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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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収束

 第六十九話。ケースクローズド。

 長い通路を下った先に、セイントはいた。

「セイントさん!」

 無事ではない。

 胸から太ももにかけて爪痕が刻まれ、血が滲み出している。だが、体全体を氷が包み込んでいるので、出血は止まっていた。

「今出します!」

 スペーディアが体を傷つけないようにレイピア――トレイスの秘剣というらしい――で氷を削り出す。

「あいつらは?」

 通路の先にはセイントの他にも凍りついている神官達がいた。

「ほっといても死なないし、後回し」

「そうか」

 納得したところで、狼刀(ろうと)はふと気になったことを聞いてみる。

「なぁ、どっちが素の口調なんだ?」

 スペーディアと話していると、時々口調が変わるのだ。例えるならば、王族らしい丁寧な話し方と少女らしい砕けた話し方。

「どっちもあたしよ」

 砕けた口調でスペーディアは答える。

「意識して使い分けてるわけじゃないのよね」

「そうなのか?」

「そうよ。師匠達のお陰でね」

「母親が師匠らしいな」

「そうよ。まあ、マナーとか身のこなしだけじゃなくて、剣も教えこまれたけどね」

 厳しい人だったわ。とスペーディアは苦笑いを浮かべる。

「もう一人の師匠は堅苦しいのが嫌いな人だった。騎士団の副団長だったのにね」

 スペーディア曰く、最初は母親仕込みの丁寧な口調を心掛けていたそうだ。その一方で、口調を意識した状態だと動きが悪くなるからやめるように、と副団長には言われたらしい。

 今は全く意識していないそうだ。

「まあ、気になさらないでくださいまし」

 意識しない結果、両方が混ざったような口調になっている。


「うっ……」


 セイントの口から声が漏れた。生きていることは間違いないようだ。

「動くことは出来ますか?」

 レイピアを鞘に戻して、スペーディアは手を差し伸べる。

 セイントは手を伸ばそうとするが、力が入らず手は僅かに動くだけだった。氷が覆うのは傷口の周りのみであり、動きを妨げいるわけではない。

「……すま、ない」

「いえ、大丈夫ですよ」

 スペーディアはセイントが自力で動けないことを理解すると、肩を貸して立ち上がった。それだけでも十分な安定感はあったが、狼刀は反対側の肩を支える。

「すま、ない……」

 両脇でセイントを支えながら、三人は通路を引き返していった。凍りついた神官達は、完全に無視だ。

「死なせないわよ」

 スペーディアが呟いた。

「もちろんだ」

 狼刀は頷き返す。

 二人の言葉を聞いて、セイントは静かに笑みを浮かべた。


 王の間まで辿り着いた狼刀達を待っていたのは、ハーティルとミソロギ、そして見覚えのある十字架に磔にされた二人の神官だった。

 第一にすることは、セイントの傷を癒すことだ。

 ハーティルとミソロギの協力を得て、セイントは無事に回復した。

 治癒魔法の使い手がいるといいですね、とはミソロギの話だ。

 彼はエース城でも、瀕死になったセイントを助けている。あの時は、必ず助けることが出来るわけではなかったが、今回は違ったというわけだ。

 狼刀達は、足りないピースを埋めるため、セイントから話を聞くことにした。


 セイントを瀕死の状態まで追い込んだのは、地下牢獄に向かっていた神官だ。獣を連れていたということはステイマーの仲間だろうが、特徴から推測すると彼女ではない。

 しかし、問題はその後だ。

「それは本当なんですか?」

 聞き間違いではないかと、狼刀は聞き返した。

「うむ……」

 セイントは首を縦に振る。

「なら、誰が神官を?」

 セイントとクエラは瀕死になりながらも神官の侵入を防いだのだ。つまり、クレバー達を解放した敵は別にいる。

 それが誰かは、セイントもわからないようだった。

 その答えは、意外なところからもたらされる。

「……カイよ」

 呟いたのはスペーディア。そして、彼女が話した名前は、狼刀もよく知る人物だった。

「どういうことですか、スペーディア様?」

 言葉が出ない狼刀に代わり、ミソロギが問いかける。

「この城にいたでしょ、カイよ」

「彼ですか? 何故でしょうか?」

「わかりませんが、組織のために、と言ってましたわ」

「組織とは一体なんですか?」

「そこまでは……わかりませんわ」

「そうですか……」

 会話が一区切りついたところで、狼刀は声を出した。

「カイさんは、すでにこの城には居なそうですね」

「でしょうな」

 その呟きにセイントが答える。

「今度会ったら捕まえるわ」

 スペーディアは決意を込めた一言を。

「そうだな」

 狼刀は答えながら、カイについて考えていた。

 白衣や青髪などの身体的な特徴に、デュース城の図書庫にいる学者という立場。魔法機(ギフト)を創る技術を持ち、それから――

「まさか……」

 かつてカイと王、大臣と話をしたことが頭をよぎる。

 あの時の話がどこまで信頼出来るのか。王も大臣も死んでいるので確認することは出来ないが、全くの嘘という可能性もあるのではないか。

 と、そこで思い出されるのは鏡型の魔法機(ギフト)のこと。

「……ト」

 あれがもし他人の姿も変えることも出来るとしたら、王や大臣もカイの仲間で、死んでいた彼らとは別人なのではないか。

「……ウト」

 その予想には真実を突いている部分もあったが、彼に確かめる術はない。

「ロウトってば!」

「あ、え……」

 気づけば狼刀は立ち止まっていた。

「悪い。少し考えごとをしてた」

「考えごと?」

「よければ話してくれないか?」

 スペーディアは首を傾げ、セイントは話すことを提案する。

 確かに話せば狼刀は楽になるだろう。

 しかし、二人に余計な不安を与えることになるのではないか。確信を持てないことは、共有するべきではない。

「言え、ません」

 考えた末、狼刀は言わないことを選択した。

 三人の視線が狼刀に集中する。それでも、無理矢理聞き出そうとする人は居なかった。


 その後。

 エース城の兵士達により、城内に邪神教(じゃしんきょう)の神官が残っていないことが確認された。ただし、襲撃者は誰一人として捕らえられていない。

 再襲撃に備えての巡回は兵士達が担当することになり、狼刀達は休むことになった。

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