緑色の怪人
第四十三話。ついに解決!?
「シシ、次はお前だ」
シシがデストロの前に歩み出て、頭を下げる。デストロは竹刀を振り下ろそうとして、手を止めた。
「フードは取れ」
シシは動かない。
「フードを取れ」
デストロの声が低くなった。
それでも、シシは動かない。
「取れ」
デストロがドスのきいた声を響かせる。
「断ります!」
シシは曲刀を構えて、デストロに斬りかかった。
「くっ」
デストロは後ろに飛び、割って入ったデッドールが曲刀を受け止める。シシは力押しせずに、弾くようにして、距離を取った。
「それを食らえば、我々はひとたまりもないようなのでね」
シシがフードを取り、顔を露わにする。
顔といっても、見えるのは口だけだ。緑色の髪の毛が口以外を隠し、顔の輪郭すらわからない。
「魔物ですから」
けれど、頭に生えた二本の触覚が人間ではないことを雄弁に物語っていた。
「開放」
髪の毛が逆立つ。現れた目は虫の複眼のような形をしていた。人間でないことは明らかだ。
デストロが竹刀を捨て、戦斧を構える。
「シシ! 俺らを騙していたのかぁ!」
狼刀は刀を構え、デッドールはブーメランを構えた。
「騙すも何も」
シシは飄々した雰囲気を崩さない。
「出会った時から同じシシですよ」
地面を蹴り、一瞬でデストロに肉薄し、曲刀を切振り上げる。デストロはその攻撃を戦斧で受け止めた。
見切って防いだのではないだろう。
共に戦ってきた経験が、彼に攻撃を読ませたのだ。
「俺らを騙してたんだな!」
デストロの表情が変わる。はっきりとした怒りの表情に。
「シシ!」
怒気を孕んだ声で叫びながら、デストロは戦斧を振り上げた。戦斧は雷を纏い、肥大化する。巨大な雷の斧だ。
「デストロ様!」
「怒雷武」
シシがデストロの名前を叫ぶのと、雷を帯びた斧が振り下ろされるのは、ほとんど同時だった。
雷を帯びた一撃が炸裂し、大地が割れ、土が舞う。雷鳴が轟き、風が吹き抜ける。圧倒的な破壊の余波により、視界が塞がれた。
視界が晴れた時、立っているはデストロだけだった。シシは地面に伏している――のではない。
シシは跡形もなく、消え去っていた。デストロの腹部に刺さった二本の曲刀だけが、シシがそこにいたことを証明している。
相打ち覚悟の最後の一撃だったのだろう。
デストロは曲刀を抜かずに、狼刀のほうを向いた。
「それで? 俺達に恩でも売ったつもりか?」
「いえ。ですが仲間が減って大変でしょう。私も一緒に連れて行ってもらえますか?」
狼刀は怪しさ満点の笑顔で返す。
「何が目的だ」
デストロが戦斧を引き抜き、構えた。
「成功報酬で結構です。役に立たなかったなら、何もいりません」
「俺達を助けて、何が得られる?」
「人を助けるのに理由なんていらないでしょう」
「無償の善意なんてあるわけないだろ」
「私の元いた場所にはありましたよ。ボランティアなんていいましてね」
「ちっ……」
あくまで目的を語ろうとしない狼刀に、デストロが折れた。デッドールも反対ではないのか、ブーメランを下ろす。
「わかった。役に立ったら、だがな」
「ありがとうございます」
狼刀は真面目な顔で、頭を下げた。
「そうだったんですか……」
まずは、ダイヤナと合流して状況を説明する。
「大丈夫です。平気です」
ダイヤナは以前見たような表情で答えた。仲間の死を乗り越えた時の表情だ。仲間の裏切りという出来事も、同じくらい辛いことなのだろう。
そんな彼女にかける言葉を、狼刀は持たない。
「作戦決行は明日の朝だ。デッドール、ダイヤナ、しっかり休んでおけ」
デストロは事務的に告げると、見張りに向かった。
傷には包帯を巻いて応急処置をしただけのはずだが、痛がるような姿は全く見せない。仲間を心配させまいとした態度なのかもしれないが、ダイヤナは心配そうに後ろ姿を見送っていた。
デッドールは寝袋を取り出して、中に入る。彼らは交代で見張りをすると言っていたので、仮眠を取るのだろう。
狼刀は、デストロがいなくなった方向とは反対に向かって歩き出す。見張りに向かうのだ。彼らに付き添う条件のひとつがそれだった。
細かい場所は指定されていない。
狼刀は少し足を延ばして、最奥の間を見に行った。
