとクロードが一人の男に追い詰められている光景が目に入りました。


「いけません!」


 私が悲鳴のような声を上げると同時、レティシアが屋上から落下したのです。

 それを追いかけ、自ら屋上の縁を思い切り蹴って、彼女を追いかけるクロード。


「エリアーヌ、ナイジェル! 我の背中に乗れ!」


 どういうこと──と問い質している暇はありませんでした。


 ドグラスの体が光に包まれたかと思うと、私達はドラゴンの体となった彼の背に乗っていた。

 そしてドグラスが光の速度で飛び立ち、二人を救出した……ということです。


「僕も君を許せないよ。君には罪を償ってもらわないと」

「よくも我がいながら、好き勝手にやってくれたな? 覚悟しろ」

「ファーヴの言っていることを信じると、まだ禁術は完全に発動していなみたいだしね。ここでケリを付けないと」


 ナイジェルとドグラスがぐいっと一歩前に出ます。


「わ、わたしも……」

「レティシアは休んでおいてください。もちろん、クロードも」


 レティシアとクロードは戦いたがっていましたが、二人は疲労困憊の様子。ここまで来るのに、体力を使ってしまったのでしょう。

 それにディートヘルムが無傷だったところを見ると、レティシアでは歯が立たなかったということ。


 彼の方が戦人いくさびととして格上です。

 今は二人に無事でいて欲しかった。


「丁度いいでしょう。ファーヴというのが何者かは知りませんが、確かに禁術はまだ未完成。あなた達の命をもって、旋律を完成させましょう」


 そう言って、ディートヘルムが指を鳴らした。


 その瞬間。

 彼を中心として闇が吹き荒れる。

 その闇──呪いを浴びるだけで、気を失ってしまうほどの濃度。私はみなさんの前に結界を張り、呪いが直に当たらないようにした。


「さあ、始めましょう。破滅の序章プレリュードを」


 ディートヘルムの周囲から、八本の巨大な触手が現れる。

 それは夜よりも深い色をした黒でした。


 触手は一斉に私達に襲いかかる。それらをナイジェルは剣で切り裂き、ドグラスは拳で触手を破壊していった。

 しかし触手が消滅すると、また次の触手が現れる。

 いくら攻撃を浴びせても、これではキリがありません。


「いつまで持ち堪えるでしょうねえ。こうしている間に禁術は完成に近付いていく」


 ディートヘルムの楽しげな声が、やけに不快でした。



 ◆ ◆



「す、すごい……」


 クロードは目の前で繰り広げられている光景に、そう感嘆の声を漏らしていた。


「……これじゃあ、エリアーヌに止められるまでもなく、分かるわね。ここに混じったら、わたし達が足手まといになる……って」


 レティシアも悔しそうに言った。


(彼女の言う通りなら、ディートヘルムは呪術師のようだが……)


 彼は呪いの力を、人々を不幸にする邪悪なものと言っていた。


 しかしクロードはそう思わない。


(いや……レティシアに出会う前なら、ボクだってそう思っていたかもしれないな)


 彼の母親は呪いによって暗殺されたのではないか──そういう疑惑が出たことがある。

 それは調査の結果、事実無根のものだと分かったが、幼い頃のクロードは呪いに恐怖したものだ。

 レティシアが自分が呪術師だということを知った時も、驚きを隠せなかった。


 だが。


(レティシアのことを恐ろしいと思わなかったのは……彼女がどういう人間かを知っていたからだ)


 だからこそ、大事なのは力を使う者の心の有り様。

 クロードはそれを強く意識するのだ。


「…………」


 レティシアがエリアーヌ達の戦いを見て、表情に影を落とす。


「……なあ、レティシア。君はまだ、自分の力を邪悪なものだと思っているのか?」

「そんなことないわよ。あんたがわたしを信じてくれたしね。でも……」


 そこから先の言葉はレティシアから紡がれなかった。


(口ではそう言っているものの、レティシアはまだ悩んでいる。呪いの力について──)


 レティシアにはずっと笑顔でいて欲しかった。


 それならば。



 ボクには彼女の笑顔を奪い去るような事象を、全て斬り伏せる必要がある──。



 そう考えたクロードは、屋上に残っている飾りの剣に視線を移した。


「……レティシア。ボクの考えを聞いて欲しい」

「……? なに?」


 レティシアが不思議そうな顔をする。

 クロードはそんな彼女の双眸を真っ直ぐ見つめる。


「ボクに──」




 その考えを伝えた。




 するとレティシアは形相を変えて、


「あ、あんた、バカなの!? まだ呪いについて、ちゃんと理解してないの? 呪いっていうのは──」

「大丈夫だ」


 クロードには確信があった。

 今のボクなら、それを成すことが出来る──と。


「ボクは君の全てを受け入れたい」


 クロードは飾りの剣を手に取って、さらにこう続けた。



「なら、これはボクにとっての通過儀礼だ。ボクが君に()()()()()()なら、きっと全部上手くいく。そして──ボク自身がそれをなによりも信じている」

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