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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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戦いの裏で

第四十八話。敵?サイドのお話

 時は少し遡り、宴が終わる少し前。

 カイは会場に入るなり、壁に寄りかかって宴の様子を眺めていた。

 人、人、人。城にいるほとんどの人が集まってきているか、会場は人で溢れかえっている。その中から、カイは一人の人物を探していた。

 普通なら難しいだろう。

 けれど、今回はその限りではない。

 探しているのは、宴の主催者側の人間だ。

 ともすれば収容所のように見える下座ではなく、しっかりと宴らしさのある上座にいる。別に決まりがあってそうなっているのではない。多くの人が空気を読みあった結果として、そうなっていた。

 そんな人の群れをカイは突っ切る。

 大臣(ラムダ)に向かって、真っ直ぐに。

「そろそろ、始めよう」

 合図はそれだけだ。

 傍目にはすれ違っただけにしか見えないことだろう。

 カイはそのまま進み、料理を皿に盛った。目的はそれだったのだと思わせると同時に、違和感を与えることなく近くで様子を確認出来る。


 その目に映るのは、想定の斜め上をいく光景だった。


 立ち去ったラムダを追うようにして立ち上がったかと思ったら、クエラに絡まれて動きを止めたのである。宴が終わり、片付けが始まっても、二人はその場を離れなかった。

 下座の片付けは落ち着き、上座の片付けが始まる。

 場所を追われるように立ち上がったカイの目の前で、観察対象が動き出した。カイは見失わないように、追いかける。

 その肩に、手が置かれた。


「ろこいくんれすか? えいゆうしゃま」


 酔いつぶれていたはずのクエラだ。

 カイは無視して進もうとするが、クエラは離れない。

「むししないれくらさいよぉ~」

「僕はカイだ!」

 カイは手を振り払って、叫んだ。

「ふえ? あぁ、かいさんれしたか」

 勘違いには気づいたようだが、クエラは気にしなかった。

「さぁのみまそうかいしゃん」

 杯を取り出して、押し当ててくる。

 カイは振り解くが、クエラは離れなかった。正しく言うならば、離れてもすぐに絡んでくる。巻き込まれたくないが故に、周りの人も見て見ぬふりだ。

 力尽くならどうにかなるが、人がいるこの状況では望ましくない。

「急いでるんです。離してもらえませんか?」

「いいざないれすか。ゆうくりいきまそ」

 カイは何とか穏便に済ませようとするが、クエラは離れようとしない。

「ほら、ほんなおもももてなあで」

 クエラがカイの懐から指揮棒(タクト)を奪い取った。

「このっ」

「ふへあ」

 急いで取り戻そうとするカイだったが、クエラはフラつきながらその手をかいくぐる。

「ああいえすよ」

 ふらふらと足がおぼつかず、へらへらと笑いながらも、クエラは指揮棒(タクト)を奪わせない。

 かといって、カイから離れはしない。

 対するカイもされるがままという訳ではなく、動きに緩急をつけたり、姿勢を大きく変えたりしているのだ。

「あいしゃん、あまえすよ」

 それでもクエラのほうが優勢だった。

「厄介な力を……」

 それがただの偶然ではないことをカイは知っている。

 人口格。

 邪神教が行った実験の産物の一つだ。

 彼の持つ人口格は、この状況ではとても有用に働いていた。

「かいしゃん。おちゅかえてすか?」

 カイが動きを止めたことで、クエラが背後から腕を絡ませてくる。

「あぁ、疲れた」

 指揮棒(タクト)はクエラの右手に握られていて、顔は左側を向いていた。

「だから、終わりにしよう」

 クエラからは死角となるように、手を伸ばす。

 それをさも見えているかのごとく、クエラは(かわ)した。

「くっ……」

「あえ、あんかえあ」

 クエラからは完全に死角のはずだ。

 それでも奪えないということは、身体が勝手に避けているということになる。つまり、クエラが手放そうと思わない限り、奪還は不可能。

 そのことを理解したカイは作戦を変えた。

「クエラ……」

「あぃ?」

「……もっと飲め」

 酔い潰す。

「あい! ふあいでのまよ!」

「わかりましたよ」

 しかし、飲み物は片付けられていた。

「誰か、飲み物持ってきてもらえませんか?」

 カイの印象としては、クエラに乗っかられたままでは動くこともままならないだろう。そのことを意識しつつ、カイは会場に残っている人に声をかけた。

「いや、飲み物どこか知らないので」

「…………」

「すみません。急いでいるので」

 言い訳をしたり、無視したりと、誰もまともに取り合ってはくれない。

 こっちも急いでいるんだよ!

