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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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紅い連れ人

第四十二話。ゲストの紅い人は、戦わない。

 狼刀(ろうと)は深紅の塔へとやってきた。血のような紅い塔に、艶やかな紅い髪の女性を連れて。

 ディアスのお願いはデュース城にいる知り合いに会いたいとのことだった。つまり、城を覆っている結界を取り払えばいいのだ。

 それは狼刀の目的とも合致する。

 そのことを説明すると、彼女は一緒に行くと言い出した。

 狼刀ととしても、今日中に終わらせるつもりの用件だ。追い払う必要はないと判断したため、二人で深紅の塔へとやってきたわけである。

「なんだ、お前達?」 

 リーダーらしき神官が誰何した。

「この塔に用事がある。通してもらえるかな?」

 狼刀は問いかけながらも、竹刀を構える。

「通さねぇよ!」

 予想通りの返答だ。

「まかり通る!」

 狼刀は不敵に笑って、飛び出した。

 神官達も各々の武器を構えて襲いかかる。

 狼刀は神官達の間を走り抜けた。必要最低限の攻撃を弾き、受け止め、受け流す。

 傷一つ負うことなく、塔の入口に到達した。

「追ってこい。神官ども!」

 挑発してから、扉を開ける。

 当然、神官達の視線は狼刀に集中した。全く動かず、一言もしゃべらなかったディアスのことは誰も気にしない。


 狼刀を追って塔に挑んだ神官達であったが、追いつくことは出来なかった。彼らは知らぬことであるが、そもそも追いつくことなど不可能なのだ。

 相手は何度もこの塔を登って、慣れている相手なのだから。


 塔の頂上にはいかにもな宝箱がある。その中には紅い宝石が入っているのだろうけれど、狼刀自身がその箱を開けたことはない。

 守護者たる黄金の竜(スカイドラゴン)を倒せないからだ。

「汝。秘宝を求めるか」

 スカイドラゴンが狼刀に問いかける。

「ああ、この秘宝がほしい」

 狼刀は物語を円滑に進めるため、すぐに返事をした。

「ならば、儂と戦いその力を証明してみせるがよい」

「今の私にあなたを倒すことはできません。見逃してくれませんか」

「そうか。ならば今一度力をつけて戻ってくるがよい」

 セリフは少し違ったかもしれないが、スカイドラゴンの動きは変わらない。戻ってきたスカイドラゴンは手を差し伸べて、笑いかける。

「塔の下まで送ってやろうか?」

「お願いします」

 狼刀は笑顔でその手に乗った。


 塔の下にいるのは、ディアスだけだ。

 神官達は塔の中にいるのだろう。どこまで登ったのかはわからないが、頂上についているかもしれない。

 そこに狼刀がいないことに気がつけば、戻ってくるだろう。攻略を諦めて、降りてきているという可能性もある。

「無事に帰れるかの?」

「あなたを倒せる武器のあるところまで、連れて行ってもらえますか?」

 最初の問いかけに、狼刀は答えた。

「よし。承った」

 スカイドラゴンの返事は変わらない。

「あ、彼女も一緒にお願いします」

「よし。承った」

 ディアスの目的地はデュース城だが、置いては行けない。そんな提案を、スカイドラゴンは快諾した。

「あ、飛べるから大丈夫よ」

 断ったのは、ディアスだ。

 軽い身のこなしで馬に跨ると、手綱を握る。

 白馬は(いなな)き、大きな翼で羽ばたいた。

 一羽ばたきで体が浮かび、二羽ばたきで荷台が浮き上がる。三羽ばたきで、天馬と荷台は完全に浮かんだ。

「さあ、行きましょう」

 ディアスは笑う。

「じゃあ、行くかの」

 スカイドラゴンは狼刀を乗せて、飛びたった。


「ケイトール洞窟。ここの最奥にある、重力の石というのが儂を倒すための道具じゃ。武器じゃなくてすまぬな」

 たどり着いたのはいつもと変わらぬ洞窟だ。もっとも、違う洞窟であったとしても狼刀に見分けることは出来ないだろうが。

「お主が道具を探しておる間に、儂は戻るが、塔の入り口で呼んでくれたら迎えに行くでの」

 一通り説明し、スカイドラゴンは北の空へと消えていった。待っていればテントを持ってくるだろうが、狼刀は待たない。

「私はどうしたらいいのよ?」

「ここで、待っててください」

 狼刀はディアスを置いて、洞窟の中へ向かった。

 デストロ達との決着をつけるために。


「一人で来たのか、ボウズよぉ」

 戦斧を担いだ大男は、道を塞ぐように立っていた。生きていることにほっと一息、狼刀は爽やかな笑顔を浮かべる。

「一人です」

「帰んな。ここにある重力の石は、俺たち商会連合がもらい受けるんだ。邪魔しないでもらいたいな」

 デストロが睨みつけるが、狼刀は怯まない。

「用事が済めばあなた方に差し上げます。だから、先に俺にください」

「断る。信頼できる奴としか取り引きはしねぇんだ。てめぇは信頼できねぇ」

 背後から、二つの武器が突きつけられる。

「死にたくなけりゃぁ、とっとと失せな」

 予想通りの展開だ。

「シシとデッドールだったかな。シシのほうに用事がある」

 狼刀は笑みを崩さず、静かに告げる。

 デストロが眉をひそめた。

「なぜ、名前を知っている?」

 戦斧を手に取り、狼刀の首に突きつける。

「答えろ。ボウズ」

「その前に一つ協力してもらえませんか? それが終われば何でもお話ししますので」

 狼刀は両手を上げて敵意がないことをアピール。

 デストロは真っ直ぐに狼刀を睨みつけ、諦めたように息を吐いた。

「ふん。いいだろう」

 デストロは戦斧を収めるが、突きつけられる二つの武器はそのままだ。

「シシ、デッドール武器を収めろ」

 デストロが促して、背後の二人はようやく武器を下ろした。


「魔物には有害ですが、人間には無害です。これを試してもらえますか?」

 狼刀は竹刀を取り出して、自分の腕に叩きつける。

「ほう」

 デストロは狼刀の手から竹刀を奪い取った。一通り観察した後に、それを狼刀の頭に叩きつける。

 容赦のない一撃だ。

 けれど、何も問題はない。

「満足ですか?」

 狼刀は表情一つ変えずに言い放った。

 デストロはもう一度竹刀を確認してから、近くを飛んでいた蝙蝠に竹刀を叩きつける。

 魔物は消滅した。

「確かにそうみたいだな」

 デストロは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。狼刀の言った通りだということが気に入らないのだろうか。

「お願い出来ますか?」

 狼刀が問うと、デストロは自分の腕に竹刀を叩きつけた。

「これで満足か?」

「はい、その調子であと二人もお願いします」

 そんなに強くやらなくてもいいのでは。とは、思いはしてもいいはしない。強さを気にする必要はないのだ。

「やるぞ。デッドール」

「承知」

 デストロが竹刀を振り上げ、デッドールは頭を下げる。直後、デストロは躊躇うことなく竹刀を振り下ろした。

 乾いた音が響く。

 それだけだ。デッドールは消えたりしない。

 デストロは竹刀を振り上げ、シシを見据える。


「シシ。次はお前だ」

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