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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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絡んでくる男

第四十七話。絡み〇〇な人は厄介。

「それくらい大丈夫だよ」

 協力してもらいたいことについて話すと、ハーティルはすぐに頷いた。

「なら、お願いします」

 狼刀(ろうと)は頭を下げると、図書庫に向かおうとした。その背中にハーティルが声をかける。

「カイさんに声をかけるのはやめておいたほうがいいと思うよ」

 狼刀は思わず振り返った。

「二人だけでやろう」

 ハーティルは目は真剣だ。何の意味もなくそう言ったのではないと、狼刀は判断した。

「わかった」


 その夜、デュース城にて行われた宴には、王や王妃、大臣をはじめとする城の中心人物から、カイやクエラ、狼刀に至るまで、城にいるほぼすべての人間が参加した。

 だが、そこにハーティルの姿はない。

 上手くやってくれるだろうか。

 心ここに在らず、傍から見れば宴を楽しめていない様子の狼刀。その肩に手が置かれた。


「いやぁ、さきほろは英雄様とは知らず、失礼しますた!」


 無駄にテンションの高いクエラだ。

「自分のこてゃ、クエラとよんでくらさい」

 左手を腰に当て、右手で敬礼をするが、すぐにふらつく。

「自分、つよぉんすや」

 顔も赤いし、呂律も回ってない。

「おとおとにあまけましゅけね」

 どう見ても酔っ払っていた。

「あの、酔ってませんか?」

 狼刀は心配になって訊いてしまう。酔っ払い相手にそれが禁句なのは異世界でも変わらなかった。

「よってましぇんよぉ。もお、ぜんぜん、へいき! じぶん、げんきれす!」

 クエラは狼刀にもたれかかる。

「それよいほらぁ、うらけおたのしいまひょ?」

 近くの机にあった飲み物をひったくり、狼刀に押し付けた。

「かーぱーい」

 自分も飲み物をもって、無理やり乾杯をする。

「ほあ、ぐいっといいちゃあて」

「ちょっ、自分で飲めますから」

 無理やり飲ませようとするクエラに、さすがに狼刀が抵抗した。これから、大臣と会うという用事がある。

 何より、狼刀は未成年だ。

 元の世界の法律は適用されないだろうが、飲むつもりは全くなかった。

 しかし、拒絶という行為がクエラの行動をエスカレートさせていく。

「えんりょあらめれすよ。もっと、もっと」

 クエラが落ち着くまで、狼刀は付き合わされることになった。一滴たりとも口には入れなかったが。

 宴の終わりが見えてきた頃。

 クエラの介抱で疲れて座っている狼刀の横に、大臣が立った。

「死体処理場で話をしましょう。場所は図書庫の奥。一人で来てくださいね」

 用件だけを小声で伝えて、立ち去る。

 大きく息を吐いてから、狼刀は立ち上がった。

 思わぬところで疲れたが、誘いを断るわけにはいなかい。死体処理場に向かおうとした狼刀の背中に、何かが抱きついた。


「ろこいくんれすかぁ。うたえあまらここかあれすよ?」


 クエラだった。

 狼刀は全力で振りほどく。

「まっえくあさあよ」

 クエラが抱きついた。

 逃げても逃げても、クエラが絡む。

 そうしているうちに宴は終わった。

 片付けさえも目処がついている。

 早く行かなければと焦る狼刀だが、クエラからは逃げられない。

「あ、なあった」

 飲み物がなくなり、クエラの視線がそれる。その隙を見逃さず狼刀は駆け出した。

「ろこいくんれすか?」

 声が聞こえても振り返らずに、走り抜ける。

 なんとか、クエラからは逃れられた。

 狼刀はそのまま死体処理場に向かって、走る。


 待ちくたびれたのか、大臣は床に転がっていた。

「すいません。遅くなりました」

 開口一番に狼刀は謝罪する。

 クエラが原因とはいえ、大臣に関係のない事情だ。その謝罪を大臣は気にしない。

「遅いよ。英雄君」

 ゆったりと立ち上がり、指揮棒(タクト)を取り出す。後ろで扉が閉まる音がした。

「二人じゃなかったのか?」

「扉を閉めてもらっただけですよ。中には入れてません」