 カイは苛立つ気持ちを抑えながら、酒を持っている青年のほうに向かった。本気は出さない。クエラを背負っててもなんとか進める、くらいの速さだ。

「みんあしうかっすえ」

 クエラが何か言ってるが、気にしない。

「あの――」

 カイと目が合うなり、青年は立ち去った。

「くっ、指揮棒(それ)さえあれば……」

 クエラに奪われた指揮棒(タクト)型の魔法機(ギフト)――死操指揮棒(ネクロマンサー)さえあれば、王でも大臣でも連れてきてクエラを引き剥がすことが出来るのだ。

 カイはため息をこぼした。

「あやいごおえすか? そうあんにあいますよ」

 そのため息を聞き逃さずに反応してくるクエラ。『お前のせいだよ』とでも言いたくなるところだが、酔っ払い相手には無駄――というか、余計に絡まれるのは目に見えている。

「……いえ、なんでも」

 カイには誤魔化すことしか出来なかった。


 その後、片付けた飲み物が集めてある場所まで辿り着き、クエラにありったけの酒を飲ませたのだが、クエラが潰れない。

 予測の甘さに歯噛みしつつ、近くで先に酔い潰れていた彼の同類にクエラを押し付けて、カイは逃げた。

 向かうのは死体処理場。

 目標は状況を把握することだ。

 指揮棒(タクト)が取り返せなかったため、確かめるには自分の目で確認する必要があった。そんなカイの前に、地下にいるはずの男が現れる。

 カイは身を隠した。

 一人だけなら声をかけるという手もあったが、ハーティルを伴っているのだ。彼はカイの素性を知っている。不用意に接触するべきではないだろう。

 そんなカイの思いを知ってか知らずか、二人は疲れた顔で歩いていった。

 気を取り直して、カイは図書庫に向かう。

 

 そこには疲れたように突っ伏したカイ――の姿を真似たであろうラムダ――がいた。


「あ、危なかったぁ……」


 ラムダは深く息を吐くと、机に突っ伏した。

「これで、二度目……」

「何が二度目なのかな?」

 カイはその背中に声をかける。

 ラムダは飛び起きた。

「カ、カイサン……」

 目の前に、驚いた顔の自分がいる。自分では出来そうもないその顔を見て、カイはため息をこぼした。

「作戦は失敗したみたいだね」

 過程はわからないが、結果は火を見るより明らかだ。

「み、見張りはどうしたんですか?」

「扉はきちんと閉めさせたさ。そのあとは必要ないんじゃなかったのかい?」

 ラムダはそれで十分だと言った。

 カイは十分だとは思っていなかったし、姿は現さずとも手を貸すつもりだったが、そんなことは関係ない。

「すいません。こちらの落ち度です」

「さて、これからどうするか」

 頭を下げるラムダを、カイは無視した。

 過ぎたことを気にしても仕方ない。それに、今は余計な思考で頭を使いたくはなかった。

「サマルは王妃と一緒に寝室にいるはずだ。そこでサマルと入れ替わってくれ。大臣は放っておいていい。失踪したことにする」

「夜のうちに襲撃すればよいのでは? カイさんの目的は果たしたんですよね」

 ラムダは納得していないようだった。

大事(おおごと)にするつもりはない。殺るなら死体処理場、失敗したなら観察だ」

 カイに本気で殺すつもりはない。

 詳細は後日ラムダを問いただす必要があるが、疲れた様子から推察するに圧倒的な勝利ではなかったはずだ。ラムダが敵の手に落ちてないことからも、そのことは間違いない。

 放置しておいても、問題はないだろう。

「もし、生かしておけば我々の不利益になるかもしれません」

「オメガ様も承知の上だ」

「……わかりました」

 なおも食いさがろうとするラムダを、カイは力尽くで黙らせた。オメガ様の決定に逆らうことなど、カイにも不可能だ。

 たとえ嘘だとしても、ラムダに確かめる術はない。

「手筈通りにやれよ」

「……はい」

 ラムダを追い出して、カイは机に突っ伏した。

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