表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
66/132

神に仕える者

第四十四話。謎に包まれた邪神教の片鱗が見える、かも。

 ディアスがいない。

 地上に戻ってきた狼刀(ろうと)が最初に抱いた感想はそれだった。入る前になかったテントがあることは気にしない。

 問題のディアスの行方だが、狼刀には一つだけ心当たりがある。

「塔に向かいます」

 心当たりはそこではない。

 ただ、デストロ達を連れて捜さくてもいいのではないかと考えたのだ。簡単に言うなら、ディアスの捜索は後回しだ。

「そこでの用事が済んだら、石はあげます」

 端的に目的を告げ、狼刀は歩き出す。

「深紅の塔か」

 デストロは小さく呟いて、後に続いた。


「おーい。来たぞー」

「うむ。待って居ったぞ」

 待っていたかのような早さで、スカイドラゴンが答える。

 デストロ達は初めて見るスカイドラゴンに言葉を失っているが、狼刀としては慣れたものだ。驚きも、臆することもなく、巨龍と向き合う。

「約束のものは持ってきました」

「お主を勇気あるものと認め、秘宝を託そう」

 重力の石を視認し、スカイドラゴンは紅い宝石を差し出した。狼刀が受け取ると、スカイドラゴンは空へと昇る。

「では、さらばだ」

 もう会うことはないだろう。

 小さくなっていく龍を見送りながら、狼刀はそんな風に考えていた。


「さあ、重力の石を渡してもらおうか」


 デストロがドスのきいた声で呟き、手を開く。

 スカイドラゴンがいる間は借りてきた猫のように大人しかったのだが、いなくなった途端に偉そうな態度だ。

 狼刀は無言で、叩きつけるように重力の石をデストロの手に置いた。約束を違えるつもりはないが、何も思わないわけではない。

 もう会うことはないのだろうし、嫌われても問題はないのだ。

「ふん。行くぞ、お前ら」

 デストロは重力の石をしまうと、狼刀に背を向けて歩き出した。

「…………」

「は、はいっ」

 デッドールが無言で続き、ダイヤナはビクッと跳ねてから、慌てて二人を追いかける。その背中に狼刀は問いかけてみた。

「どこに行くんですか?」

 三人が揃って足を止める。だが、振り返ったのは一人だけだ。

「エース城です」

「そっか」

 それ以上の会話はないと判断したのか、ダイヤナは深々と頭を下げると、歩き出していたデストロ達を追いかけた。

 商人達の姿はだんだんと小さくなっていく。

 三人が見えなくなるまで見送ってから、狼刀は同じ方向に向かって歩き出した。深紅の塔(ここ)からエース城に向かうにはデュース城の前を通らなくてはならないのだ。

 同じ方向に進むのは必然の流れだった。


 ディアスがいる。

 城の近くまでやってきた狼刀が最初に抱いた感想はそれだった。外にいるのは、結界があるだろう。

 不機嫌そうな表情からも、結界が消えてないことは間違いない。

「さあ、早くこの城を救って」

 ディアスは狼刀に近づくと、表情通りの不機嫌な声で呟いた。

「ああ」

 狼刀は紅い宝石を取り出しながら、ディアスとすれ違い、結界を通り抜け――見えないからどこからかはわからないが――扉を開ける。

 青を基調とした大広間だ。

 そこに黒い神官がいる。

 本人が黒いのではなく、着ている浄衣が黒かった。異世界なのだし、厳密にいえば浄衣ではないのかもしれないが、そんなことは関係ない。

 大事なのは、神官クレバーがそこにいるという事実だ。

「おやおや」

 同様に、クレバーにとって大事なのは侵入者がそこにいるという事実だ。

「城には結界がはってあるんですが、どうやって入ってきたんです?」

 狼刀は現れざる存在なのだから。

「さあ、どうしてだろうな」

 狼刀は紅い秘宝を見せながら、挑発するように言い返した。

「なぜ! あなたが、それを持っているのですかっ!」

 クレバーの顔に怒りが浮かび、拳を握りしめる。

 狼刀は刀と竹刀を構えると、床を蹴った。

「塔は守らせていた、はずっ! なぜ!」

 手加減をせずに、竹刀を振り下ろす。

 クレバーは、今気がついたかのように、慌てて距離を取った。無理な動きで、体勢が崩れる。

 狼刀は追い打ちとばかりに、刀を振り下ろした。

「なんなんだっ! お前!」

 錫杖で攻撃を受け止めながら、クレバーは叫ぶ。

「二人称はあなたじゃなかったか?」

