146・捜査開始です
「セシリーにもそのそーさ、お手伝いさせて欲しいの」
セシリーちゃんはそう決意を口にしました。
「セ、セシリーちゃんがですか?」
「うん」
セシリーちゃんは胸の前でぎゅっと拳を握り、こう続ける。
「ラルフの鰹節のこともそうだけど……なにより、みんなが困っているならセシリーが解決してあげたいの。だってセシリーはおうじょなんだから。お姉ちゃんとにぃにが頑張っているのに、セシリーだけがラルフと楽しく遊んでいるなんて、もやもやする」
「…………」
セシリーちゃんの目をじっと見て、私は彼女の決意を計ります。
──彼女はまだ小さな子ども。言動もまだ幼いものが目立ちますが、その可愛さに私はいつも頬を綻ばせています。
だけどそんな彼女ですが、実はしっかりと大人。
第一王女として、この国の行く末を案じ、民が安寧な日々を送れるように願っています。
だからセシリーちゃんも、この事態に心を痛め、こういうことを言い出したのでしょう。
決して遊び半分の気持ちからではない──そう感じました。
だから。
「……分かりました、セシリーちゃん。手伝ってくれますか?」
「うん!」
私が言うと、セシリーちゃんは力強く頷いた。
『セシリーも行くのか──なら、ラルフも行こう。女性を守るのは紳士の役目。たとえどのような悪感が襲ってきても、ラルフが二人を守ろう』
ラルフちゃんも勇ましい顔をして、そう言ってくれた。
「ラルフも行くの?」
そんな表情を見て察したのか、セシリーちゃんが首をかしげる。
『そうだ。それともラルフでは不足か?』
「お姉ちゃん、ラルフはなにを言ってるの?」
「ラルフがいても、役に立たないか? って聞いているんですよ」
「ううん! そんなことないの! だってラルフはしんじゅーなんだから!」
とセシリーちゃんが今度はラルフちゃんの体に抱きつく。
ラルフちゃんも満更ではないよう。鼻でむふーっと息をします。
『エリアーヌはどうだ?』
「問題ありません。ラルフちゃんも手伝っていただけると、私としても助かります」
私もそう首を縦に振ります。
……ちょっと賑やかになりましたが、心強い仲間が二人も増えました。
──私は一人じゃない。
そのことをあらためて強く意識するのでした。
私達は早速市内に出て、聞き込みを始めました。
そして──今はラルフちゃんの鰹節が売っているお店の店内。
「だから……! あれはお店の軌道が乗ってきて、ようやく買えたバッグ! それから辛い時があった時は、そのバッグを見て頑張ってきたのに……まさかなくなるなんて……」
店主のおじさんは悔しいのか、目の前の机にガンッ! と拳を叩きつける。
でもセシリーちゃんはそれに少しもビビらずに、
「うんうん。あなたの気持ちはよく分かるの。辛かったんだね」
とおじさんを慰めてあげていた。
「だろう!?」
セシリーちゃんは意外と聞き上手。
おじさんも気持ちよさそうに喋っていました。
「……となると、不注意でなくしたって可能性はなさそうですね……」
私が口を挟むと、
「当たり前だっ! なくすだなんて絶対に有り得ない! 最初は盗まれたと思ったが、なにせ三十年前に買ったバッグだからな。売っても、ほとんど値打ちが付かないと思うし……」
とおじさんは首をひねった。
「お話を聞かせていただいて、ありがとうございます」
「ありがとー、おじさん!」
「いやいや、これくらいお安いご用だ。聖女様達と話が出来て、ちょっとは元気が出てきたよ!」
おじさんはそう言って、腕を捲る。
「あ、あのー……これは別の話なんですが、お店を再開する目処は立っていないんですか? ラルフちゃんが、ここの鰹節をすごく欲しがっていて……」
「ん……それは、まあ……悪いとは思っているんだ。だが、どうしても気力が湧いてこない。だからバッグが見つかるまで、もう少し待って欲しい」
『ぐぬぬ』
悔しそうに歯軋りをするラルフちゃん。
ラルフちゃんが可哀想ですが……こんなに落ち込んでいる様子のおじさんに、無茶は言えません。
「今はゆっくり休んでくださいね。うちのラルフちゃんは我慢が出来るフェンリルですから。ねー、ラルフちゃん」
『無論だ。ラルフは我慢強いのだ』
……とは言っているものの、ラルフちゃんの尻尾は垂れ下がっていた。