 大臣が指揮棒(タクト)を振りながら答える。

「あなたこそ、一人で来たんでしょう?」

「一人で来ましたよ」

「…………」

「…………」

 問答が終わり、沈黙が訪れた。

 睨み合いが続く。

 沈黙を破って、声を発したのは狼刀だった。

「それで、話とは?」

 大臣はしきりに背後を気にしていて答えない。

「話は何ですか?」

「え、あ。あぁ、話ね」

 狼刀がもう一度聞くと、大臣は答えた。

「話ね」

 指揮棒(タクト)を振りながら、大臣は呟く。

「話……話はないさ」

 呟きながら、指揮棒(タクト)を振り続けた。

「くそっ! どういうことだ!」

 指揮棒(タクト)を振りながら、大臣は振り返る。

 そこには、死体置き場から必死に這い上がろうとする死体がいた。だが、一つの例外もなく見えない壁に阻まれたように落ちていく。

「まさか、結界!?」

防砦魔法(キャランサ)ですよ。大臣」

 叫ぶ大臣に答えたのは狼刀ではない。いつからか入口にいたハーティルだ。

「ハーティル!? 貴様どうして!?」

「見張りの奇妙な連中なら倒させてもらいましたけど」

 ハーティルは鉄の杖を構えながら、狼刀に並んだ。

「そこの魔法なら、あなたが来た時からありましたよ? 気がつきませんでしたか?」

 ハーティルは、にこりと笑う。

「貴様らぁ!」

 大臣は顔を痙攣させながら、顔を上げた。

「私は死体使いがいるかも知れないから、死体が湧き出ないようにと頼んだだけです」

「ええ、お二人の話し合いには参加するつもりはありませんよ」

 狼刀とハーティルは、顔を向かい合わせて答える。その行動が、さらに大臣の怒りを駆り立てた。

「でも、話はないんでしょ?」

 ハーティルの挑発に、大臣がのる。

「二人まとめて始末してやる!」

 大臣は叫ぶと、口を押えた。

 指揮棒(タクト)を捨てて、代わりの武器を取り出す。その武器は、メリケンサックとトンファーを合わせたような形をしていた。

 両手にその武器を構えると、大臣は無言で二人に飛びかかる。

 単調な振り下ろしを受け止めることは難しくない。

 二人が攻撃を受け止めると、大臣は口から貝を吐き出した。床に落ちたそれを踏み潰す。白い煙が噴き出して、視界を塞いだ。

 魔法ではない。

 本物の煙は狼刀の視界をも遮った。

 その煙に乗じて、大臣が二人の間をすり抜ける。

 そのことに気がついた狼刀が刀を振るが、当たらない。

「くそっ」

 狼刀は煙を振り払いながら、大臣を追いかける。

 少し遅れて、ハーティルもその後を追った。

 進めど進めど煙は晴れない。途中で増やしたかのか、濃さは増していくばかりだ。

 狼刀は急ぎつつも慎重に、壁を伝って進む。

 一本道ではあるはずだが、視界が悪くては真っ直ぐに進むことさえままならない。

 壁伝いに走って、走って、走って、少し煙が薄くなってきた。目を凝らせば、壁は目視出来る。

 狼刀は壁から手を離して走った。

 走って、走って、煙を走り抜ける。

 そこには図書館に続く階段があるだけだった。

 狼刀は階段を駆け上がる。煙の中から現れたハーティルも、その後に続いた。


 図書庫にはカイがいるだけだった。


 駆け上がって来た狼刀たちに関心を示すこともない。どうやら、何かが起こったという認識はないようだ。

「カイさん。大臣が、来ませんでしたか?」

「さっき。誰かが、通り過ぎたけど。顔は、見てないな」

 ハーティルが話しかけると、カイは振り返らずに答える。興味すらもないのだろう。

「わかりました……」

 ハーティルは追跡を断念したようだった。実際、ここを越えた以上追跡は困難だろう。

 敗因は地の利の差だ。大臣は煙に包まれた中でも道を覚えていたから、早く抜けられた。狼刀達は道を探りながらだから遅かった。

 狼刀はそう考えた。

「何があったかは、知らないけど、もう夜も遅い。休むといい」

「そうします」

「わかりました」

 カイの背中に見送られながら、二人は図書庫を後にした。


 また狙われるかもしれない。

 そんなことを考えながら、狼刀は眠れない夜を過ごした。

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