 この手の敵は、挑発して我を失わせるほうが戦いやすい。元の世界でアニメなどから得た知識と、三度にわたるクレバーとの攻防から、狼刀はそう考えた。

「黙れ!」

 クレバーは大きく後ろに跳ねて、距離を取ると、錫杖を狼刀に向けた。

 狼刀は不敵に笑う。

 その笑みに、クレバーは気がつかない。

火炎魔法(エルマ)!」

 狼刀が避けなかったから、勝利を確信したのだろう。愉悦の浮かぶクレバーに向かって、狼刀は一歩踏み込む。二の足を上げつつ、踏み込んだ足で床を蹴り、距離を詰める。

 驚いた顔を浮かべるクレバーに向かって、狼刀は竹刀を振り下ろした。

「馬鹿な……」

 錫杖を落とし、クレバーが倒れる。

 とどめは刺さなかった。


 まずは、急いで大臣を見つける。

 神官は気絶しているだけだから、動き出す前に、生け捕りにしてもらうためだ。手紙を渡すという用事もある。

 神官は地下牢獄に閉じ込めておくらしい。大臣からは、図書庫で待っているように言われ、狼刀は向かった。

 展開が違うことは気になるが、不都合ではない。

 もともと、次の目的地は図書庫――そこにいるカイだった。


「僕に何か用事ですか?」


 図書庫に入った狼刀を、白い帽子の青年が出迎えた。

 待っていたかのような対応に、狼刀が怯む。とはいえ、彼から話しかけてくるのなら好都合だ。

「これを使ってこの城を覆う結界を消して欲しい」

 狼刀は秘宝を取り出して、手渡した。

「それはまた突然ですね」

 カイは首を傾げ、尋ねる。

「南西の塔にあった秘宝です」

「なるほど。そうでしたか」

 カイは色々な角度から秘宝を眺めた。

「残念ですが、調べてみないとわかりませんね」

「では、お願いします」

「僕はカイ。あなたは?」

 カイは帽子を取り、恭しく頭を下げる。

「俺は狼刀です。一刻も早くお願いします」

「ロウトさんですね。結果が出たらお教えしますよ」

 結界の破壊を頼み終わった狼刀は、図書庫で本を見て回った。

 文字は天使の加護なのだろうが、問題なく読める。読めはするが、理解は難しかった。とくに、魔法機(ギフト)について書かれたものは。

 小説や伝記などは、世界観が違うため、それなりに楽しめた。

 その中に雰囲気の違う本が、一冊。


 邪神教(じゃしんきょう)入団の手引き書。


 禍々しい模様の描かれた表紙をめくってみると、まるで設定集のような目次が現れた。教義や理念、成り立ちに始まり、構成員なる項目まである。

 狼刀は半分は今後のために、半分は興味でもってそのページを開いた。


 大神官マルティール・ジャドレイ。邪神教の創設者にして、破壊神(はかいしん)シヴァーに選ばれた神官。超高齢ながら、その威厳は圧倒的。

 三神官。神官の中でも特に強い存在。

 戦いの神官ブラスト。邪神教きっての武闘派神官。その一撃の前では魔物さえでも塵芥とかす。新参者でも実力で成り上がれることを証明した。

 知恵の神官クレバー様。邪神教きっての知恵者。あらゆる魔法を万能に使いこなす。彼に扱えない魔法はなく。対処できない魔法もない。まさに至高の存在。

 予言の神官クバウト。邪神教きっての策略家。その指揮の元では誰も傷一つ負わない戦いが繰り広げられる。彼が知らないことは何もないという。

 三神官より格下だが、位の高い存在。現在は聖神殿の守護を担当する神官達。

 神官総括役テンダー。大神官様の命を他の神官に伝える神官。大神官様に謁見できる数少ない存在。

 マルティール騎士団長オルダー。神官の中でもブラストに次ぐ武闘派。武闘派の神官たちを束ね、騎士団を組織する。

 守護兵隊長ステイマー。邪悪な魔物を完全に従え、正義の魔物にした神官。その魔物を連れて聖神殿を守護する。

 最強の召喚士フェシー。その類い稀なる召喚魔法の才能は邪神教において他のものの追随を許さない。魔神さえも召喚し、従える。クレバー様以外になら魔法で負けることのない神官。

 力があれば、新参者でもこんなに素晴らしい存在と仲間になれる。

 それが邪神教なのです。


 設定集というか、攻略本だ。

 イラストこそついてはいないが、キャラクター紹介のページだと言われても違和感がないだろう。弱点が載っていればもうけものだったのだが、そこまで馬鹿ではないらしい。

 とはいえ、何かの役には立つかもしれない。

 狼刀は本をふくろにしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