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無双剣士の異世界魔王討伐  作者: 紫 魔夜
第二章 邪悪な神々
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強い商人

第三十七話。商人だって弱くない。

 目を覚ました狼刀(ろうと)は、スカイドラゴンの待つ塔へと向かって歩き出した。最初の目的地がそこであることは変わらない。

 その道中で、今後の作戦について考える。

 当面の目標はデストロ率いる商会連合(しょうかいれんごう)との対決だ。放置すれば彼らは死ぬし、先に動けば彼らに殺される。

 最優先事項は重力の石の回収だが、そのために無駄な犠牲は出したくない。

 ダイヤナ一人だけなら、用事が終わったらということで話をつけられたが、デストロ達がそれで納得するとは思えなかった。

 と、そこまで考えて狼刀はあることを思い出した。

「ダイヤナはいなかったな」

 狼刀が帰り際に会ったのは、戦斧を持ったデストロという屈強な男、ブーメランを持ったデッドールという痩躯の男、双剣使いのシシの三人だ。

 ダイヤナは見張り役として、外にいたのか。

 先にダイヤナと交渉するという手もあるかもしれないが、外にいるなら重力の石を回収してからデストロ達より先に会うのは、無理だ。

「なんだ、お前は?」

 どうやら深紅の塔に着いたらしい。

 そのことを、狼刀は神官の声から判断した。

「この塔に用事がある。通してもらおうか」

 とは言いつつ、狼刀は刀を構える。言葉には出ていないが、最初から力づくで通り抜けるつもりなのだ。

「通さねぇよ!」

 神官のその返事は、狼刀にとってただのゴーサインだった。

 交渉が決裂したから力で押し通る。

 駆け出した狼刀に遅れて、神官達が杖を槍を錫杖を構えた。

 襲いかかってくる神官を最低限の動きで捌き、狼刀は進む。一撃だって受けることはない。

 かすり傷一つ負うことなく、狼刀は塔の入口に到達した。

「な、なんだ!?」

「こいつ……」

「化け物め」

 口々に騒ぐ神官を無視して、狼刀は塔に入る。

 その後を追った神官達は殺到するがゆえに扉を開けることが出来ず、突入までに時間を要した。


 三度目ともなれば、仕掛けが満載の塔といえども楽しみながら登る余裕が出来てくる。それは例えば窓から見える景色であったり、塔の装飾だったり、あるいは仕掛けの仕組みを考えることだ。