ダークデモンと瓜二つな顔をした二体の悪魔。合わせて三体の魔物がいる。狼刀はそれだけ確認すると、見張りに戻った。
そして、夜が明けた――のだろう。
「寝不足なら寝てていいぞ」
デストロがデッドールを伴って、狼刀の前に現れた。気にかけているようなセリフだが、本当に気にかけているのなら、一人でずっと見張りをさせたりはしないだろう。
要するに、寝不足を理由に置いていきたいのだ。
「いえ、一緒についていきますよ」
狼刀は元気に答えた。事実として、寝ていないが、行動するには問題ないくらい元気だ。
「ふん。ならついてこい」
デストロは鼻を鳴らして、歩き出す。
デッドールが無言のまま続き、狼刀は一番後ろに続いた。
三人を待ち受けるのは、三体の魔物。数の優劣はない。そこにあるのは、圧倒的な実力の優劣だけだ。
「げへへ、人間の匂いだなぁ」
ダークデモンが動き出す。
「やるぞ!」
デストロが静かに、通る声で呟いた。デッドールがブーメランを飛ばす。具体的な指示を受けていない狼刀は動かなかった。
「飛刃!」
デッドールが指を鳴らす。
ブーメランは爆散し、無数の刃が三体の魔物へ降り注いだ。だが、二体の魔物が杖を振り上げると、刃はドームにでも当たったかのように弾かれる。
そこまでは想定通り、もしくは予想の範囲内だったのだろう。
上を向いた魔物の懐に、デッドールが二つ目のブーメランを投げ入れる。
「飛刃!」
さっきと同じように、ブーメランが爆散。違うのは、爆発によって飛び散る刃の方向だ。無数の刃は二体の魔物のがら空きになった胴体に水平に突き刺さった。
二体の魔物が倒れる。
ダークデモンだけは槍を回転させることで、無数の刃を防いだ。けれど、上からの刃を防いでいたのは、倒れた魔物達だ。
一度は防がれ、弾かれた刃が、重力に引かれ降り注ぐ。
ダークデモンはそんな刃を気にすることなく歩き出した。勢いが足りないのだろう。降るだけの刃では動きを止めることは出来ていなかった。
「待て」
竹刀を握りしめた狼刀を、デストロが止める。
なぜ、と問いかける前に、デッドールが答えを見せた。二本のブーメランを剣のように使って、ダークデモンに斬りかかったのだ。
ダークデモンが槍で防ぐと、デッドールは角度を変えてブーメランを振り下ろす。
一方的ではない攻防だ。
デッドールは二本のブーメランによる手数で攻めているし、ダークデモンは多少の傷は負いながらも、力任せに反撃を放っている。
魔物と痩躯は動き回りながら、攻防を続けた。
「ぐ、ふっ……」
「完了」
倒れたのはダークデモンだ。
「よくやった、デッドール」
デッドールは丁寧に礼をする。
ピンチになったら助太刀しようと考えていた狼刀だったが、決着はついてしまった。
「さあ、重力の石を回収するぞ」
予想外の展開に困惑する狼刀を他所に、デストロは戦斧を突き立てて歩き出す。黒く光る石が隠された壁の窪みへと、真っ直ぐに。
デストロが手を伸ばした。
その手は、窪みの外で止まる。
「あ? なんだ?」
自分の意思で止めたのではないのだろう。不機嫌そうにしかめた表情からもそう判断出来る。
次いで、デッドールが手を伸ばすが、結果は同じだ。
「どうして、届かねぇ」
「何故」
代わる代わる手を伸ばす二人の後ろで、魔物がゆっくりと立ち上がった。体にあったはずの傷は全て消えている。
「後だ!」
狼刀は叫んだ。
その声にデストロが、デッドールが、槍を持った魔物が振り返る。
「げへ!? なんでそこに!?」
狼刀の存在に気がついていなかったようだ。慌てて槍を構え直すが、遅い。
「げへ!?」
狼刀の一撃で、ダークデモンは消滅した。
ついでに、倒れている二体の魔物を消滅させると、狼刀はデストロの前に立った。
「成功報酬もらえますか?」
狼刀がいなければどうなっていたかは、想像にかたくないないはずだ。
「……言え」
デストロは渋い顔で頷いた。
「重力の石を先に使わせてください。終わったら上げますので」
狼刀は笑顔で告げる。怪しさ満点ではなく、心からの感謝を込めて。
「終わったらきっちりもらうぞ」
デストロは吐き捨てるようにいって、穴から離れた。取れないから諦めたというのもあるのだろう。それを感じさせないポーカーフェイスは流石だった。
狼刀は重力の石に手を伸ばし、掴む。
「じゃあ、戻りましょうか」




