表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真の聖女である私は追放されました。だからこの国はもう終わりです【書籍化】  作者: 鬱沢色素
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/330

145・大切なものが消えていく

 翌日。


 昨日、街で見聞きした不思議な事件について、私はナイジェルに話を伺っていました。

 すると。


「うん、そうなんだ。昨日の会議でも上がった議題の一つなんだけどね。実は……」


 とゆっくり語り始めました。




 ──最初はとある男の子が大事にしていた腕時計からだったらしい。


 彼はいつも寝室の棚の上に、時計を置いていた。しかし朝起きると、不思議なことにその時計が忽然と消えてしまった。

 彼は母親にも聞いてみたが、時計は見つからない。その母親も、どうせ息子がどこかに置き忘れたのだろうと思っていた。


 しかしそれを皮切りに、街中では似たような事件が続出した。


 女の子が肌身離さず持っていたテディベア。お気に入りのTシャツ。親の形見として持っていた財布。愛を誓い合った証である婚約指輪──。


 その人達にとって大切なものが、次々と消えていったのです。


 一つ二つくらいなら、大した話にはならないでしょう。

 だが、似たような事例が十……二十と増えていくにつれ、人々はさすがにおかしいと思うようになりました。




「もちろん、自警団や冒険者ギルドも、その事件を解決しようと動いているはいるらしい。だけど一向に解決の兆しが見えなくって──僕のところまで話が上がってきたってわけなんだ」

「そうだったんですね……」


 やはり昨日の一件はただの偶然ではなかったということですか。


「これはリンチギハムの王都だけの話でしょうか? 他の街や村では……」

「うん、今のところは確認出来ていないね。一応、ベルカイムや他の国の状況も聞いたけど、似たような事件はないみたいだ」

「リンチギハム──さらにその王都限定の話ということですね。では、泥棒の仕業ということは考えられないでしょうか?」

「もちろん、その可能性は真っ先に考えたよ。でも、なくなったものの中には、あまりお金にならないものも含まれているからね。他の金目になりそうなものに見向きもせず、そういうのばかりを盗るなんて……明らかに不自然だろう」

「確かにそうですね。それに……ただの泥棒の仕業なら、もっと早く事件が解決してそうです」


 ナイジェルと一緒に頭を悩ます。

 それに……これは私の勘ですが。


「……このまま放置していたら、もっと酷いことになりそうです」

「というと……?」

「今はなくなっているものが大切な『もの』に留まっているでしょう? これがもし、大切な『人』にまで広がったら──」


 私がそう言うと、ナイジェルはハッとした表情になる。


「可能性は低いかもしれないけれど──なくはない話だね。そうなったら、事件はより最悪の方に流れる」

「ですね」


 私にとって大切な人──ナイジェル。


 ううん、彼だけではありません。

 セシリーちゃんやドグラス。アビーさんに国王陛下。正しくは人じゃないけれど、ラルフちゃんがいなくなったら──私は落ち込むどころでは済まないでしょう。


「私の考えすぎでしょうか?」

「いや、起こってからでは遅い。だから考えすぎるってことはないよ。それに──こういう時の君の勘は、よく当たる」


 とナイジェルは口にした。


「それに……もしそれでエリアーヌがいなくなったら、ドグラスに顔向け出来ない。あんなに偉そうなことを言ってしまったのに……」

「ナイジェル?」

「な、なんでもない」


 問いただすと、ナイジェルは慌てたように首を横に振った。


「……? まあ、いいですが──私も自分なりに、この事件のことを調べてみます。このまま事件解決まで、ただ待っておくのは性に合いませんから」

「いいのかい? 君は君でやることが多いんだろう? それなら僕が──」

「いいえ」


 さっと手で制す。


「あなたの方こそ忙しいでしょう? 今は王位継承の大切な時期。一つの事件にかかりっきりという訳にはいきません。私の方が自由に動きやすいと思います」

「でも……」

「もし私の方で解決出来そうにない場合──あなたを頼ります。これではいけませんか?」

「……分かった。君を信じるよ」


 とナイジェルは優しげな笑みを浮かべた。


 うーん……なにから始めましょうか? 