おじさん──そしてラルフちゃんのためにも、早く事件を解決しなければ。
あらためて、そう気合を入れ直します。
私達はおじさんにお別れを言ってから、お店の外に出る。
「うーん、ここでは有力な手がかりは見つかりませんでしたね」
「なの……」
しょんぼりするセシリーちゃん。
「ですが、落ち込んではいられません。次に行きましょう。ラルフちゃん、疲れていませんか?」
『フェンリルを舐めるな。これしき、セシリーの特訓に比べればへっちゃらなのだ』
むふーっと鼻で息をするラルフちゃん。頼もしいです。
「次は財布をなくした男の子の家に──」
「た、大変だ!」
歩き出そうとした時。
そんな剣呑な声が、辺りに響き渡った。
「事件発生……なの?」
セシリーちゃんも不思議そう。
「そうみたいですね──あのー、すみません。なにかあったんですか?」
近くにいる男性に、私はそう質問をする。
「あ、ああ! 中央広場に時計台があっただろう? あれが突然なくなってしまったんだ!」
「そ、それは本当ですか!?」
これには彼に釣られて、私も声を大きくしてしまう。
「セシリーちゃん、ラルフちゃん! 中央広場に行きますよ!」
「分かった!」
『急ぎだな? ラルフに乗れ』
そう言って、ラルフちゃんが背中を向けてくれる。
「ありがとうございます。じゃあセシリーちゃんも一緒に……」
「ラルフ! 出発進行なのっ!」
私が言うよりも早く、セシリーちゃんはラルフちゃんの背中に乗っていました。
『任せろ! エリアーヌも早く乗れ!」
「はい!」
セシリーちゃんを抱えるようにして、彼女の後ろに乗ります。
ラルフちゃんは、まあまあ大きいですからね。セシリーちゃんが落ちないように、私も気を遣わないと。
ラルフちゃんが走り始め、私達は時計台がある中央広場に急ぐのでした。
「時計台が……!」
中央広場。
あれだけ存在感を放っていた時計台が、今では嘘のように消えてしまっています。
広場にいる人達も、元々時計台があった空白の部分を囲んで、思い思いに話をしている。
無理もないですが、急な出来事に戸惑いを感じているみたい。
「お姉ちゃん! 聞き込みするの。事件を解決しなくっちゃ!」
「そ、そうですね」
呆然としている私に、セシリーちゃんがそう声をかけてくれた。
私、ダメですね……セシリーちゃんの方が大人です。
「ラルフちゃんは、そこで休んでおいてください」
『う、うむ……』
ラルフちゃんはぐったりと地面に寝そべった。
人混みを掻き分けながらここまで走ったせいで、体力をごっそり持っていかれたみたい。
でも急ぎながらも、セシリーちゃんが落ちないように気を遣っていたのは、さすがラルフちゃんです。
そっとしておきましょう。
自分の両頬を叩いて、気合を入れ直す。セシリーちゃんに負けないように、頑張らないとっ!
広場にいる人達に聞き込みを始めましたが、返ってくる反応はみなさん一様で……。
『分からないんだ……最初は時計台が薄く見えるようになって「あれ?」って思った時には、もうなくなってて……自分でもなにがなんだか分からない』
というものでした。
「一体、なにが起こっているんでしょうか……」
胸騒ぎはどんどん酷くなっていく。
でもここで立ち止まっては、いけません。私は私でやれることをしましょう。
次に時計台があった場所まで移動し、そこを調べる。ぽっかりとスペースが空いており、まるで始めから時計台がなかったかのような錯覚すら感じた。
見ているだけでは、なにも分かりません。
だけど──私はそこにようやく手がかりを見つける。
「魔力の残滓……? もしかして、魔法かなにかで何者かが時計台を消した……ということ?」
「お姉ちゃん、そんなの分かるの?」
「はい。ですが、私だけではこれ以上……」
と頭を悩ませていると。
『エリアーヌ──』
声が聞こえてきました。
女神です。
『ここに来て、ようやく分かりました。この時計台──そしてみなさんの大切なものを消失させた犯人が』
「そ、それは一体誰ですか!?」
思わず声に出して、女神を問い詰めるような真似をしてしまう。
女神は深刻そうな声音で、こう告げました。
『これは──《白の蛇》の仕業です』





