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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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暗躍する者

第四十五話。ここにも怪しい人が。って、怪しい人多すぎでしょ。

 狼刀(ろうと)色々な本を見て回っていた。読んで回ったのではない。手に取って開いてみても、最初の数ページを流し読みするだけだ。

 世界観の違う本は、最初こそ目新しさから面白く感じるものの、見慣れてしまえば中身自体はさほど面白くもない。

 何より、似たり寄ったりの設定だったり、ストーリーだったりする本が多すぎるのだ。

 狼刀は飽きていた。


「お待たせしました。王との面会を認めましょう」


 大臣が現れたのは、そんな折だ。

 待ってましたと笑顔を浮かべる狼刀、の横でカイが訊ねる。

「僕もついて行っていいですか?」

「ええ、どうぞ」

 大臣は即答した。

 王に確認する必要はないらしい。そもそも、王はカイのことを知っていた。カイは学者以外にも裏の顔があるのかもしれない。

 狼刀は密かにそう思った。

「では、お二方。ついて来てくだされ」


 実は親子だろうか。


 王座に座する王を見て、最初に思うのはそんな可能性だった。

「ようこそ、おいでくださいました」

「お目にかかれて光栄です」

「こちらこそ」

 狼刀と答えに、サマルカンドが笑顔を浮かべる。

「私はこの城の王。サマルカンド・シャマール・デュース。よろしければ、名前をお教えください」

結城(ゆうき)狼刀です」

「ユウキ・ロウト殿」

 噛みしめるように名前を呟き、サマルカンドは頭を下げた。

「此度はこの城をお救いいただき、ありがとうございます。あなたがいなければ、どうなったいたことか」

 顔を上げたサマルカンドは王の間を見渡し、指示を出す。

「皆の者、下がりなさい」

 大臣や王妃が頭を下げていなくなり、守護を担当していたであろう人々が、二人とは違う方向から出ていった。

 残ったのは、狼刀とサマルカンドとカイだけだ。

「気軽にサマルと呼んでくれ。堅苦しいのは嫌いでね」

 そうは言いつつも、サマルカンドの表情は明るくない。その原因はカイだろう。本人は意識していないと思われるが、視線がカイに釘付けだ。

「カイ、僕に話したいことがあるんだろう? 彼がいても構わないなら話してくれ。他のものは払ったから問題はないだろう」

 耐えきれなくなったかのように、サマルカンドが早口で問う。

「はい。むしろ彼がいる時に話そうと思いまして」

 カイは帽子を脱いでから、頭を下げた。

「なら、話してくれ」

 前回は学者としか呼んでいなかったはずだが、今回は名前で呼んでいる。違いは、他の人がいないから、だ。

 今回の会話を聞く限りは、それなりに気心の知れた仲だと判断するしかないだろう。それを周囲に悟らせないようにするのは何故か。

 狼刀は本題そっちのけで、カイの秘密が気になっていた。

「この方が、決壊の石を持ってきてくださりました」

 そんな思考を、カイの言葉が現実に連れ戻す。

「はい。南西にある紅い塔より持ち帰った宝石です」

「なるほど。なら、すぐに結界を破壊してくれ」

「出来次第すぐに」

 カイの言葉に頷き、サマルカンドは狼刀の方を向いた。

「ユウキ殿。君は結界があっても出入りできるそうだな」

 真剣な、鬼気迫る表情を浮かべる王。

「は、はい」

「なら、エース城に届けてほしい手紙がある。頼めるか」

「はい」

 気迫に押され、狼刀は頷いた。

 サマルカンドは満足そうに微笑む。

「その前に、説明したほうがいいと思うぞ」

 カイが一転して軽い口調で話しかけた。敬意の欠片もない、とても王に向けるとは思えないような言葉使いだ。

「わかったよ」

 それを王は咎めない。


「僕は、この魔法機(ギフト)の力でサマルカンド王のフリをしているだけなんだ」


 その一言を狼刀は理解出来なかった。

 サマルカンドが懐から取り出した手鏡を回して、姿を変化させる。細い体は太くなり、顔は血色を取り戻し、髪の毛は濃い青色になり、短くなった。

 その姿はさっきまでここにいた大臣にそっくりだ。

「プルシアン・ディースバッハ。僕はもともとこの城の大臣だったんだ」

 狼刀は言葉が出なかった。サマルカンド、もといプルシアンの告白は続く。

「エスダルトンに殺されかけてね。僕と王は何とか逃げ延びたんだけど、病弱だったサマルカンド王は死んでしまってね。そのままだと僕が疑われるから、僕が死んだことにして王の姿を借りたんだ。追手を巻いた僕は城に戻ってきた。でも、驚くべき真実が待っていた。エスダルトンが、大臣になってたんだ……」