 そんなことをしていれば、あっという間に頂上に辿り着く。

「汝。秘宝を求めるか」

 いつもと同じように、スカイドラゴンが現れた。

「汝。秘宝を求めるか」

 狼刀の中でスカイドラゴンとの会話は通過儀礼となりつつある。大事なのは、同じ会話を演じることなのだ。

「ああ、この秘宝がほしい」

「ならば、儂と戦いその力を証明してみせるがよい」

「今の私にあなたを倒すことはできません。見逃してはくれませんか」

「そうか。ならば今一度力をつけて戻ってくるがよい」

 そう言って天に昇ろうとも降りてくるのだ。スカイドラゴンの行動はどこまでの狼刀の予定通り。

「塔の下まで送ってやろうか?」

「お願いします」

「うむ。乗るがよい」

 それは地上に降りてからも変わらない。

「無事に帰れるかの? なんなら送ってやるぞ? どこか行きたいところでもよいぞ?」

「あなたを倒せる武器のあるところまで、連れて行ってもらえますか?」

「よし。承った」

「え、や、人の話聞いてました?」

「聞いておったぞ。家に帰るより、勝つために動く。実に立派な人間じゃの」

 スカイドラゴンの手に乗り、狼刀はケイトール洞窟に向かった。そこでされる説明は、内容までしっかりと覚えている。すぐに入るからテントを待つ必要もない。

「ケイトール洞窟。ここの最奥にある、重力の石というのが儂を倒すための道具じゃ。武器じゃなくてすまぬな」

 それでも、今後のことを思えば、行動を変えるわけにはいかなかった。

「お主が道具を探しておる間に、儂は戻るが、塔の入り口で呼んでくれたら迎えに行くでの」

 スカイドラゴンは夕暮れの空に消えた。

 狼刀はその姿を見送ってから、洞窟へと入る。分かれ道さえない洞窟を進んでいくのは、仕掛けだらけの塔を登るよりも、よっぽど簡単だ。

 道中にいる魔物は極力倒して、狼刀は大空間の手前にある岩、のさらに手前にある岩の陰に隠れた。そこからならば、三匹の悪魔を一方的に監視することが可能だ。

 例えば、誰かが勝負を仕掛ければその時点で察知することが出来る。

 狼刀が考えついた最善の方法がこれだった。


 日は既に暮れているだろう。デストロ達は夜のうちに入ってくるとして、翌朝までにはダークデモンに挑むはずだ。

 洞窟の中では正確な時間の経過がわからないが、それほど待たないはず――だった。

 狼刀の感覚にして一日くらいが過ぎても、デストロ達は現れない。眠たさが強くなってきて、狼刀は壁にもたれかかって仮眠をとる。

 二日くらいが過ぎても、デストロ達は現れない。

 三日くらいが過ぎても、デストロ達は現れない。

 四日くらいが過ぎても、デストロ達は現れない。

 五日くらいが過ぎたころ、ブーメランが飛来した。仮眠をとっていた狼刀の頭の上を通り抜けて、岩を砕き、杖を持った魔物に突き刺さり、爆散。

「ぐへ!?」

 奇妙な声を上げて、魔物が倒れた。

「げへへ。人間が来たみたいだなぁ」

 槍を持った魔物――ダークデモンが愉しそうに、歩き出す。逃げたとしてもすぐに追いつかれるだろう。

 狼刀は魔物たちの前に躍り出た。

「げへへ。勇気は認めてやるぜ」

 槍を舐めながらしゃべるダークデモン。その影から杖を持った魔物が飛び出した。

 高く掲げた杖を振り下ろしてくる。

 狼刀はその攻撃を刀で受け、竹刀を突き刺した。

「げへ!?」

 悲鳴をあげ、魔物が消滅する。

「げ、へへ。や、やるな。このダークデモン様が、相手をしてやるぜ」

 相手をしてやると言いながら、ダークデモンは後ずさった。

「逃がすか」

 狼刀が追いかけるようにして走り出す。

 ダークデモンは口角を釣り上げた。

「げへへ。引っかかったな。火炎魔法(エルマ)

 ダークデモンは下卑た笑みを浮かべている。渾身の作戦だったようだが、無駄だ。狼刀の歩みを止めることは叶わない。

「げへ!?」

 ダークデモンの顔から余裕の笑みが消えた。

 魔法のせいで狼刀の姿を認識出来なかったのだろう。竹刀を避けることすら出来ずに、ダークデモンは消滅した。

 狼刀は近くに転がっていた魔物を消滅させ、重力の石を回収する。

「ここからが本番、だな」

 飛んできたブーメランから、敵の正体はほぼ検討がついていた。


「へぇ。魔物じゃなかったのか」

 姿を現したデストロが驚いたような顔を浮かべる。どうやら、狼刀をダークデモン達に倒させる算段だったらしい。

 とはいえ、驚きは一瞬だけだ。

 デストロは戦斧を、ローブの男(シシ)痩躯の男(デッドール)も各々の武器を構える。

「作戦は変わらねぇ。やるぞ。てめぇら!」

 デストロの声に合わせて、後ろの二人が動いた。

 デッドールがブーメランを飛ばし、シシは二本の曲刀を逆手に持って飛び出す。

「飛刃!」

 デッドールが指を鳴らした。

 ブーメランが爆散し、無数の刃が狼刀へ降り注ぐ。打ち落とし切れないことは実証済みだ。

 狼刀は後ろに下がって回避。

 その行動を予測していたかのように、降り注ぐ刃の間からブーメランが現れた。そのブーメランは手前で爆散せずに、狼刀の頭上を通り過ぎてから、爆ぜる。

 狼刀の退路を塞ぐように、無数の刃が降り注いだ。

 狼刀は後退を諦め、立ち止まる。

偽獅子牙(ぎししが)

 降り注ぐ刃の中からシシが現れ、曲刀を振り下ろす。その姿はまさしく獲物にかみつこうとする獅子のようだ。

 狼刀は二本の武器で何とか防ぐが、勢いは防ぎきれない。

 僅かに後退した狼刀の背中に、刃が降り注ぐ。

 狼刀の姿勢が崩れた。

 その瞬間を狙い済ましていたシシが、狼刀の首を斬り落とす。

 狼刀には攻撃する暇さえなかった。

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