 自警団や冒険者の方々が血眼になって調査しても、手がかりさえ掴めないでいるのに……。

 取りあえず、街の人々への聞き込みから始めましょうか。

 そうすればなにか分かるかもしれません。


 そう思い、私は部屋を後にした。




 ナイジェルと別れ、調査を始めるべく私は街まで出ようとしていました。

 その途中。



「ラルフ、いくよ〜!」



 中庭でセシリーちゃんが鰹節片手にラルフちゃんと戯れている光景が目に入って、足を止める。


 セシリーちゃんが鰹節を勢いよく放る。でも……力が足りなかったためか、彼女のすぐ目の前に鰹節が落ちました。

 ラルフちゃんはわざと遠回りをして、中庭を駆け回ります。そしてパクッと鰹節を咥えて、セシリーちゃんに渡しました。


『うむ、なかなかやるではないか。セシリーも黄金の木片を放る様が、板に付いてきたというものだ』


 黄金の木片……鰹節のことです。

 セシリーちゃんはラルフちゃんの言葉が分からないはず。

 だけどラルフちゃんがあまりに嬉しそうだったためなのか、彼女の顔がにぱーっと笑顔になりました。


「じゃあ、次いっくよー! 今日はラルフと目一杯遊んであげるの!」

『付き合おう』


 セシリーちゃんとラルフちゃんは、きゃっきゃっとはしゃいでいます。


「微笑ましい光景ですねえ」


 そんな二人(正しくは一人と『一体』なのかもしれないけれど)を見て、私もつい笑顔になる。


 ラルフちゃんは当初、セシリーちゃんと接するのを嫌がっていた。

 なんでも、彼女の触り方が雑らしいのです。


 だけど徐々にそれも改善していき──今では二人とも仲良しです。


「でも……ちょっと気にかかりますね」


 なんというか……セシリーちゃんの持っている鰹節がいつもより小さい気がするのです。

 そのおかげで、小柄なセシリーちゃんでも簡単に持てるようになっていますが……あれでは、ラルフちゃんも物足りないんじゃないでしょうか。


 そんなことを考えていると……。


「あっ、お姉ちゃん!」


 セシリーちゃんがこちらに気が付きます。


「セシリーちゃん、ラルフちゃんと遊んでいるんですね。楽しそうでなによりです」

「うん! 天気もいいし、ラルフと遊んであげてるの−!」


 私がセシリーちゃんに声をかけると、彼女の方からもこちらに駆け寄ってくる。

 そしてセシリーちゃんは私の腰のところに抱きついて、顔に喜色を浮かべました。


「お姉ちゃんも、セシリーとラルフとで一緒に遊ぶ?」

「それは魅力的な提案ですね。ですが──すみません。私にはやることがありますので」

「そうなの……」


 とセシリーちゃんが残念そうに言う。


「そういえば──いつもより鰹節が小さく感じたのですが? 今日の鰹節はいつもと違うんですね」

『そうなのだ』


 私がセシリーちゃんと話していると、ラルフちゃんも話の輪に入ってきた。


『なんでも、いつもラルフに黄金の木片を供給している店が閉まっているようでな。そのせいで満足な黄金の木片が入手出来ず、しばらくこれで我慢することになりそうなのだ』

「あら、そうなんですね……」

『あの店はよかった。ラルフにふさわしい黄金の木片を取り揃えていた。あれ以上の黄金の木片は、他では手に入らないだろう』


 鰹節……っていうと、どれも似たようなものだと思っていましたが、なかなか奥が深いようです。


『店主も早く元気を取り戻してくれればいいのだがな。大切なバッグとやらをなくしてしまったせいで……』

「た、大切なバッグ? ラルフちゃん、その話をもう少し詳しく聞かせてもらっていいですか?」


 先ほど、ナイジェルと話していた大切なもの消失事件と繋がります。鰹節の店主も、その事件の被害に遭ったということでしょうか。


『ラルフもそこまで詳しく知らないのだ。しかしその店の店主はそのせいで、すっかり意気消沈して、お店を閉めていると聞いておるぞ。なにか気になることでもあるのか?』

「はい。実は──」



 私はラルフちゃん……そしてセシリーちゃんに、ナイジェルと話したことを説明する。



 するとラルフちゃんは神妙な顔つきで、


『そうだったのか……そこまで連続して続くと、事件性があると考えるのも無理はないか。エリアーヌとナイジェルが不安になるのも仕方がない』


 と言った。


「だから今から私は街に出て、今回の事件を捜査してみようと思います。ラルフちゃんの鰹節も気になりますし、まずはそこの店主に話を──」

「…………」

「セシリーちゃん?」


 ラルフちゃんと会話を交わしていると、セシリーちゃんがずっと考え込んでいる様子が目に入りました。

 彼女は私が呼びかけても、口を開こうとしません。


 しかし。


「お姉ちゃん」


 やがて覚悟を決めたのか、


「セシリーにもそのそーさ、お手伝いさせて欲しいの」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆コミカライズが絶賛連載・書籍発売中☆

シリーズ累計145万部御礼
Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/1103
講談社販売サイト→https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000355043

☆Kラノベブックス様より小説版の書籍も発売中☆
最新7巻が発売中!
hev6jo2ce3m4aq8zfepv45hzc22d_b10_1d1_200_pfej.jpg

☆新作はじめました☆
「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