 狼刀は何も言えない。

「…………」

 黙りこんでしまったプルシアンの代わりに、カイが続ける。

「僕らはエスダルトンの正体を暴こうとしたけどうまくいかなくてね。それで、エース城にはスパイを見破った人がいるという話を聞いて、それにかけてみようと思ったんだ」

 スパイを見破った人。その存在には心当たりがある。けれど、狼刀は会ったことがない。

「その人は、死にました」

 プルシアンもカイも何も言わなかった。

 何も言えなかったと言った方が適当だろうか。僅かに見えた希望が潰えたのだ。言葉がすぐに出るはずもない。

「それは残念です」

 カイが絞り出したのはそんな呟きだけだった。

 プルシアンは手鏡を取り出して、回す。体は細く、血色は悪く、長い青髪を持つ姿は、サマルカンドのものだ。

「この話は忘れてください。ユウキさん」

「あなたはあなたの使命を果たしてください。それから」

 カイは口に指を当て、怪しく続ける。

「今の会話はご内密に」

 狼刀は息を飲んで頷いた。

 サマルカンドはわざとらしく咳払いをして、いつもよりも明るく聞こえる声で宣言する。

「さあ、今日は宴だ。ゆっくりしていってくれ」


 ◇


 狼刀が立ち去ったのを確認して、サマルカンドは深くため息をついた。

「あぁ、疲れた」

 手に持った魔法機(ギフト)を回転させ、元の姿に戻る。それはサマルカンドの姿でもなければ、プルシアンの姿でもない。

 青い髪は短く、色は紫に。プルシアンに変化した時には変えなかった衣装も、本来の紫を基調としたローブに。顔は、今にでも死にそうでもなく、壮年男性のそれでもなく、中性的で整っている。

「いきなり長いセリフ覚えるは大変なんですよ」

 声までも別人だ。

 サマルカンドのか細い声ではなく、見た目通りの中性的で透き通った声。口調まで異なるため、サマルカンドだった人物だと判断することは不可能だろう。

「それで? 目的は何ですか?」

「目的かい?」

 カイの口調は軽いものだ。

「あんな嘘までついて、目的がないわけじゃないんでしょう」

「全てが嘘ではないよ」

 カイは帽子を被り、目を伏せる。

「サマルカンドが襲われかけ、大臣のプルシアンと共に逃げ出したこと。その最中に死んでしまったこと。エスダルトンが大臣に成り代わったこと。全て真実だ」

「そうですね」

「ところで、ラムダ。彼は僕らの話を信じたと思うかい?」

「半信半疑でしょうか?」

「そうだね。となれば、裏を取ろうとするだろう」

「裏?」

「確証を得るための、確認だよ」

 カイは不敵に口角を吊り上げた。

「しかし、あまり表に出ることない大臣が変わっていたことをほとんどの人は知らないだろう。エスダルトンは見た目まで真似ていたから、見たことがある人でも気がつかなかったかもしれない」

「それじゃあ」

「確認はとれない。なら、どうすると思う?」

 問いかけながらも、カイは答えを待たずに続ける。

「大臣に接触するんだよ」

 その言葉に合わせるようにして、王の間に大臣が現れた。玉座に座る人が違うことを気にする様子もない。

 何事もないかのようにカイの隣へ行き、問いかける。

「彼が来ない場合も考えられる」

 最初から聞いていたかのように、的確な指摘だ。

「その場合は大臣から接触させる」

 用意していたかのようにカイが答える。

「どういった理由で」

「神官についての話し合いという体でいこうか」

「話し合いをする場所は」

「死体処理場」

「そこで力を見極め」

「場合によっては始末する」

 ガンっと二人は拳を突き合わせた。


「何のつもりですか? カイさん」

 呆れたような表情を浮かべ、ラムダがため息をつく。

 カイは小さな指揮棒(タクト)を振った。

「ちょっとした遊びだよ」

 それに合わせて、大臣がその場で一回転する。

「より確実に仕掛けたほうかよいのではなくて?」

 声は上から聞こえた。

「王妃マリッジ様。いかがなされましたか?」

 大臣が、天井に立つマリッジに、問いかける。

 マリッジは天井を蹴って床に降りると、大臣の頭を素手で貫いた。

「記憶を改竄する必要があるか? と言っているのだけれど?」

 怒っている。

 ラムダはそう思った。

「ああ、何てことするんだ」

 一方のカイはそう思ってないのだろうか。マリッジを無視し、風穴の空いた大臣に駆け寄った。

「死体遊びはやめてもらえます!?」

 マリッジが怒りと悲鳴の混ざったような声を上げるが、カイは振り向かない。

 ラムダはマリッジの肩に、手を置いた。

「触らないで、血を吸うわよ」

 鋭い瞳で睨みつけられて、慌てて手を引っ込める。彼女の場合、油断していると本気でやられかねないと、ラムダは知っていた。

「一仕事終えたら、宴の前に作戦会議をするよ。君たちはそれまで休んでいてくれ」

 大臣の顔を元に戻したカイが、立ち上がる。

「では、失礼いたします」

 大臣が言って、カイは大臣と共に出て行った。

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